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平成15年広審第17号
件名

漁船直哉丸プレジャーボート(船名なし)衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成15年5月22日

審判庁区分
広島地方海難審判庁(高橋昭雄、西田克史、佐野映一)

理事官
亀井龍雄

受審人
A 職名:直哉丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
指定海難関係人
B 職名:プレジャーボート(船名なし)乗組員

損害
直哉丸・・・・損傷ない
中本号・・・・船体を中破
乗組員が胸部及び頭部に外傷、同人の父親が骨盤等の骨折

原因
直哉丸・・・・見張り不十分、船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
船名なし・・・注意喚起信号不履行(一因)

主文

 本件衝突は、航行中の直哉丸が、見張り不十分で、錨泊中のプレジャーボート(船名なし)を避けなかったことによって発生したが、プレジャーボート(船名なし)が、避航を促すための有効な音響による信号を行わなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aの一級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成14年12月1日15時00分
 広島県 広島港
 
2 船舶の要目
船種船名 漁船直哉丸 プレジャーボート(船名なし)
総トン数 15.00トン  
全長 19.30メートル 2.70メートル
全幅   1.32メートル
機関の種類 ディーゼル機関  
漁船法馬力数 140  

3 事実の経過
 直哉丸は、かき筏式養殖漁業に従事する船尾部に操舵室を配した軽合金製漁船で、A受審人が1人で乗り組み、平成14年12月1日08時30分広島県安芸郡坂町漁業基地を発し、広島湾金輪島と同島東側対岸との間の瀬戸(以下「金輪島東側瀬戸」という。)を南下し、安芸郡亀石鼻沖の筏式かき養殖場に至ってかき採獲作業を始め、かき約8トンを獲て作業を終了し、船首0.7メートル船尾1.7メートルの喫水をもって、水揚げのため、14時45分前示基地に向け帰途に就いた。
 ところで、養殖かき採獲作業は、操舵室前面窓ガラスに防護用キャンバスカバーを施したうえで、船首部に据え付けられたクレーンで養殖場から養殖かき連を船体中央部甲板上に吊り上げて裁断するもので、裁断されたかき殻が甲板上に落下する度にその砕片や飛沫が周囲に飛び散り、作業終了後にクレーンを操舵室屋根上に据え付けてから海水で船体甲板を洗い流すものの、操舵室前面窓ガラスまでは水洗いを行っておらず、同防護用カバーの隙間から入り込んだ細かい粒子や飛沫が操舵室前面窓ガラスに付着したままであった。
 また、前方の見通し状況が、かき8トンを載せた半載状態で約1メートルの船尾トリムとなり、また増速に伴って10ノットを超えると船首が浮上し始め、普段航行速力としていた14ノットの半速力状態では船首から前方約150メートルまでの範囲に死角を生じて前方の視野が狭められた状態となるので、A受審人は、狭い水域を航行するときや前方に他船を見かけたときなどには適宜減速するなどして前方の見張りを十分に行って航行するようにしていた。
 A受審人は、前示かき養殖漁場を発進すると、14時45分屋形石灯標から075度(真方位、以下同じ。)0.7海里の地点で、針路を金輪島東側瀬戸のほぼ中央に向かう356度に定めたところ、前方0.8海里の進路上にあたる観音埼沖合付近にウインドサーフィン中の数隻のセールボードを認め、機関を微速力前進にかけ約6ノットの速力にして、その動向を監視しながら手動操舵により進行した。
 14時56分A受審人は、金輪島173メートル頂(以下「金輪島頂」という。)から155度1,900メートルの地点に至り、前示セールボード群も後方に替わり、前方に他船も見当らなくなったので、機関を半速力前進にかけて14.0ノットの速力で続航した。
