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平成15年仙審第7号
件名

漁船明雄丸漁船第八友栄丸衝突事件(簡易)

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成15年6月19日

審判庁区分
仙台地方海難審判庁(勝又三郎)

理事官
熊谷孝徳

受審人
A 職名:明雄丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士
B 職名:第八友栄丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
明雄丸・・・バルバスバウを欠損及び船首部外板に亀裂を伴う破口
友栄丸・・・右舷中央部外板に亀裂を伴う破口、機関室囲壁を圧壊

原因
明雄丸・・・見張り不十分、追い越しの航法(避航動作)不遵守(主因)
友栄丸・・・見張り不十分、警告信号不履行(一因)

裁決主文

 本件衝突は、第八友栄丸を追い越す明雄丸が、見張り不十分で、第八友栄丸を確実に追い越し、かつ、十分に遠ざかるまでその進路を避けなかったことによって発生したが、第八友栄丸が、見張り不十分で、警告信号を行わなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Bを戒告する。
 
裁決理由の要旨

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成14年10月12日10時50分
 福島県相馬郡小高町村上東方沖合
 
2 船舶の要目
船種船名 漁船明雄丸 漁船第八友栄丸
総トン数 6.6トン 4.8トン
全長 16.70メートル 15.38メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 426キロワット 330キロワット

3 事実の経過
 明雄丸は、しらすひき網漁業に従事するFRP製漁船で、一級小型船舶操縦士の操縦免許を受有するA受審人ほか2人が乗り組み、操業の目的で、船首0.3メートル船尾1.5メートルの喫水をもって、平成14年10月12日03時00分福島県請戸漁港を発し、鵜ノ尾埼北東方沖合の漁場に至って操業し、09時40分ごろしらす250キログラムを獲たところで操業を止めて漁場を発進し、同漁港に向けて帰途に就いた。
 09時58分少し前A受審人は、鵜ノ尾埼灯台から089度(真方位、以下同じ。)3.2海里の地点に達したとき、針路を179度に定め、機関を全速力前進にかけ、18.0ノットの対地速力(以下「速力」という。)で自動操舵として進行した。
 ところで、A受審人は、自船が18.0ノットの速力で航走すると船首が浮上し、操舵室の中央に立った姿勢で前方を見通すと、各舷に約5度の範囲で死角を生じることから、平素は同室両舷の窓を開け、そこから顔を出したり、船首を左右に振るなどして前路の見張りに当たっていた。
 10時23分わずか過ぎA受審人は、自船と同じ漁港に向けて南下中の第八友栄丸(以下「友栄丸」という。)が、自船の右舷正横約100メートルのところを追い越して行くのを認め、同時32分半東北電力原町火力発電所専用港北防波堤灯台(以下「北防波堤灯台」という。)から142度1,700メートルの地点に達したとき、針路を沖側に向く175度に転じて続航し、同時45分自船を追い越した友栄丸が、左舷船首1度1.3海里のところで、減速して漁網に付着したごみ等を洗い落とす作業を始めたことから、今度は自船が友栄丸を追い越す態勢となり、その後操舵室前部のテーブルに向かい帰航後に連絡する操業位置及び帰航開始位置等のメモを作成しながら進行した。
 10時48分わずか前A受審人は、北防波堤灯台から170度5.5海里の地点に達したとき、左舷船首2度1,000メートルのところに友栄丸を視認でき、同船を追い越す態勢で接近していることを認め得る状況であったが、自船を追い越した友栄丸がすでにはるか前方に行ったので前路に他船はいないものと思い、船首を左右に振るなどして死角を補う見張りを十分に行わなかったのでこの状況に気付かず、その後、友栄丸の右方に向け大幅に針路を替えるなど同船を確実に追い越し、かつ、十分に遠ざかるまでその進路を避けることなく続航し、同時48分半同船が徐々に右転を始めたことにも気付かなかった。
 明雄丸は、同一針路、速力で進行中、10時50分北防波堤灯台から170度6.1海里の地点において、原針路、原速力のまま、その船首部が友栄丸の右舷中央部に後方から25度の角度で衝突した。
 当時、天候は晴で風力1の南西風が吹き、潮候は下げ潮の中央期で、視界は良好であった。
 A受審人は、船体に受けた衝撃で衝突したことに気付き、事後の措置にあたった。
 また、友栄丸は、しらすひき網漁業に従事するFRP製漁船で、一級小型船舶操縦士(5トン限定)の操縦免許を受有するB受審人ほか1人が乗り組み、操業の目的で、船首0.3メートル船尾1.6メートルの喫水をもって、同日04時00分請戸漁港を発し、鵜ノ尾埼北東方沖合の漁場に至って操業し、09時52分ごろしらす160キログラムを獲たところで操業を止めて漁場を発進し、同漁港に向けて帰途に就いた。
 B受審人は、操舵室後方の船尾甲板上に立って遠隔操舵装置で操船し、甲板員に前部甲板上で入港準備をさせ、10時03分少し過ぎ鵜ノ尾埼灯台から095度3.7海里の地点に達したとき、針路を東北電力原町火力発電所専用港沖合に向く185度に定め、機関を回転数毎分2,500の全速力前進にかけ、22.0ノットの速力で進行した。
 10時23分わずか過ぎB受審人は、自船の左舷側を南下中の明雄丸を追い越したのを認め、同時30分少し前北防波堤灯台から142度740メートルの地点に達したとき、針路を172度に転じて続航した。
 B受審人は、しばらく南下したところ、数隻の僚船が減速して漁網に付着したごみ等を洗い落とす作業をしていたので、自船でも行うこととし、10時45分機関の回転数を下げて微速力前進とし、2.0ノットの速力で漁網洗いを始め、同時48分わずか前北防波堤灯台から171度6.1海里の地点に達したとき、左舷船尾1度1,000メートルのところに明雄丸が接近し、自船にほぼ向首したまま追い越す態勢で接近していることを認め得る状況であったが、漁網洗いに夢中になり、後方の見張りを十分に行っていなかったのでこの状況に気付かず、電気ホーンにより警告信号を行うことなく進行した。
 10時48分半B受審人は、徐々に右回頭を始めたのを知り、同時50分少し前前部甲板上から船尾甲板上に移ってきた甲板員が自船に向かってくる明雄丸を初認し、大声で叫んだので、右舷船尾方を見たところ、至近に迫った同船に気付き、直ちに機関を後進にかけたが及ばず、船首が200度を向いたとき、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、明雄丸はバルバスバウを欠損及び船首部外板に亀裂を伴う破口を生じ、友栄丸は右舷中央部外板に亀裂を伴う破口、機関室囲壁を圧壊及び操舵室に損傷を生じ、機関室と魚倉に浸水したが、明雄丸と僚船により造船所に引き付けられ、のちいずれも修理された。

