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 海難審判庁裁決録 >  2003年度(平成15年) > 衝突事件一覧 >  事件





平成15年門審第5号
件名

貨物船第三十八美恵丸貨物船ファシン衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成15年5月12日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(西村敏和、橋本 學、小寺俊秋)

理事官
上中拓治

受審人
A 職名:第三十八美恵丸次席一等航海士 海技免状:三級海技士(航海)

損害
美恵丸・・・・左舷船首部に凹損
ファシン・・・右舷後部に凹損

原因
ファシン・・・動静監視不十分、横切りの航法(避航動作)不遵守(主因)
美恵丸・・・・動静監視不十分、横切りの航法(協力動作)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は、ファシンが、動静監視不十分で、前路を左方に横切る第三十八美恵丸の進路を避けなかったことによって発生したが、第三十八美恵丸が、動静監視不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成14年1月7日04時52分
 鹿児島県佐多岬南方の大隅海峡
 
2 船舶の要目
船種船名 起重機船第三十八美恵丸 貨物船ファシン
総トン数 952.96トン 4,337トン
全長 55.80メートル 105.17メートル
登録長 53.08メートル 98.00メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 1,471キロワット 2,500キロワット
IMO番号   8511809

3 事実の経過
 第三十八美恵丸(以下「美恵丸」という。)は、主として港湾工事用資機材の運搬に従事する2機2軸を備えた自航式の鋼製起重機船で、船長B及びA受審人ほか7人が乗り組み、空船で、船首1.10メートル船尾2.60メートルの喫水をもって、平成14年1月7日00時00分鹿児島県鹿児島港谷山区を発し、同県種子島の島間港に向かった。
 B船長は、船橋当直を、自らと一等航海士及びA受審人による単独3直制とし、目的地までの航海時間の関係から2時間30分交替として、出航操船に続いて船橋当直に就き、02時30分鹿児島湾口付近で一等航海士に同当直を引き継いだ。
 一等航海士は、法定の灯火を表示し、大隅半島立目埼西方約1海里のところを南下して佐多岬西方に至り、03時55分佐多岬灯台から262度(真方位、以下同じ。)1,500メートルの地点において、針路を160度に定め、機関を回転数毎分700の全速力前進にかけ、風潮流の影響を受けて157度の実航針路及び10.7ノットの速力(対地速力、以下同じ。)で、自動操舵によって大隅海峡を南下した。
 A受審人は、04時45分船橋当直を交替するために昇橋し、同時47分佐多岬灯台から161.5度9.2海里の地点に差し掛かったとき、一等航海士から針路及び速力のほか、左舷側から他船が接近している旨の引き継ぎを受けて船橋当直を交替し、操舵装置の後方に立って左舷側を一見したところ、左舷船首45度1,900メートルのところにファシンの白、白2灯を視認し、目が暗さに十分順応していなかったこともあって、緑灯を視認することができなかったものの、前後部マスト灯の見え具合から、同船が前路を右方に横切る態勢であることを認めた。
 ところが、A受審人は、ファシンとの距離が1海里以上あり、接近するようであれば、避航船である同船が右転するなどして自船の進路を避けるものと思い、ファシンから目を離し、目を暗さに慣らすために右舷前方を見ていて、同船に対する動静監視を十分に行っていなかったので、その後、同船の方位に明確な変化がなく、衝突のおそれのある態勢で接近していることに気付かず、引き続き同じ針路及び速力で自動操舵によって進行した。
 こうして、A受審人は、右舷前方を見ながら続航し、04時49分佐多岬灯台から161度9.6海里の地点に達したとき、ファシンがほぼ同方位1,100メートルのところに接近したが、依然として、動静監視を十分に行っていなかったので、このことに気付かず、同船に対して避航を促す警告信号を行うことも、右転するなどの衝突を避けるための協力動作をとることもせずに進行中、同時52分少し前正船首至近に迫った同船を認め、機関を後進にかけたが、効なく、04時52分佐多岬灯台から161度10.1海里の地点において、美恵丸は、原針路のまま、約8ノットの速力で、その左舷船首とファシンの右舷後部とが後方から20度の角度で衝突した。
 当時、天候は晴で風力2の南南西風が吹き、潮候は上げ潮の中央期に当たり、視界は良好であった。
 また、ファシンは、船尾船橋型の鋼製貨物船で、船長H及び一等航海士Rほか19人(いずれも国籍は中華人民共和国)が乗り組み、水酸化アルミニウム4,000トンを積載し、船首4.49メートル船尾6.38メートルの喫水をもって、同月4日16時27分静岡県清水港を発し、インドネシア共和国グレシック港に向かった。
 H船長は、船橋当直を、二等航海士が0時から4時まで、R一等航海士が4時から8時まで、及び三等航海士が8時から12時までの4時間交替3直制とし、各直に操舵手1人を付けていた。
 同月7日04時00分R一等航海士は、佐多岬灯台から120度11.4海里の地点に差し掛かったとき、二等航海士から船橋当直を引き継ぎ、操舵手を見張りに就け、法定の灯火を表示し、針路を243度に定め、機関を半速力前進にかけ、風潮流の影響を受けて240度の実航針路及び8.7ノットの速力で、自動操舵によって大隅海峡を西行した。
 04時47分R一等航海士は、佐多岬灯台から157度9.9海里の地点に達したとき、右舷船首52度1,900メートルのところに、美恵丸の白灯を視認し、その後、同船の方位に明確な変化がなく、前路を左方に横切り、衝突のおそれのある態勢で接近したが、美恵丸が自船を追い越したものと思い、同船に対する動静監視を十分に行っていなかったので、このことに気付かず、右転又は減速して同船の進路を避けることなく続航した。
 こうして、R一等航海士は、美恵丸を追越し船であると誤信したまま、針路及び速力を保って進行し、04時49分佐多岬灯台から159度10.0海里の地点に至ったとき、美恵丸がほぼ同方位1,100メートルのところに接近したが、依然として、動静監視を十分に行っていなかったので、このことに気付かず、同船の進路を避けることなく続航中、同時51分美恵丸が右舷船首300メートルに接近したとき、ようやく同船が前路を左方に横切る態勢であることを認め、衝突の危険を感じて直ちに左舵一杯をとったが、及ばず、左回頭中のファシンは、その船首が180度を向いたとき、原速力のまま、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、美恵丸は、左舷船首部に凹損を、ファシンは、右舷後部に凹損をそれぞれ生じたが、のちいずれも修理された。

(原因)
 本件衝突は、夜間、鹿児島県佐多岬南方の大隅海峡において、両船が互いに進路を横切り、衝突のおそれのある態勢で接近中、西行するファシンが、動静監視不十分で、前路を左方に横切る第三十八美恵丸の進路を避けなかったことによって発生したが、南下する第三十八美恵丸が、動静監視不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、夜間、鹿児島県佐多岬南方の大隅海峡において、左舷前方にファシンの白、白2灯を視認し、同船が前路を右方に横切る態勢で接近するのを認めた場合、衝突のおそれの有無について判断できるよう、同船に対する動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、ファシンとの距離が1海里以上あり、接近するようであれば、避航船である同船が右転するなどして自船の進路を避けるものと思い、目を暗さに慣らすために右舷前方を見ていて、動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、同船が自船の進路を避けずに、衝突のおそれのある態勢で接近していることに気付かず、警告信号を行うことも、衝突を避けるための協力動作をとることもせずに進行して同船との衝突を招き、第三十八美恵丸の左舷船首部に凹損を、ファシンの右舷後部に凹損をそれぞれ生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。 


参考図





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