(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成13年4月8日06時15分
島根県日御碕北西方沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船第一幸榮丸 |
漁船西善丸 |
総トン数 |
95トン |
95トン |
全長 |
38.38メートル |
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登録長 |
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29.00メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
1,323キロワット |
617キロワット |
3 事実の経過
第一幸榮丸(以下「幸榮丸」という。)は、沖合底びき網漁業等に従事する鋼製漁船で、A受審人ほか9人が乗り組み、えび漁の目的で、船首2.00メートル船尾3.25メートルの喫水をもって、平成13年4月7日19時00分、島根県恵曇(えとも)港を発し、同県日御碕北西方沖合の漁場に向かった。
A受審人は、同日21時30分漁場に到着し、航海灯のほかトロール従事船であることを示す緑色及び白色全周灯を点灯して、かけまわし式で約1,700メートルの底びきロープ、網部、再び同じ長さの底びきロープを順次投入して操業を開始した。
ところで、幸榮丸の操業中の船橋当直は、それぞれ15分ほど要する投網時及び揚網時はA受審人が当たり、1時間ほど要する曵網時は機関長が当たることになっていた。
翌8日06時05分A受審人は、出雲日御碕灯台から305度(真方位、以下同じ。)27.6海里の地点で、機関長から船首を090度に向けて揚網に取り掛かった旨の連絡を受け、機関長と交代して単独で船橋当直に当たったが、揚網を開始すると、機関をアイドリング状態として網を巻き上げるため、行き足がほぼなくなって停留状態となり、他船が接近してもそれを避けるための措置は取りがたい状況となっていた。
06時07分A受審人は、漁場を移動するため航行を始めた西善丸を左舷船尾50度1.4海里に視認したが、動静監視を十分に行うことなく、その後同船が自船に向首接近することに気付かず、船首を090度に向けたまま揚網を続行した。
06時12分わずか前A受審人は、西善丸が方位の変化のないまま1,000メートルに接近し、衝突のおそれがある態勢で接近する状態となったが、トロールにより漁ろうに従事する自船に接近する他船はいないものと思い、依然として西善丸の動静監視を十分に行わず、操舵室で後方を向いて腰を降ろしたままテレビ放送を見ていたので、接近する同船に気付かず、警告信号を行わないで、揚網を継続した。
06時15分幸榮丸は、出雲日御碕灯台から305度27.6海里の地点において090度を向いたまま停留して揚網中、その左舷中央部に、西善丸の船首が後方から50度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風力3の東風が吹き、視界は良好であった。
また、西善丸は、沖合底びき漁業に従事する鋼製漁船で、B受審人ほか7人が乗り組み、えび漁の目的で、船首2.0メートル船尾3.0メートルの喫水をもって、同月3日14時00分兵庫県柴山港を発し、日御碕北西方の漁場に向かった。
ところで、西善丸の操業と船橋当直は、前示の幸榮丸の場合と同様に行われていた。
B受審人は、翌4日早朝漁場に到着して操業を開始し、越えて8日早朝まで操業を続け、同日05時40分船首を090度に向けたまま揚網を終えて停留していたとき、レーダーで右舷船首63度1.5海里に幸榮丸の映像を捉え、しばらく同映像を監視して同船が曵網中であることを知った。
06時05分B受審人は、出雲日御碕灯台から306度29.4海里の地点で、漁場を移動することとし、針路を140度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけ10.5ノットの対地速力で進行したが、その直後、同人は、船首方を一瞥することもなく、揚網後の漁獲物を確認するため後部甲板に降りて、操舵室を無人とした。
06時12分わずか前B受審人は、出雲日御碕灯台から305度28.0海里の地点に至って、幸榮丸が正船首方1,000メートルとなり、その後停留して揚網中の同船と衝突のおそれがある態勢で接近したが、船橋を無人としたまま揚網後の漁獲物の確認に気を取られ、幸榮丸の動静監視を十分に行わなかったので、このことに気付かず、同船を避けることなく続航した。
06時15分少し前B受審人は、船首至近に幸榮丸の船体を認め、急いで操舵室に戻ろうとしたが、間に合わず、06時15分西善丸は、原針路原速力のまま、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、幸榮丸は、左舷中央部外板に亀裂を伴う凹損及び船橋部の圧壊を、西善丸は、船首甲板の圧壊をそれぞれ生じたが、のちいずれも修理され、A受審人が左足底部挫創等及び幸榮丸機関長が左臀部挫創のそれぞれ約2週間の加療を要する傷を負った。
(原因)
本件衝突は、島根県日御碕北西方沖合において、南東進中の西善丸が、船橋を無人とし、動静監視不十分で、前路で停留してトロールにより漁ろうに従事する幸榮丸を避けなかったことによって発生したが、幸榮丸が、動静監視不十分で、警告信号を行わなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
B受審人は、島根県日御碕北西方沖合において、トロールにより漁ろうに従事する幸榮丸のレーダー映像を認め、その後漁場を移動する場合、衝突のおそれの有無を判断できるよう、同船の動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかしながら、同人は、漁場移動のため航行を開始した直後、後部甲板に降りて船橋を無人としたまま、漁獲物の確認に気を取られ、幸榮丸の動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、同船に向首進行して衝突を招き、自船の船首甲板に圧壊を、幸榮丸の左舷中央部外板に亀裂を伴う凹損及び船橋部に圧壊をそれぞれ生じさせ、A受審人に左足底部挫創等及び幸榮丸機関長に左臀部挫創をそれぞれ負わせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の五級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
A受審人は、島根県日御碕北西方沖合において、西善丸を認めた場合、衝突のおそれの有無を判断できるよう、同船の動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかしながら、同人はトロールにより漁ろうに従事する自船に接近してくる他船はいないものと思い、西善丸の動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、テレビ放送を見ていて警告信号を行わないまま、同船との衝突を招き、前示の損傷を生じさせるとともに、自らと幸榮丸機関長とが負傷するに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。