(原因)
 本件衝突は、福島県相馬郡小高町村上東方沖合において、友栄丸を追い越す明雄丸が、見張り不十分で、友栄丸を確実に追い越し、かつ、十分に遠ざかるまでその進路を避けなかったことによって発生したが、友栄丸が、見張り不十分で、警告信号を行わなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、福島県相馬郡小高町村上東方沖合において、前方の見通しの悪い明雄丸を操船し、操業後同沖合を南下して帰航する場合、前路の友栄丸を見落とさないよう、船首を左右に振るなどして死角を補う見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかしながら、同人は、前路に他船はいないものと思い、死角を補う見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、友栄丸に気付かず、同船の進路を避けずに進行して衝突を招き、明雄丸のバルバスバウの欠損及び船首部外板に亀裂を伴う破口を生じさせ、友栄丸の右舷中央部外板に亀裂を伴う破口、機関室囲壁を圧壊及び操舵室に損傷を生じさせ、機関室と魚倉に浸水するに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B受審人は、福島県相馬郡小高町村上東方沖合において、漁網洗いを行いながら帰航する場合、後方から接近する明雄丸を見落とさないよう、後方の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかしながら、同人は、漁網洗いに夢中になり、後方の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、接近する明雄丸に気付かず、警告信号を行わないまま進行して衝突を招き、前示の損傷を生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。 


参考図





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