(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成14年5月19日04時45分
静岡県用宗漁港南方沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船政英丸 |
漁船中之家丸 |
総トン数 |
3.36トン |
2.84トン |
全長 |
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11.40メートル |
登録長 |
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9.00メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
漁船法馬力数 |
80 |
70 |
3 事実の経過
政英丸は、タチウオ曳(ひき)縄釣漁業に従事するFRP製漁船で、A受審人が1人で乗り組み、操業の目的で、船首0.50メートル船尾1.50メートルの喫水をもって、平成14年5月19日02時20分静岡県焼津港を発し、同県用宗漁港南方沖合の漁場に向かった。
03時00分A受審人は、漁場に到着し、船尾部から釣り針付きの枝縄を付した長さ100メートルのワイヤロープ製曳縄を投じてゆっくりと航行し、繰り返し操業を行った。
A受審人は、04時35分用宗港沖西防波堤灯台(以下「沖西防波堤灯台」という。)から164度(真方位、以下同じ。)3,000メートルの地点において、針路を135度に定め、機関を微速力前進にかけ、2.5ノットの速力(対地速力、以下同じ。)とし、日出間近なので、所定の灯火を消灯し、船尾甲板に立ち、舵と機関を操作できるリモコンで操舵に当たり、曳縄を行いながら進行した。
04時40分A受審人は、沖西防波堤灯台から161度3,300メートルの地点に達したとき、周囲が明るくなった状況下、左舷船尾84度800メートルのところに、南下中の中之家丸を視認できる状況であったが、船尾方の曳縄の状態を見ることに気を取られ、左舷方の中之家丸を見落とさないよう、見張りを十分に行っていなかったので、同船の存在に気付かなかった。
A受審人は、その後左舷側近距離を無難に航過する態勢の中之家丸が少しずつ右偏し、新たな衝突のおそれが生じたことに気付かず、有効な音響による注意喚起信号を行うことも、間近に接近したとき、右転するなど衝突を避けるための措置をとることもしないまま続航した。
こうして、04時45分少し前A受審人は、ふと前を向いたとき、左舷側至近に中之家丸を視認し、機関を後進にかけたが及ばず、04時45分沖西防波堤灯台から158度3,600メートルの地点において、政英丸は、原針路原速力のまま、その左舷側中央部に、中之家丸の船首部が直角に衝突した。
当時、天候は晴で風力1の南南西風が吹き、視界は良好で、日出は04時41分であった。
また、中之家丸は、タチウオ曳縄釣漁業に従事するFRP製漁船で、B受審人が1人で乗り組み、操業の目的で、船首0.27メートル船尾1.40メートルの喫水をもって、同日03時05分静岡県焼津港を発し、用宗漁港南方沖合の漁場に向かった。
03時30分B受審人は、漁場に到着し、船尾部から釣り針付きの枝縄を付した長さ100メートルのワイヤロープ製曳縄を投じてゆっくりと航行し、繰り返し操業を行った。
B受審人は、04時40分沖西防波堤灯台から146度2,900メートルの地点において、2回目の操業を終えたとき、南西方1海里ばかりのところに漁船群が目に入ったので、漁場を同群の南側に移動することとし、針路を158度に定め、機関を半速力前進にかけ、6.0ノットの速力とし、所定の灯火を掲げ、手動操舵により進行した。
定針時、B受審人は、周囲が明るくなった状況下、右舷船首61度800メートルのところに、南下中の政英丸を視認することができる状況であったが、船首方の漁船群を見ることに気を取られ、右舷方の政英丸を見落とさないよう、見張りを十分に行っていなかったので、同船の存在に気付かなかった。
B受審人は、間もなく、揚収したはずの漁具が船尾から海中へ流れ出ていることを知り、操舵室から出て船尾甲板で、その回収作業を行っていたところ、少し右舵が取られていたものか、やがて自船の針路が少しずつ右偏する状況となり、その後右舷側近距離を無難に航過する態勢の政英丸に対し、新たな衝突のおそれを生じさせたばかりか、行きあしを停止するなど、衝突を避けるための措置をとることなく続航した。
04時45分わずか前B受審人は、ようやく船首方至近に政英丸を初めて視認し、左舵一杯を取り、機関を後進にかけたが及ばず、中之家丸は、船首が225度を向いたとき、原速力のまま、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、政英丸は左舷側中央部に破損を生じて転覆し、僚船により焼津港に曳航され、中之家丸は船首部に亀裂を生じたが、のち両船とも修理された。
(原因)
本件衝突は、静岡県用宗漁港南方沖合において、漁場移動のため南下中の中之家丸が、見張り不十分で、無難に航過する態勢の政英丸に対し、新たな衝突のおそれを生じさせたばかりか、衝突を避けるための措置をとらなかったことによって発生したが、曳縄しながら南下中の政英丸が、見張り不十分で、有効な音響による注意喚起信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
B受審人は、静岡県用宗漁港南方沖合において、漁場移動のため南下する場合、右舷方の政英丸を見落とさないよう、見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、船首方の漁船群を見ることに気を取られ、見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、政英丸の存在に気付かず、その後操舵室から出て船尾甲板で漁具の回収作業を行い、やがて自船の針路が少しずつ右偏する状況となり、右舷側近距離を無難に航過する態勢の政英丸に対し、新たな衝突のおそれを生じさせたばかりか、行きあしを停止するなど、衝突を避けるための措置をとることなく進行して衝突を招き、政英丸の左舷側中央部に破損を生じて転覆させ、自船の船首部に亀裂を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
A受審人は、静岡県用宗漁港南方沖合において、曳縄しながら南下する場合、左舷方の中之家丸を見落とさないよう、見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、船尾方の曳縄の状態を見ることに気を取られ、左舷方の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、その後左舷側近距離を無難に航過する態勢の中之家丸が少しずつ右偏し、新たな衝突のおそれが生じたことに気付かず、間近に接近したとき、右転するなど衝突を避けるための措置をとらずに進行して中之家丸との衝突を招き、前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。