(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成12年9月28日09時50分
千葉県金田漁港沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船江芳丸 |
漁船今間丸 |
総トン数 |
0.4トン |
0.4トン |
登録長 |
5.67メートル |
5.67メートル |
機関の種類 |
電気点火機関 |
電気点火機関 |
漁船法馬力数 |
30 |
30 |
3 事実の経過
江芳丸は、採介藻漁業に従事する船外機推進のFRP製漁船で、A受審人(昭和51年7月9日四級小型船舶操縦士免状を取得)が1人で乗り組み、あさり採取の目的で、船首0.2メートル船尾0.6メートルの喫水をもって、平成12年9月28日07時00分千葉県金田漁港の中島地区を発し、同漁港の瓜倉地区沖合の盤州に所在する養貝場であさりを採取し、09時20分同地区の船溜りで水揚げ後、帰途に就いた。
ところで、金田漁港は、中島、瓜倉両地区のほぼ中間地点に高須船溜が位置し、約1キロメートル沖合まで水深0メートルの盤州が拡延しており、中島、瓜倉両地区及び高須船溜から、いずれも北西方向に各掘下げ水路(以下「水路」という。)を設け、各水路幅沿いに竹竿列を配して、同漁港の関係地区等への出入港用に供され、また、盤州は、潮干狩り時期になると、一般に供されるので、盤州の沖側には北東方に約13メートル間隔で、危険水域を示す竹竿列が配されていた。
A受審人は、瓜倉地区の水路を北上して水路北口付近に至り、危険水域の竹竿列に向け反転し、09時48分同水路東側竹竿列のうち、東京湾アクアライン海ほたる灯(以下「海ほたる灯」という。)から153度(真方位、以下同じ。)3,750メートルに位置する竹竿(以下「基点」という。)から、306度360メートルの地点において、針路を093度に定め、船外機のスロットルをほぼ全開にして左手に持ち、右舷船尾部に座り17.5ノットの対地速力で進行した。
間もなく、A受審人は、度々プロペラが海底の砂を巻き上げる状況下、09時49分基点から050度286メートルの地点で、針路を050度に転じたとき、正船首方148メートルに、今間丸の船尾部を認め得る状況であったが、プロペラの砂巻き上げ状態に気を取られて下を向き、見張りを十分に行わなかったので、今間丸を見落としたまま続航した。
こうして、江芳丸は、今間丸を追い越す態勢で衝突のおそれがあるまま接近していることに気付かず、大幅に左転するなり、スロットルを中立にして減速するなど、今間丸の進路を避けずに進行中、09時50分海ほたる灯から140度3,710メートルの地点に相当する、基点から050度830メートルの地点において、原針路原速力のまま、その左舷船首部が、今間丸の右舷船尾端部に、後方から平行に衝突した。
当時、天候は晴で風力4の北風が吹き、潮候は下げ潮の末期で、視界は良好であった。
また、今間丸は、採介藻漁業に従事する船外機推進のFRP製漁船で、B受審人(昭和50年9月12日一級小型船舶操縦士免状を取得)が1人で乗り組み、妻である同乗者1人を乗せ、あさり採取の目的で、船首0.20メートル船尾0.45メートルの喫水をもって、同日07時00分千葉県金田漁港の高須船溜を発し、同漁港の瓜倉地区沖合の盤州に所在する養貝場であさりを採取し、09時30分同地区の船溜りで水揚げ後、帰途に就いた。
B受審人は、瓜倉地区の水路を北上して水路北口付近に至り、危険水域の竹竿列に向け反転し、09時47分基点から306度480メートルの地点において、針路を103度に定め、同乗者が船体中央部で前方を向いて座っている状況下、船外機のスロットルをほぼ半開にして左手に持ち、右舷船尾部に座り、12.7ノットの対地速力で進行した。
09時48分半B受審人は、基点から050度196メートルの地点で、針路を050度に転じ、右舷側7メートルに危険水域の竹竿列を離して続航中、同時49分基点から050度434メートルの地点に達したとき、正船尾方148メートルに、江芳丸の船首部を認め得る状況であったが、後方から迫る同業船はいないものと思い、前方を向いたままだったので、後方の見張りを十分に行うことなく、江芳丸を認めずに進行した。
こうして、今間丸は、自船を追い越す態勢で衝突のおそれがあるまま、江芳丸が接近していることに気付かず、その後大幅に左転するなど、同船との衝突を避けるための協力動作をとらずに続航中、原針路原速力のまま、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、江芳丸の左舷船首部と今間丸の右舷船尾端とに、それぞれ擦過傷を生じた。
