(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成14年7月30日05時23分
北海道鳧舞漁港
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船第3光恵丸 |
漁船重宝丸 |
総トン数 |
1.39トン |
0.99トン |
登録長 |
7.16メートル |
7.80メートル |
機関の種類 |
電気点火機関 |
電気点火機関 |
漁船法馬力数 |
30 |
30 |
3 事実の経過
第3光恵丸(以下「光恵丸」という。)は、こんぶ漁に従事するFRP製漁船で、A受審人(昭和50年1月一級小型船舶操縦士免状取得)が1人で乗り組み、操業の目的で、船首0.2メートル船尾0.3メートルの喫水をもって、平成14年7月30日05時22分少し前北海道鳧舞漁港東端の東護岸内側の係留地を発し、港口付近の漁場に向かった。
ところで、鳧舞漁港は、同港西端から南西方に延びる西防波堤、同港東端から南西方に延び、西方に屈曲した東護岸、その先端から南西方に延びる東防波堤、同防波堤先端から北西に向き、更に北向きに屈曲した南防波堤により囲まれ、西防波堤先端と南防波堤先端との間が西方に開く港口となっていた。また、北側中央部から南西方に突き出した物揚場、その東側の船揚場及び東護岸内側の係留地により港奥に船だまりが形成されていた。
A受審人は、物揚場から先に発した僚船(以下「第三船」という。)に続いて出航することにし、発進直後、針路を港口の中央に向く277度(真方位、以下同じ。)に定め、機関を極微速力前進にかけて4.0ノットの対地速力(以下「速力」という。)とし、船尾に立ち船外機の舵柄を握って進行した。
05時22分わずか前A受審人は、三石港外南防波堤灯台から116度3.2海里の鳧舞漁港南防波堤先端に位置する赤色灯灯柱(以下「南防波堤赤色灯灯柱」という。)から093度205メートルの地点に達したとき、港口に向かう重宝丸を左舷船首5度65メートルに視認でき、その後同船を追い越す態勢で接近していることが分かる状況であったが、前路には第三船しかいないものと思い、右舷方の西防波堤内側に係留している網起こし船の出漁準備の様子に気をとられ、前路の見張りを十分に行わなかったので、これに気付かず、重宝丸の右舷側に出て航行するなど、同船を確実に追い越し、かつ、十分に遠ざかるまでその進路を避けることなく続航した。
05時23分少し前A受審人は、南防波堤赤色灯灯柱から087度85メートルの地点に達したとき、第三船が西防波堤付近で増速したのを見て、機関を全速力前進にかけ9.0ノットとして進行中、05時23分南防波堤赤色灯灯柱から068度30メートルの地点において、光恵丸は、原針路、原速力で、その左舷船首部が重宝丸の右舷船尾部に後方から3度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風力1の西北西風が吹き、潮候は上げ潮の末期であった。
また、重宝丸は、主としてこんぶ漁に従事するFRP製漁船で、操業の目的で、船首0.1メートル船尾0.3メートルの喫水をもって、同日05時20分鳧舞漁港の船揚場前を発し、港口付近の漁場に向かった。
発進直後、B受審人(昭和50年1月一級小型船舶操縦士免状取得)は、第三船が物揚場で出港準備をしているのを見て、同船を追尾してともに漁場に向かうことにし、物揚場から40メートルばかり東側で停留して待機するうち、第三船が港口に向け南下を始めたので、05時21分少し過ぎ発進して同船を追尾し、同時22分少し前南防波堤赤色灯灯柱から094度145メートルの地点に達したとき、針路を港口中央に向く280度に定め、機関を極微速力前進にかけて3.0ノットの速力とし、船尾端に腰を掛けて船外機の舵柄を握り、第三船を船首少し右舷方に見て進行した。
05時22分わずか前B受審人は南防波堤赤色灯灯柱から093度135メートルの地点に達したとき、右舷船尾8度65メートルに光恵丸を視認でき、その後自船を追い越す態勢で接近していることが分かる状況であったが、第三船の追尾に気をとられ、後方の見張りを十分に行っていなかったので、これに気付かず、光恵丸に対し、避航を促す有効な音響信号を行わないまま進行中、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、光恵丸は、左舷船首部外板に破口等を、重宝丸は、右舷船尾端に圧壊をそれぞれ生じ、のち修理され、B受審人が頭部打撲傷等を負った。
(原因)
本件衝突は、北海道鳧舞漁港において、両船が相前後して出航する際、重宝丸を追い越す光恵丸が、見張り不十分で、前路を航行中の重宝丸の進路を避けなかったことによって発生したが、重宝丸が、見張り不十分で、避航を促す有効な音響信号を行わなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
A受審人は、鳧舞漁港において、漁場に向け出航する場合、前路を航行中の重宝丸を見落とすことのないよう、前路の見張りを十分に行うべき注意義務があった。ところが、同人は、前路には第三船しかいないものと思い、右舷方の西防波堤内側に係留している網起こし船の出漁準備の様子に気をとられ、前路の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、重宝丸を追い越す態勢で接近していることに気付かず、同船の進路を避けないまま進行して重宝丸との衝突を招き、光恵丸の左舷船首部外板に破口等を、重宝丸の右舷船尾端に圧壊をそれぞれ生じさせ、B受審人に頭部打撲傷等を負わせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は、鳧舞漁港において、漁場に向け出航する場合、後方から接近する光恵丸を見落とすことのないよう、後方の見張りを十分に行うべき注意義務があった。ところが、同人は、第三船の追尾に気をとられ、後方の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、光恵丸が自船を追い越す態勢で接近していることに気付かず、避航を促す有効な音響信号を行わないまま進行して光恵丸との衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせ、自らも負傷するに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。