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平成14年横審第136号
件名

警備艇第2あらいそプレジャーボート大田川ジャパン衝突事件
二審請求者〔補佐人峰 隆男〕

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成15年6月9日

審判庁区分
横浜地方海難審判庁(黒田 均、阿部能正、稲木秀邦)

理事官
松浦数雄

受審人
A 職名:第2あらいそ船長 操縦免許:小型船舶操縦士
B 職名:大田川ジャパン船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
あらいそ・・・船首部外板に擦過傷
大田川・・・・右舷船尾部外板に亀裂を伴う損傷、のち転覆
船長が左前腕などに挫傷、同乗者1人が左大腿骨骨折

原因
あらいそ・・・見張り不十分、船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
大田川・・・・動静監視不十分、注意喚起信号不履行、船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は、第2あらいそが、見張り不十分で、漂泊中の大田川ジャパンを避けなかったことによって発生したが、大田川ジャパンが、動静監視不十分で、注意喚起信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Bを戒告する。
 受審人Aに対しては懲戒を免除する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成14年10月8日10時47分
 愛知県伊良湖港
 
2 船舶の要目
船種船名 警備艇第2あらいそ プレジャーボート大田川ジャパン
総トン数 4.9トン  
全長 12.60メートル  
登録長   6.89メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 264キロワット 77キロワット

3 事実の経過
 第2あらいそ(以下「あらいそ」という。)は、船体前部に操舵室を有する漁船型のFRP製安全パトロ−ル艇で、A受審人が1人で乗り組み、伊良湖水道航路における漁船の航法指導の目的で、船首0.4メートル船尾1.2メートルの喫水をもって、平成14年10月8日08時25分三重県鳥羽港の定係地を発し、同航路に向かった。
 A受審人は、伊良湖水道航路を北上する巨大船を見送ったのち、09時20分朝日礁の北東付近で漂泊して監視を始め、その後神島付近に移動し、操業中の漁船が少なかったので愛知県伊良湖港で待機することとし、10時40分少し過ぎ神島灯台から048度(真方位、以下同じ。)1,150メートルの地点において、針路を伊良湖水道航路を横断し同港に向かう025度に定め、機関を半速力前進にかけ10.0ノットの対地速力とし、操舵輪後方のいすに腰掛けて見張りに当たり、手動操舵により進行した。
 10時44分少し前A受審人は、伊良湖岬灯台から221度1.2海里の地点に達したとき、正船首方1,000メートルのところに、大田川ジャパン(以下「大田川」という。)を視認することができる状況であったが、左舷前方を南下中の巨大船に気をとられ、船首方の見張りを十分に行わなかったので、大田川の存在に気付かなかった。
 A受審人は、大田川に向首したまま接近したが、ほとんど移動しないことから漂泊中とわかる同船を避けずに続航中、10時47分伊良湖岬灯台から234度1,200メートルの地点において、あらいそは、原針路原速力のまま、その船首部が大田川の右舷船尾部に直角に衝突し、乗り上げた。
 当時、天候は曇で風力3の西北西風が吹き、潮候は下げ潮の中央期で、付近には微弱な南東流があった。
 また、大田川は、FRP製プレジャーボートで、B受審人が1人で乗り組み、友人3人を同乗させ、釣りの目的で、船首0.5メートル船尾1.0メートルの喫水をもって、同日04時55分愛知県東海市の定係地を発し、伊良湖水道の釣り場に向かった。
 B受審人は、神島の西側で餌にする魚を釣ったのち、07時40分前示衝突地点付近の釣り場に至り、機関を中立運転として漂泊し、自らは右舷中央部に右舷方を向いた姿勢で腰掛け、同乗者をその左舷側と両舷船尾部とに配置し、船体が南東方に圧流されると潮上りを繰り返しながら、それぞれが釣りを行った。
 10時44分少し前B受審人は、衝突地点において、船首が115度に向いていたとき、右舷正横1,000メートルのところに、自船に向け接近するあらいそを視認したが、釣果を聞きにきたものと思い、動静監視を十分に行わなかったので、同船が自船に向首したまま接近していることに気付かなかった。
 B受審人は、あらいそに対し注意喚起信号を行わず、さらに同船が間近に接近しても、その場から少し移動するなど、衝突を避けるための措置をとらずに漂泊中、10時47分少し前至近に迫ったあらいそを認めたものの、どうすることもできず、大田川は、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、あらいそは、船首部外板に擦過傷を生じ、大田川は、右舷船尾部外板に亀裂を伴う損傷を生じて転覆したが、のち神島に曳航された。また、B受審人が左前腕などに挫傷を負ったほか同乗者1人が左大腿骨などを骨折した。

(原因)
 本件衝突は、愛知県伊良湖港において、北上中のあらいそが、見張り不十分で、漂泊中の大田川を避けなかったことによって発生したが、大田川が、動静監視不十分で、注意喚起信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 B受審人は、愛知県伊良湖港において、釣りのため漂泊中、自船に向け接近してくるあらいそを視認した場合、衝突のおそれの有無を判断できるよう、動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、釣果を聞きにきたものと思い、動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、同船が自船に向首したまま接近していることに気付かず、その場から少し移動するなど、衝突を避けるための措置をとらないまま漂泊を続けて衝突を招き、あらいその船首部外板に擦過傷を、大田川の右舷船尾部外板に亀裂を伴う損傷をそれぞれ生じさせ、自らが左前腕などに挫傷を負ったほか同乗者1人が左大腿骨などを骨折するに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 A受審人は、愛知県伊良湖港を北上する場合、大田川を見落とさないよう、船首方の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、左舷前方を南下中の巨大船に気をとられ、船首方の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、大田川の存在に気付かず、漂泊中の同船を避けないまま進行して衝突を招き、前示の損傷と負傷を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の小型船舶操縦士の業務を1箇月停止すべきところ、同人が30年にわたり職務に尽瘁した功績によって昭和56年6月1日運輸大臣から表彰された閲歴に徴し、同法第6条を適用してその懲戒を免除する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図





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