(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成14年10月17日07時00分
石川県金沢港
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船開進丸 |
漁船絵美丸 |
総トン数 |
3.58トン |
2.08トン |
全長 |
10.35メートル |
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登録長 |
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7.55メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
漁船法馬力数 |
45 |
45 |
3 事実の経過
開進丸は、刺網漁業等に従事するFRP製漁船で、A受審人が1人で乗り組み、操業の目的で、船首0.2メートル船尾1.2メートルの喫水をもって、平成14年10月17日06時30分石川県金沢港大野川河岸の係留地を発し、同港沖合の漁場に向かった。
A受審人は、大野川を下航したのち、06時57分半わずか過ぎ金沢港西防波堤灯台(以下「西防波堤灯台」という。)から175度(真方位、以下同じ。)1,530メートルの地点で、西防波堤北端付近に向首しようとしたところ、同北端を替わって南下するまき網漁船を認めたので、同漁船と左舷を対して航過するよう針路を016度に定め、機関を回転数毎分2,500にかけ、12.0ノットの対地速力で、手動操舵により進行した。
ところで、A受審人は、開進丸の操舵室の舵輪後方に立って手動操舵に当たると、左舷船首甲板に設置された揚網機により、船首から左舷側13度の範囲に死角を生じて左舷船首方の見通しが悪い状態となっていたので、時々船首を左右に振るなどして死角を補う見張りをする必要があることを承知していた。
06時58分半A受審人は、西防波堤灯台から170度1,250メートルの地点に達したとき、左舷船首10度540メートルのところに漂泊中の絵美丸を視認することができる状況であったが、左舷を航過するまき網漁船に気を取られ、船首を左右に振るなど、死角を補う見張りを十分に行わなかったので、絵美丸の存在に気付かないまま北上を続けた。
06時59分半A受審人は、西防波堤灯台から159度930メートルの地点に達したとき、まき網漁船が左舷方を航過したので、西防波堤北端付近に向く343度の針路としたところ、ほぼ正船首180メートルとなった絵美丸に、衝突のおそれのある態勢で接近したが、依然、死角を補う見張りを十分に行わなかったので、このことにも気付かず、転舵するなど、同船を避けることなく続航中、07時00分西防波堤灯台から158度750メートルの地点において、開進丸は、原針路原速力のまま、その左舷船首部が、絵美丸の右舷船首部に後方から22度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風はほとんどなく、潮候は上げ潮の初期であった。
また、絵美丸は、刺網漁業等に従事するFRP製漁船で、B受審人が1人で乗り組み、操業の目的で、船首0.3メートル船尾1.2メートルの喫水をもって、同日05時00分金沢港の定係地を発し、同港の北方1海里ばかりに敷設した刺網を揚収したのち帰途に就いた。
B受審人は、西防波堤を右舷方300メートルばかり離してほぼこれに沿ってしばらく南下したのち、着岸してからの作業をスムーズに行うために甲板上の漁具を片付けることとし、06時55分前示衝突地点付近に至り、機関をアイドリング状態として漂泊し、船首甲板で片付け作業を開始した。
06時58分半B受審人は、船首を005度に向けていたとき、左舷船尾1度540メートルのところに北上中の開進丸を視認することができる状況であったが、片付け作業に気を取られ、周囲の見張りを十分に行っていなかったので、このことに気付かないまま作業を続けた。
06時59分半B受審人は、開進丸が右舷船尾22度180メートルになり、同船が左転して自船に衝突のおそれのある態勢となって接近する状況となったが、依然、周囲の見張りを十分に行っていなかったので、このことにも気付かず、機関を使用するなど、衝突を避けるための措置をとることなく漂泊中、絵美丸は、005度に向首したまま前示のとおり衝突した。
衝突の結果、開進丸は、左舷船首外板及び揚網機を、絵美丸は、右舷船首外板、揚網機及び操舵室前面ガラス等をそれぞれ損壊したが、のちいずれも修理され、B受審人が、前頭部、左前腕部及び左腰部等に5日間の通院加療を要する打撲傷を負った。
(原因)
本件衝突は、石川県金沢港において、北上中の開進丸が、見張り不十分で、前路で漂泊中の絵美丸を避けなかったことによって発生したが、絵美丸が、見張り不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
A受審人は、石川県金沢港において、漁場に向け北上する場合、揚網機のため左舷船首方に死角があったから、前路で漂泊中の絵美丸を見落とすことのないよう、船首を左右に振るなど、死角を補う見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、左舷を航過するまき網漁船に気を取られ、死角を補う見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、漂泊中の絵美丸に気付かず、同船を避けることなく進行して衝突を招き、自船の左舷船首外板及び揚網機を、絵美丸の右舷船首外板、揚網機及び操舵室前面ガラス等をそれぞれ損壊させ、B受審人の前頭部、左前腕部及び左腰部等に打撲傷を負わせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は、石川県金沢港において、漂泊して漁具の片付け作業を行う場合、衝突のおそれのある態勢となって接近する開進丸を見落とすことのないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、片付け作業に気を取られ、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、接近する開進丸に気付かず、機関を使用するなど、衝突を避けるための措置をとることなく漂泊を続けて同船との衝突を招き、前示の損傷を生じさせたほか、自らが負傷するに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。