(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成14年6月16日08時00分
長崎県福江市臼岳南方沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
瀬渡船おうしま |
漁船松福丸 |
総トン数 |
6.2トン |
1.38トン |
登録長 |
11.91メートル |
6.00メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
279キロワット |
|
漁船法馬力数 |
|
9 |
3 事実の経過
おうしまは、FRP製の遊漁船兼交通船で、A受審人が1人で乗り組み、知人のB受審人ほか1人を同乗させ、船首0.50メートル船尾0.84メートルの喫水をもって、釣り客を瀬渡しする目的で、平成14年6月16日07時35分長崎県黄島漁港を発し、同県塩津漁港に寄せて釣り客3人を乗船させたのち、同時55分同港を発進し、同県黄島の瀬渡し地点に向かった。
A受審人は、07時57分わずか過ぎ長崎県福江市臼岳125メートル三角点(以下「臼岳」という。)から255.5度(真方位、以下同じ。)730メートルの地点に達したとき、針路を180度に定め、機関を全速力前進にかけて20.0ノットの対地速力(以下「速力」という。)とし、手動操舵により進行した。
ところで、A受審人は、当日03時ごろから瀬渡しを始め、本件時の航海が5航海目で、早朝からの就労により、定針するころから眠気を催すようになり、B受審人に操船を任せることにしたが、以前、同人が数回自船に乗船して操船した経験があったことから、当然、同人も全速力で航行すると船首方に死角を生じることを知っており、広い海域なら同人に操船を任せても大丈夫と思い、船首方に死角を生じることなどを説明し、前路の見張りを十分に行うよう指示することなく、定針したとき、前路で漂泊中の2隻の漁船に気をとられていて左舷船首22度1,770メートルのところで操業中の松福丸に気付かず、B受審人に対して漁船に注意して黄島の瀬渡し地点に向かうよう指示し、同人に操船を託して船室で休息した。
当直を引き継いだB受審人は、以前に乗船したおり、全速力で航行すると船首方に死角を生じることは知っていたものの、前路で漂泊中の漁船に気をとられ、左舷方で操業中の松福丸に気付かないまま、07時57分少し過ぎ臼岳から248.5度760メートルの地点に達したとき、これらの漁船を右舷側に見て航過するため、左舵をとって針路を155度に転じ、松福丸に向首する態勢となって続航した。
07時58分B受審人は、臼岳から217度850メートルの地点に達したとき、正船首1,230メートルのところに、松福丸を視認することができ、その後、同船と衝突のおそれがある態勢で接近する状況となったが、船首を左右に振るなどして船首方の死角を補う見張りを十分に行っていなかったので、このことに気付かず、同船を避けることなく進行中、08時00分臼岳から180度1,800メートルの地点に達したとき、おうしまは、その船首が松福丸の右舷中央部やや後方に直角に衝突し、同船を乗り切った。
当時、天候は曇で風力2の東北東風が吹き、潮候は上げ潮の中央期で、視界は良好であった。
船室で休息中のA受審人は、漂流物に接触したような衝撃を感じて昇橋し、衝突の事実を知り、事後の処置にあたった。
また、松福丸は、一本釣り漁業に従事するFRP製漁船で、船長Fが1人で乗り組み、操業の目的で、船首0.30メートル船尾0.45メートルの喫水をもって、同日07時30分塩津漁港を発し、同港南方沖合のモーツ瀬付近の漁場に向かった。
07時40分F船長は、臼岳から180度1,800メートルばかりの地点に至り、船尾からシーアンカーを投入して船首を西南西方に向け、漂泊しながら操舵室前部の右舷側甲板に腰を下ろし、舷側から釣り糸を約60メートル繰り出して釣りを始めた。
ところで、松福丸は、汽笛等の吹鳴装置がなく、F船長が自船の存在を知らせるための音響を出すことができるものとしては救命胴衣に取り付けた笛のみであったうえ、他船が著しく接近する際、これを避けるために機関を始動するにあたっては、セルモーターの容量が小さくて時間がかかり、数分間を要する状況にあった。
F船長は、おうしまが塩津漁港を出港する時点から同船を視認していたうえ、おうしまがモーツ瀬や黄島に釣り客を瀬渡しする船であることを知っており、平素から自船に接近する状況となれば同船が自船を避航していたので、いつものとおり同船が避けるものと思って同船の動向を見ていたところ、07時58分右舷正横1,230メートルのところまで接近し、自船に向首する態勢となった同船を認め、そのうち針路を転じるものと思って更に同船の動向を見ていたところ、同時59分魚信があったので釣り糸を手繰り揚げることに専念し、08時00分わずか前釣れたイトヨリを甲板上に揚げ終えたので、ふと、おうしまの方に目を転じたとき、至近に迫った同船を認め、衝突の危険を感じ、咄嗟に(とっさに)座布団代わりにしていた救命胴衣を掴んで(つかんで)船尾に走り、海中に飛び込んだ直後、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、おうしまは、プロペラ及びプロペラシャフトの曲損を生じたが、のち修理され、松福丸は、船体中央部やや後方を圧壊し、廃船とされた。
(原因)
本件衝突は、長崎県福江市臼岳南方沖合において、南下中のおうしまが、見張り不十分で、前路で漂泊して操業中の松福丸を避けなかったことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、長崎県福江市臼岳南方沖合において、船首方に死角を生じた状態で航行する場合、操船するB受審人が漂泊して操業中の松福丸を見落とすことのないよう、船首を左右に振るなどして死角を補う見張りを十分に行うよう指示すべき注意義務があった。しかるに、同人は、B受審人が、以前、おうしまの操船経験があったので、当然、全速力で航行すると船首方に死角を生じることを知っており、広い海域なら同人に操船を任せても大丈夫と思い、死角を補う見張りを十分に行うよう指示しなかった職務上の過失により、B受審人が死角を補う見張りを十分に行わなかったので、前路で漂泊して操業中の松福丸に気付かず、同船を避けることなく進行して衝突を招き、松福丸の船体後部を圧壊して廃船とさせ、自船のプロペラ及び同シャフトを曲損させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は、長崎県福江市臼岳南方沖合において、船首方に死角を生じた状態で航行する場合、漂泊して操業中の松福丸を見落とさないよう、船首を左右に振るなどして死角を補う見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、2隻の漁船以外に他船を認めなかったので、前路に他船はいないものと思い込み、死角を補う見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、漂泊して操業中の松福丸を見落とし、同船を避けることなく進行して衝突を招き、前示損傷を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。