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平成15年門審第28号
件名

漁船にっこう丸プレジャーボート第2龍徳丸衝突事件(簡易)

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成15年5月28日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(長浜義昭)

副理事官
小俣幸伸

受審人
A 職名:にっこう丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
B 職名:第2龍徳丸船長 海技免状:四級小型船舶操縦士

損害
にっこう丸・・・船底に擦過傷、推進器翼に曲損
第2龍徳丸・・・船体中央部で折損、のち廃船
船長が左肩甲骨を骨折

原因
にっこう丸・・・見張り不十分、船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
第2龍徳丸・・・動静監視不十分、注意喚起信号不履行、船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

裁決主文

 本件衝突は、にっこう丸が、見張り不十分で、錨泊中の第2龍徳丸を避けなかったことによって発生したが、第2龍徳丸が、動静監視不十分で、注意喚起信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Bを戒告する。
 
適条

 海難審判法第4条第2項、同法第5条第1項第3号
 
裁決理由の要旨

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年1月8日15時41分
 志布志湾 

2 船舶の要目
船種船名 漁船にっこう丸 プレジャーボート第2龍徳丸
総トン数 4.0トン 0.4トン
全長 11.90メートル  
登録長   4.96メートル
機関の種類 ディーゼル機関 電気点火機関
出力 190キロワット 7キロワット

3 事実の経過
 にっこう丸は、かわはぎすくい網漁業に従事するFRP製漁船で、A受審人が1人で乗り組み、操業の目的で、船首0.70メートル船尾1.25メートルの喫水をもって、平成15年1月8日08時30分宮崎県都井漁港立宇津地区を発し、同漁港の西南西方3.5海里及び南西方2海里付近で操業を行った。
 A受審人は、15時37分操業を終え帰航することとし、周囲を一瞥して都井漁港立宇津地区の南南西方約1海里沖合の漁場(以下「漁場」という。)に往航時に見かけた僚船1隻を認めたので、同時38分都井岬灯台から265度(真方位、以下同じ。)3.3海里の地点を発し、同船を左舷側に離すよう、針路を055度に定め、機関を回転数毎分1,900にかけて16.0ノットの速力(対地速力、以下同じ。)とし、えさのオキアミで雨ガッパが汚れていたことから操舵室左舷後方の入口付近に立ち、自動操舵で進行した。
 ところで、にっこう丸は、機関を回転数毎分1,900にかけて航走すると船首が浮上し、操舵室左舷後方の入口付近に立った状態で正船首から左舷約7度、右舷約20度の間に死角が生じるので、A受審人は、平素、時々船首を左右に振るなり、操舵室天井の天窓から顔を出すなりして同死角を補う見張りをしていた。
 15時40分少し前A受審人は、都井岬灯台から270度2.9海里の地点に達したとき、正船首600メートルのところに第2龍徳丸を視認でき、同船が錨泊中の船舶が表示する形象物を掲げていなかったものの、その後、船首を西北西方に向けたまま移動しないことや、前方に張った錨索などから、漁場に錨泊中であることが分かり、同船に向首し衝突のおそれのある態勢で接近するのを認め得る状況であったが、発進時に一瞥して日頃漁船が多数集まる漁場に僚船1隻を認めただけであったことから、漁場には他に漁船がいないものと思い、時々船首を左右に振るなどして船首浮上により生じた船首死角を補う見張りを十分に行わなかったので、第2龍徳丸の存在に気付かず、転舵するなどして同船を避けることなく続航した。
 A受審人は、依然、船首死角を補う見張りを行わないまま、錨泊して操業中の僚船を左舷側に約120メートル離すように見ながら、原針路、原速力で進行中、15時41分都井岬灯台から274度2.6海里の地点において、にっこう丸は、その船首が、第2龍徳丸の左舷中央部に、前方から60度の角度で衝突し、同船を乗り切った。
 当時、天候は曇で風力1の北西風が吹き、潮候はほぼ低潮時で、視界は良好であった。
 また、第2龍徳丸は、汽笛を備えない、船外機を装備した和船型FRP製プレジャーボートで、B受審人が1人で乗り組み、魚釣りの目的で、船首0.15メートル船尾0.30メートルの喫水をもって、同月8日09時00分同県黒井港を発し、漁場に至って錨泊し、竿釣りを行った。
 14時40分B受審人は、衝突地点付近に移動して機関を停止し、重さ7キログラムの錨を水深30メートルの海底に下ろし、錨索を正船首より50メートル延出してたつに止め、錨泊中の船舶が表示する形象物を掲げないまま錨泊し、船体中央部のいけす右舷側さぶたに腰を掛け、右舷後方を向いて竿釣りを続けた。
 15時40分少し前B受審人は、船首が295度に向いたとき、左舷船首60度600メートルのところに北東進して自船に近づく態勢のにっこう丸を初めて視認したが、一瞥しただけで一緒に出港した友人の漁船が釣果を聞きに近寄ってくるものと思い、折しも釣果があがっていたこともあって、動静監視を十分に行わなかったので、その後、にっこう丸が自船に向首し衝突のおそれのある態勢で接近していることに気付かず、笛を吹くなど注意喚起信号を行うことも、更に接近したとき、機関を始動して移動するなど、衝突を避けるための措置をとることもなく錨泊を続けた。
 B受審人は、依然、竿釣りに熱中しながら錨泊を続け、15時41分わずか前そろそろ友人の漁船が自船の近くに来たころと、振り返って左舷前方を見たとき、同方位至近に迫ったにっこう丸を認め、何をすることもできないまま、第2龍徳丸は、295度を向いて前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、にっこう丸は、船底に擦過傷を、推進器翼に曲損をそれぞれ生じたが、のち、いずれも修理され、第2龍徳丸は船体中央部で折損して廃船とされ、B受審人が左肩甲骨を骨折した。

(原因)
 本件衝突は、志布志湾において、操業を終えて帰航中のにっこう丸が、見張り不十分で、前路で錨泊中の第2龍徳丸を避けなかったことによって発生したが、第2龍徳丸が、動静監視不十分で、注意喚起信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、志布志湾において、船首浮上により船首に死角が生じた状態で航行する場合、前路で錨泊中の他船を見落とさないよう、船首を左右に振るなどして死角を補う見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、発進時に周囲を一瞥して日頃漁船が多数集まる漁場に僚船1隻を認めただけであったことから、漁場には他に漁船等がいないものと思い、死角を補う見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、錨泊中の第2龍徳丸に気付かず、同船を避けることなく進行して衝突を招き、自船の船底に擦過傷を、推進器翼に曲損をそれぞれ生じさせ、第2龍徳丸の船体を中央部で折損させ、B受審人に左肩甲骨骨折を負わせるに至った。
 B受審人は、志布志湾において、竿釣りのため錨泊中、自船に近づくにっこう丸を認めた場合、衝突のおそれのある態勢で接近するかどうかを確認できるよう、その動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、一瞥しただけで友人の漁船が釣果を聞きに近寄ってくるものと思い、その動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、にっこう丸が自船に向首し衝突のおそれのある態勢で接近していることに気付かず、注意喚起信号を行うことも、機関を始動して衝突を避けるための措置をとることもなく錨泊を続け、にっこう丸との衝突を招き、前示の損傷及び負傷を生じさせるに至った。


参考図
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