衝突直後に江芳丸は、今間丸に右回頭惰力を与えながら、同船に右後方から角度を有して乗り揚げて静止し、のち離船した結果、B受審人が肋骨骨折を、同乗者が腰椎横突起骨折をそれぞれ負った。
(航法の適用)
1 本件の特殊性
本件は、視界良好の状況下に発生したものであるが、その特殊性を列記すると次のとおりである。
(1)発生水域は、プレジャーボートを含む一般船が航行しない水深0メートルの盤州である。
(2)両船は、あさり採取に従事する同型の同業種船で、いつも発生水域付近を航行している。
(3)江芳丸は、定針してから1分後に転針して、その1分後に衝突した。
(4)今間丸は、定針してから1.5分後に転針して、その1.5分後に衝突した。
(5)両船の転針してから衝突までの針路は、いずれも050度と同一である。
(6)両船は、原針路原速力のまま衝突した。
2 適用法規
本件衝突は、前示の特殊水域で発生したものであるが、同水域は、木更津港港界線の北側で、かつ、千葉港港界線の西側に位置しているので、港則法の適用はなく、また、海上交通安全法の適用水域であっても、同法には本件に適用すべき航法はない。
よって、本件には、海上衝突予防法(以下「予防法」という。)を適用することになる。
3 航法
本件は、予防法の定型航法のなかで、江芳丸が転針してから衝突するまでの間に、今間丸の進路を避ける措置がとれる、つまり回避可能性があれば、両船の運航模様からして、予防法第13条の追越し船の航法を適用するのは明らかである。
両船の衝突までの1分間は、時間の絶対値としては短いが、両船の大きさ、運動性能及び速力差を勘案すると、江芳丸が今間丸を正船首方に認め、衝突するおそれがある態勢で迫っているか否かを判断し、避航動作をとるのに要する時間としては、いずれも10秒単位程度で十分である。
すなわち、転針してから衝突までの間に、江芳丸は避航動作をとることができ、今間丸は衝突を避けるための協力動作をとることができる。
したがって、本件は、衝突の1分前を航法適用時期とし、予防法第13条の追越し船の航法をもって律するのが相当で、同航法が成立する以上、船員の常務等を検討する余地はなく、江芳丸は、予防法第16条の避航船として今間丸の進路を避けなければならず、今間丸は、同法第17条の保持船にあたり同条第3項の規定により、衝突を避けるための協力動作をとらなければならなかったものである。
ただし、本件の特殊性に鑑み(かんがみ)、予防法第13条のなかで「追い越される船舶を確実に追い越し、かつ、その船舶から十分に遠ざかるまで」とある文言は、相応しくないので削除し、長さ12メートル未満で汽笛無装備の今間丸に対しては、実行性と効果の期待できない予防法第33条等、音響信号に関する規定の適用を除外した。
(原因)
本件衝突は、千葉県金田漁港沖合において、両船が危険水域の竹竿列沿いに航行中、今間丸を追い越す江芳丸が、見張り不十分で、今間丸の進路を避けなかったことによって発生したが、今間丸が、見張り不十分で、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
A受審人は、千葉県金田漁港沖合において、危険水域の竹竿列沿いに航行する場合、船首方の今間丸を見落とさないよう、見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、プロペラの砂巻き上げ状態に気を取られ、見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、今間丸を見落とし、同船を追い越す態勢で衝突のおそれがあるまま接近していることに気付かず、大幅に左転するなど、同船の進路を避けずに進行して、同船との衝突を招き、江芳丸左舷船首部と今間丸右舷船尾端とに、それぞれ擦過傷を生じさせ、B受審人に肋骨骨折を、同乗者に腰椎横突起骨折をそれぞれ負わせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
B受審人は、千葉県金田漁港沖合において、危険水域の竹竿列沿いに航行する場合、船尾方の江芳丸を見落とさないよう、見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、後方から迫る同業船はいないものと思い、見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、船尾方から自船を追い越す態勢で衝突のおそれがあるまま接近している江芳丸に気付かず、衝突を避けるための協力動作をとらずに進行して衝突を招き、前示の擦過傷と負傷とを生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。