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平成15年長審第11号
件名

漁船第八三宝丸漁船祐宝丸衝突事件(簡易)

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成15年5月22日

審判庁区分
長崎地方海難審判庁(清重隆彦)

理事官
向山裕則

受審人
A 職名:第八三宝丸船長 海技免状:五級海技士(航海)
B 職名:祐宝丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士

損害
三宝丸・・・損傷ない
祐宝丸・・・右舷側後部ブルワーク及び船橋を破損

原因
三宝丸・・・見張り不十分、各種船間の航法(避航動作)不遵守(主因)
祐宝丸・・・見張り不十分、各種船間の航法(協力動作)不遵守(一因)

裁決主文

 本件衝突は、第八三宝丸が、見張り不十分で、前路で錨泊して漁労に従事中の祐宝丸を避けなかったことによって発生したが、祐宝丸が、見張り不十分で、衝突を避けるための措置をとるのが遅れたことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Bを戒告する。
 
適条

 海難審判法第4条第2項、同法第5条第1項第3号
 
裁決理由の要旨

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成14年5月9日19時10分
 長崎県松島港北西方沖合
 
2 船舶の要目
船種船名 漁船第八三宝丸 漁船祐宝丸
総トン数 97トン 3.5トン
全長 34.70メートル  
登録長   9.96メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 294キロワット  
漁船法馬力数   70

3 事実の経過
 第八三宝丸(以下「三宝丸」という。)は、鰹一本釣り漁業に従事するFRP製漁船で、A受審人ほか16人が乗り組み、操業の目的で、船首2.0メートル船尾3.5メートルの喫水をもって、平成14年5月9日17時40分佐世保港を発し、高知県沖の漁場に向かった。
 ところで、A受審人は、三宝丸が鰹一本釣り船特有の舷弧が大きく船首が高い構造のため、正船首から左右約5度の間が死角となり、前方の見通しが妨げられることを承知していた。
 A受審人は、出航操船に引き続き単独で船橋当直に就いて寺島水道を南下し、18時45分兜島灯台から106度(真方位、以下同じ。)200メートルの地点で針路を222度に定め、機関を全速力前進にかけて9.0ノットの対地速力で自動操舵により進行した。
 19時03分A受審人は、松島港松島防波堤灯台(以下「防波堤灯台」という。)から351度1.7海里の地点に至ったとき、正船首1.0海里のところに、錨泊中の祐宝丸を視認することができる状況であったが、前方を一瞥(いちべつ)して他船はいないものと思い、船橋内を左右に移動するなどして、船首方の死角を補う見張りを行わず、同船の存在に気付かないまま、操舵室後方の船長室で海図を取り出して付近の水路状況の確認を始めた。
 三宝丸は、同じ針路及び速力で続航中、19時10分防波堤灯台から316度1.35海里の地点において、その船首が祐宝丸の右舷中央部に前方から82度の角度で衝突した。
 当時、天候は晴で風力2の北風が吹き、潮候はほぼ高潮時で、日没は19時09分であった。
 また、祐宝丸は、一本釣り漁業に従事するFRP製漁船で、B受審人が1人で乗り組み、操業の目的で、船首0.2メートル船尾1.2メートルの喫水をもって、同日17時40分長崎県瀬戸港を発し、同県松島北西方沖合の漁場に向かった。
 B受審人は、18時ごろ前示衝突地点に至り、船首を北西に向け、船首両舷及び船尾から錨を投入してそれぞれの錨索を約100メートル延出し、錨泊中の形象物を掲げないまま、黄色の回転灯を点灯し、操舵室前方左舷側甲板に船尾を向いて座り、右手で釣糸を持って操業を始めた。
 19時03分B受審人は、船首が320度を向いていたとき、右舷船首82度1.0海里のところに、自船に向かってくる三宝丸が視認でき、その後同船が衝突のおそれがある態勢で接近する状況となったが、航行中の他船が自船を避けるものと思い、周囲の見張りを十分に行っていなかったので、このことに気付かなかった。
 B受審人は、19時09分ごろ機関室に入り、発電機を始動させるための作業を行っていたとき、他船の機関音を聞き、急ぎ上甲板に出て間近に迫った三宝丸を初めて認め、船尾の錨索を包丁で切断し、機関を始動してクラッチを前進にしたものの、衝突を避けるための措置をとるのが遅れ、祐宝丸は、320度を向首したままほとんど移動せず、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、三宝丸には損傷がなく、祐宝丸は右舷側後部ブルワーク及び船橋に破損を生じたが、のち修理された。

(原因)
 本件衝突は、長崎県松島港北西方沖合において、三宝丸が、見張り不十分で、前路で錨泊して漁労に従事中の祐宝丸を避けなかったことによって発生したが、祐宝丸が、見張り不十分で、衝突を避けるための措置をとるのが遅れたことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、長崎県松島港北西方沖合を南下する場合、船首方に死角を生じていることを承知していたのであるから、前路で錨泊して漁労に従事している祐宝丸を見落とすことのないよう、船橋内を左右に移動するなどして、船首方の死角を補う見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、前方を一瞥して他船はいないものと思い、船首方の死角を補う見張りを行わなかった職務上の過失により、祐宝丸の存在に気付かないまま、操舵室後方の船長室で海図を取り出して付近の水路状況の確認を始め、同船を避けずに進行して衝突を招き、祐宝丸の右舷側後部ブルワーク及び操舵室を破損させるに至った。
 B受審人は、長崎県松島港北西方沖合において、錨泊して一本釣り漁を行う場合、自船に向かってくる三宝丸を見落とすことのないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、航行中の他船が自船を避けるものと思い、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、衝突のおそれがある態勢で接近する三宝丸の存在に気付かないまま、機関室内に入り、発電機を始動させるための作業を行い、機関を使用するなどの衝突を避けるための措置をとるのが遅れて、同船との衝突を招き、前示損傷を生じさせるに至った。 


参考図





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