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 海難審判庁裁決録 >  2003年度(平成15年) > 衝突事件一覧 >  事件





平成15年函審第9号
件名

貨物船第十一新栄丸防波堤衝突事件
二審請求者〔理事官千手末年〕

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成15年6月17日

審判庁区分
函館地方海難審判庁(古川隆一、岸 良彬、黒岩 貢)

理事官
千手末年

受審人
A 職名:第十一新栄丸船長 海技免状:四級海技士(航海)

損害
新栄丸・・・・球状船首に亀裂を含む凹損等
ケーソン・・・亀裂等の損傷及び港内側への位置ずれ

原因
新栄丸・・・・見張り不十分

主文

 本件防波堤衝突は、見張りが十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aの四級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成14年10月23日21時00分
 北海道白老港
 
2 船舶の要目
船種船名 貨物船第十一新栄丸
総トン数 696トン
全長 73.56メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 1,471キロワット

3 事実の経過
 第十一新栄丸(以下「新栄丸」という。)は、主として砂利運搬に従事する船尾船橋型鋼製貨物船で、A受審人ほか4人が乗り組み、空倉のまま、船首1.75メートル船尾4.50メートルの喫水をもって、平成14年10月21日14時45分千葉県木更津港を発し、北海道白老港に向かった。
 ところで、白老港は、陸岸沿いに南西方に延びる東防波堤と、南西部のふ頭から東防波堤先端に向け南東方に延びる外防波堤とで囲まれ、両防波堤先端により形成される港口の幅が210メートルとなっており、アヨロ鼻灯台から055度(真方位、以下同じ。)6.6海里の地点の東防波堤先端に赤色灯灯柱(以下「東防波堤赤色灯」という。)が、外防波堤先端に緑色灯灯柱がそれぞれ位置していた。
 当時、白老港では、外防波堤を東防波堤先端に向け南東方に約70メートル延長する工事が行われていて、ケーソンが外防波堤先端に接続し、ケーソン東端上に緑色及び黄色各簡易標識灯が、またその工事区域を示す点滅式黄色灯付浮標が、東防波堤赤色灯から278度120メートル、334度120メートル、316度270メートル及び293度270メートルの各地点に設置され(以下、これらの灯付浮標を順に「3号黄色灯浮標」、「4号黄色灯浮標」、「5号黄色灯浮標」、「6号黄色灯浮標」という。)、3号及び4号各黄色灯浮標と東防波堤との間は約100メートルとなっていた。そして、東防波堤先端東方130メートルの地点から防波堤(以下「島防波堤」という。)が南西方向に410メートル延び、これの延長工事も行われており、工事区域南端及び南西端を示す点滅式黄色灯付浮標が東防波堤赤色灯から192度950メートル及び210度900メートルの各地点に設置されていた(以下、これらの灯付浮標を順に「1号黄色灯浮標」、「2号黄色灯浮標」という。)。
 また、A受審人は、平成14年8月新栄丸に乗船して船長職に就き、9月1日白老港に入港して以来、頻繁に同港に来航して港内事情を把握し、島及び外各防波堤周辺に黄色灯浮標が設置され、両防波堤が延長工事中であることを知っており、平素、夜間に入航する際は、外防波堤東側の3号及び4号各黄色灯浮標を肉眼で確認したうえレーダーで外防波堤と東防波堤の映像を見て両黄色灯浮標と東防波堤との間を通航して積荷岸壁に着岸していた。
 新栄丸は、2台のレーダーを備え、1号レーダーにはGPSプロッターが組み込まれており、航海用電子参考図(以下「電子参考図」という。)ICカードを装着することにより海図データとGPSによる自船の船位をレーダー映像に重ね合わせてレーダー画面上に表示する機能を有し、木更津港停泊中に東京湾から北海道沿岸までの同ICカードが納品され、この機能が使用できるようになった。
 しかしながら、GPSプロッターの取扱説明書冒頭において、表示される電子参考図とGPSデータには機械の誤動作等により誤差を生じることがあるため航海上はあくまで参考としてのみ使用するよう注意書きが記載されており、使用者には、航海の安全のため入港時等正確な位置を把握する際は電子参考図及びGPSプロッターに依存せず、肉眼やレーダーによる見張りを行って自船の位置を確認することが求められていた。
 出港後A受審人は、電子参考図及びGPSプロッターを使用して北上し、翌々23日20時14分半白老港まで3.5海里付近に達したとき、昇橋して自ら操船に当たり、乗組員を入港配置に就け、同時25分東防波堤赤色灯から119度2.2海里の地点に達したとき、針路を港口南方1,000メートルに向く284度に定め、機関を半速力前進にかけて6.0ノットの対地速力(以下「速力」という。)で進行した。
 A受審人は、20時47分1号黄色灯浮標を右舷正横50メートルに通過して速力を4.5ノットに減じ、同時49分少し前東防波堤赤色灯から206.5度1,030メートルの地点に達したとき、2号黄色灯浮標を右舷船首80度140メートルに見て、右転を開始した。
 その際、A受審人は、1号及び2号レーダーを作動し、1号レーダー画面に電子参考図とGPSプロッターを表示し、これだけを見て入航することを思い立ち、レーダー映像を消して同画面を見ながら右回頭を続けた。
 20時51分半わずか過ぎA受審人は、東防波堤赤色灯から223度770メートルの地点に達したとき右回頭を終え、機関を極微速力前進として3.0ノットの速力に減じるとともに電子参考図を見て針路を画面上の外及び東各防波堤間の中央部に向く026度に定めたところ、外防波堤東端のケーソンに向首することとなったが、電子参考図とGPSプロッターのみでも無難に入航できるものと思い、肉眼及びレーダーを活用するなど、見張りを十分に行わなかったので、これに気付かず、3号及び4号各黄色灯浮標と東防波堤との間に向け針路を転ずる措置をとらないまま続航した。
 こうして、A受審人は、電子参考図のみを頼りにこれを監視して進行中、21時00分少し前ふと1号レーダー画面から顔をあげたとき、正船首至近に緑色灯を認めて驚き、直ちに機関中立、バウスラスターを使用して右転を開始したものの効なく、21時00分新栄丸は、東防波堤赤色灯から305度230メートルの地点において、船首が029度を向いたとき、原速力で、その船首がケーソンにほぼ直角に衝突した。
 当時、天候は晴で風力2の南西風が吹き、潮候は下げ潮の末期にあたり、視界は良好であった。
 衝突の結果、新栄丸は、球状船首に亀裂を含む凹損等を生じたが自力で離れて予定岸壁に着岸し、ケーソンは、亀裂等の損傷及び港内側への位置ずれを生じ、のちそれぞれ修理された。

(原因)
 本件防波堤衝突は、夜間、北海道白老港に入航する際、見張り不十分で、延長工事中の防波堤に向首したまま進行したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、夜間、白老港に入航する場合、レーダーに組み込まれた電子参考図とGPSプロッターには誤差を生じることがあるから、肉眼及びレーダーを活用するなど、前路の見張りを十分に行うべき注意義務があった。ところが、同人は、電子参考図とGPSプロッターのみでも無難に入航できるものと思い、レーダー映像を消してレーダー画面の電子参考図のみを頼りにこれを監視して入航し、前路の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、延長工事中の防波堤に向首したまま進行してケーソンとの衝突を招き、新栄丸の球状船首に亀裂を含む凹損等を、ケーソンに亀裂等の損傷及び港内側へ位置ずれをそれぞれ生じさせた。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の四級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。

 よって主文のとおり裁決する。





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