(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成13年7月28日02時39分
玄界灘
2 船舶の要目
船種船名 |
貨物船第三陽周丸 |
漁船いづはら丸 |
総トン数 |
4,387トン |
13トン |
全長 |
110.00メートル |
19.03メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
3,603キロワット |
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漁船法馬力数 |
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160 |
3 事実の経過
第三陽周丸は、船尾船橋型のセメント運搬船で、船長O、A受審人ほか10人が乗り組み、セメント800トンを積載し、船首3.17メートル船尾5.30メートルの喫水をもって、平成13年7月27日14時15分熊本県八代港を発し、徳山下松港に向かった。
ところで、第三陽周丸は、船橋当直を一等航海士、二等航海士及び甲板長の3人による4時間交替とし、各直に甲板員1人を配していた。
こうしてA受審人は、翌28日00時00分ごろ長崎県生月島の北北西3海里付近で甲板員と2人で船橋当直につき、壱岐水道を経由して玄界灘を東行し、02時15分烏帽子島灯台から325度(真方位、以下同じ。)1.4海里の地点で、針路を057度に定め、機関を全速力前進にかけ、13.7ノットの速力(対地速力、以下同じ。)で、法定の灯火を表示して自動操舵により進行した。
A受審人は、定針後、自動操舵のまま057度の針路から左右に極小角度の転針を数回繰り返して船首方の漁船等をかわし、実効針路058度で続航した。
02時34分少し過ぎA受審人は、烏帽子島灯台から041度4.5海里の地点に達したとき、057度の針路で進行中、右舷船首33度2.0海里のところに、前路を左方に横切るいづはら丸の白、紅2灯を視認することができ、その後、その方位がほとんど変わらず、衝突のおそれのある態勢で接近したが、右舷側約2海里から長間礁の間の海域で操業中の多数のいか釣り漁船がいずれも漂泊しているのをレーダーで認めていたことから、同海域から北西進してくる漁船はいないものと思い、右方の見張りを十分に行わなかったので、いづはら丸に気付かず、同船の進路を避けないまま進行した。
A受審人は、船首方の漁船等に気を配りながら続航し、02時39分少し前ふと右舷側を見て、右舷船首25度300メートルのところにいか釣り漁船の集魚灯の明かりに照らされたいづはら丸の船影を初めて視認し、衝突の危険を感じ、汽笛で短音1回を吹鳴して探照灯を同船に照射し、甲板員に命じて左舵一杯としたものの、効なく、02時39分烏帽子島灯台から044度5.6海里の地点において、第三陽周丸は、原針路、原速力のまま、その右舷船首が、いづはら丸の船首に、前方から63度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風はほとんどなく、潮候は上げ潮の末期で、視界は良好であった。
また、いづはら丸は、漁獲物運搬に従事するFRP製漁船で、B受審人ほか1人が乗り組み、空倉のまま、船首0.5メートル船尾1.6メートルの喫水をもって、同月28日01時25分福岡県博多漁港を発し、基地としている長崎県豆酘(つつ)漁港に向かった。
B受審人は、発進時から単独で操船にあたり、02時18分少し前長間礁灯標から028度0.6海里の地点で、針路を300度に定め、機関を回転数毎分1,750にかけ、15.5ノットの速力で、法定の灯火を表示して自動操舵により進行した。
02時28分B受審人は、いけすに入れたままの水中ポンプの後片付けと、外していた右舷側波よけ板の設置を思い立ち、操舵室前面の作業灯2個を点灯して降橋し、右舷側甲板上で作業を始め、時々周囲を見回しながら続航した。
B受審人は、02時33分半前示作業を終えて昇橋し、操舵室前面の作業灯を消灯したのち、急に便意を催し、同時34分烏帽子島灯台から056度6.0海里の地点で、周囲を一瞥したところ、漂泊して操業中のいか釣り漁船のほかには航行中の船舶を見かけなかったことから、短時間で戻るので航行に支障となる船舶が接近してくることはあるまいと思い、休息中の甲板員を呼んで見張りに当たらせるなど適正な船橋当直を維持せず、操舵室を無人として右舷船尾張出し甲板の開口部(以下「開口部」という。)に行き、船室に遮られて正船首から左舷55度の間が見えない状態で開口部にかがんで用足しを始めた。
B受審人は、02時34分少し過ぎ烏帽子島灯台から055度6.0海里の地点に達したとき、左舷船首30度2.0海里のところに前路を右方に横切る第三陽周丸の白、白、緑3灯を視認することができる状況となり、その後、その方位にほとんど変化がなく、衝突のおそれのある態勢で接近したが、操舵室を無人としていたので、第三陽周丸に気付かず、同船に対して警告信号を行うことも、更に間近に接近した同船との衝突を避けるため、右転するなどの協力動作をとることもないまま進行した。
B受審人は、02時39分わずか前、用便を終えて右舷側から操舵室に戻り、同室右舷側に設けたいすに腰掛けて前方を見たところ、降橋前左舷前方に認めていた壱岐島の街明かりが見えないので不思議に思った直後、左舷側至近に第三陽周丸の船影を初認したものの、どうすることもできず、いづはら丸は、原針路、原速力のまま、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、第三陽周丸は右舷船首部及び右舷側前部外板に擦過傷を生じ、いづはら丸は船首を圧壊したが、のち、いずれも修理され、B受審人が6週間の入院加療を要する胸骨骨折等を負った。
(原因)
本件衝突は、夜間、玄界灘において、両船が互いに進路を横切り衝突のおそれがある態勢で接近中、第三陽周丸が、見張り不十分で、前路を左方に横切るいづはら丸の進路を避けなかったことによって発生したが、いづはら丸が、操舵室を無人とし、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
A受審人は、夜間、玄界灘を北東進する場合、接近する他船を見落とすことのないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、右舷側の長間礁西方海域で操業中の多数のいか釣り漁船がいずれも漂泊しているのをレーダーで認めていたことから、同海域から北西進してくる漁船はいないものと思い、右方の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、前路を左方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近するいづはら丸に気付かず、同船の進路を避けることなく進行して衝突を招き、第三陽周丸の右舷船首等に擦過傷を、いづはら丸の船首に圧壊をそれぞれ生じさせ、B受審人に胸骨骨折等を負わせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は、夜間、単独で操船しながら玄界灘を北西進中、急に便意を催して用足しに行く場合、操舵室が無人とならないよう、休息中の甲板員を呼んで見張りに当たらせるなど適正な船橋当直を維持すべき注意義務があった。しかるに、同人は、周囲を一瞥したところ、航行中の船舶を認めなかったことから、短時間で戻るので航行に支障となる他船が接近することはあるまいと思い、適正な船橋当直を維持しなかった職務上の過失により、前路を右方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近する第三陽周丸に気付かず、警告信号を行うことも、右転するなどして衝突を避けるための協力動作をとることもなく進行して衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせ、自らも負傷するに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。