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平成14年那審第50号
件名

遊漁船かつよ丸遊漁船幸丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成15年5月28日

審判庁区分
門司地方海難審判庁那覇支部(坂爪 靖、小須田 敏、上原 直)

理事官
平良玄栄

受審人
A 職名:かつよ丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
B 職名:幸丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士

損害
かつよ丸・・・左舷船首外板に擦過傷
幸 丸・・・・左舷船尾部ブルワークに折損、オーニング支柱に曲損等
釣客の1人が頭部挫創、頚椎捻挫等

原因
かつよ丸・・・針路確認不十分

主文

 本件衝突は、かつよ丸が、針路の確認が不十分で、漂泊中の幸丸に向かって進行したことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成14年6月2日15時10分
 沖縄県伊計島東南東方沖合

2 船舶の要目
船種船名 遊漁船かつよ丸 遊漁船幸丸
総トン数 11.83トン 4.8トン
全長   15.00メートル
登録長 13.20メートル  
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 257キロワット 264キロワット

3 事実の経過
 かつよ丸は、船体中央部からやや後方に操舵室を設けたFRP製遊漁船で、A受審人が1人で乗り組み、釣客6人を乗せ、遊漁の目的で、船首0.7メートル船尾1.3メートルの喫水をもって、平成14年6月2日05時00分沖縄県金武湾内の金武中城港天願地区を発し、金武湾口で同区東北東方約7海里のところにある伊計島の南東方沖合の釣場で錨泊して遊漁を行ったのち、12時00分同島東南東方約15海里に設置されているパヤオ(浮魚礁)付近に移動し、漂泊して釣りを行い、15時08分伊計島灯台から108.5度(真方位、以下同じ。)15.9海里の地点を発進して帰途についた。
 発進するにあたり、A受審人は、自船の西方200メートルに、幸丸が船首を東方に向け漂泊して釣りを行っているのを認めていたので、同船の少し北側を通航することとし、針路を270度に定め、機関を微速力前進にかけて3.0ノットの対地速力とし、操舵室前部中央にあるコンパスの少し下方の舵輪後方で、前方がよく見える床面からの高さ0.68メートルの踏み板の上に立って遠隔操舵で進行した。
 15時09分半A受審人は、幸丸まで左舷船首13度60メートルに接近したとき、このまま続航しても同船の左舷側を15メートルばかり隔てて航過できる状況であったものの、航過距離を広げようとして、右舵をとった。そして、同側を30メートルばかり隔てる、無難に航過できる態勢にしてから元の針路に戻し、その後自動操舵に切り換えることとして右転を続けた。
 15時10分少し前A受審人は、左舵をとって針路をいったん元の270度に戻し、幸丸を左舷船首42度45メートルに見るようになったとき、機関を6.0ノットの半速力に増速し、操舵を遠隔から自動に切り換えるため、針路を270度に設定するつもりで、コンパス上面に設けた針路設定つまみを操作したが、舵輪の右下方で床面からの高さ約30センチメートルのところにある操舵切換スイッチの方を見ることに気をとられ、同つまみを見て針路の確認を十分に行わなかった。
 A受審人は、針路表示を見間違えて針路を220度に設定したあと、しゃがみこんだ姿勢で操舵切換スイッチを操作して自動操舵に切り換えた。そして、幸丸に向かって左回頭しながら接近する状況となったことに気付かないまま、ゆっくりと立ち上がって前方を見たところ、船首至近に幸丸を認め、機関が遠隔操縦になっていたことを失念したまま、慌てて機関を後進にかけようと、手動用のクラッチレバーとスロットルレバーを操作しているうち、15時10分伊計島灯台から109度15.8海里の地点において、かつよ丸は、船首が220度を向いたとき、原速力のまま、その左舷船首が幸丸の左舷船尾部に前方から50度の角度で衝突した。
 当時、天候は曇で風力3の東風が吹き、視界は良好であった。
 また、幸丸は、船体中央部に操舵室を設けたFRP製遊漁船で、B受審人が1人で乗り組み、釣客7人を乗せ、遊漁の目的で、船首0.6メートル船尾1.2メートルの喫水をもって、同月2日05時30分沖縄県金武中城港天願地区を発し、伊計島の東方約17海里のパヤオ付近に至って漂泊して釣りを行ったものの、釣果が悪かったので、11時00分その南西方約3海里のパヤオ付近に移動し、機関を中立にし、漂泊して再び釣りを始めた。
 15時08分B受審人は、前示衝突地点付近で、船首を090度に向け、操舵室で釣客の釣模様を眺めながら前方の見張りを行っていたとき、左舷船首4度200メートルのところに、釣場を発進するかつよ丸を視認し、その後、西行する同船の動向を見守ったところ、同船が右転して無難に航過する態勢となって間もない同時10分少し前左舷前方至近のところで突然左転し始め、自船に向かって左回頭しながら接近してくるのを認めたが、どうすることもできず、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、かつよ丸は左舷船首外板に擦過傷を生じたのみであったが、幸丸は左舷船尾部ブルワークに切損、オーニング支柱に曲損等を生じ、釣客の1人が頭部挫創、頚椎捻挫等を負った。

(原因)
 本件衝突は、沖縄県伊計島東南東方沖合において、かつよ丸が、釣場を発進後、前路で漂泊中の幸丸との航過距離を広げ、元の針路に戻したあと、操舵を遠隔から自動に切り換えるため、針路設定つまみを操作する際、針路の確認が不十分で、幸丸に向かって進行したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、沖縄県伊計島東南東沖合において、1人で操船に当たり、釣場を発進後、前方に認めていた漂泊中の幸丸との航過距離を広げ、元の針路に戻したあと、操舵を遠隔から自動に切り換えるため、針路設定つまみを操作する場合、針路設定つまみが正しく目的の針路に設定されているかどうか、同つまみを見て針路の確認を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、舵輪右下の操舵切換スイッチの方を見ることに気をとられ、針路の確認を十分に行わなかった職務上の過失により、幸丸に向かって進行して衝突を招き、かつよ丸の左舷船首外板に擦過傷を、幸丸の左舷船尾部ブルワークに切損、オーニング支柱に曲損等をそれぞれ生じさせ、幸丸の釣客1人に頭部挫創、頚椎捻挫等を負わせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B受審人の所為は、本件発生の原因とならない。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図





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