 14時57分A受審人は、金輪島南端まで約1,200メートルに至ったとき、金輪島東側瀬戸の中央付近にあたる前路約1,300メートルのところに周囲の背景に近い色合いの背が低いプレジャーボート(船名なし)(以下「中本号」という。)が船上に白い目印を表示し折からの北風の影響を受けてほぼ北を向いて錨泊中で、その後同船と衝突のおそれがある態勢で接近する状況であった。
 ところが、A受審人は、操舵室窓ガラスの汚れなどにより前方の視野が妨げられた状態のうえ右眼の視力が0.8でしかも左眼は事故で視力を失った状況で、他船の通航や釣り船の存在が予想される狭い金輪島東側瀬戸の中央に向かって北上中であったが、前示セールボード群を替わしたことなどで前路に他船がいないものと思い、減速するなどして前方の見張りを十分に行わなかったので、中本号に気付かず、同じ速力のまま北上を続けた。14時59分同船と約430メートルに迫ったが、依然として前方の見張りを十分に行わなかったので、これに気付かず、同船を避けないまま進行し、15時00分金輪島頂から085度650メートルの地点において、直哉丸は、中本号の船尾部に真後ろから平行に衝突した。
 当時、天候は晴で風力1の北風が吹き、潮候は上げ潮の中央期で、視界は良好であった。
 また、中本号は、手漕ぎ式ゴム製プレジャーボートで、B指定海難関係人と同人の父親との2人が乗り組み、釣りの目的で、同日07時00分金輪島頂から072度860メートルにあたる金輪島東側瀬戸東岸を発し、約200メートル沖で釣りを始め、正午にいったん陸岸に戻り、再び同瀬戸のほぼ中央にあたる前示衝突地点で錨泊して釣りを再開した。
 ところで、B指定海難関係人は、事前に他船の通航が多い金輪島東側瀬戸で錨泊して安全に釣りを行うためにインターネット上で参考となる情報を得て、救命胴衣1着を購入して父親に着衣させ、また船上には高さ約1.5メートルの竹竿の先端に約30センチメートル大とそれより少し小さい白いナイロン袋の2個を目印に掲げていたが、通航船の多いところでの錨泊中を示す形象物や音響を発する器具を携帯しなかった。
 こうして、14時57分B指定海難関係人は、折から弱い北風の影響を受けて北に向首した状態で釣りを続けていたところ、船尾方約1,300メートルのところを瀬戸に向かって北上してくる直哉丸を初めて認め、その後同船が衝突のおそれがある態勢で接近する状況であったので、その動静を監視した。
 ところが、14時59分B指定海難関係人は、直哉丸が約430メートルに接近しても一向に自船を避航する気配のないまま船首をわずかに左右に振りながら接近する状況であったが、音響を発する設備を携帯していなかったので、避航を促すための有効な音響による信号を行うことができず、立ち上がってたも網を振って大声で叫び続けたが効なく、至近に及んで危険を感じて船首が左に振れた同船の右舷側に目がけて海中に飛び込むや前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、直哉丸は損傷を生じなかったが、中本号は船体を中破し、更にB指定海難関係人が胸部及び頭部に外傷並びに同人の父親が約4箇月の加療を要する骨盤及び右脚等の骨折をそれぞれ負った。

(原因)
 本件衝突は、金輪島東側瀬戸において、北上する直哉丸が、見張り不十分で、瀬戸の中央付近で釣りを行いながら錨泊中の中本号を避けなかったことによって発生したが、中本号が、避航を促すための有効な音響による信号を行わなかったことも一因をなすものである。

(受審人等の所為)
 A受審人は、養殖かきを採獲したのち他船の通航や釣り船の存在が予想される狭い金輪島東側瀬戸を北上する場合、操舵室前面窓ガラスの汚れなどにより前方の視野が妨げられた状態のうえ視力が十分とは言えない状況でもあったから、前路にあたる瀬戸中央付近で釣りを行いながら錨泊中の背の低いしかも周囲の背景と見分けにくい色合いのゴムボートを見落とすことのないよう、減速するなどして前方の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかし、同人は、同瀬戸の手前でセールボード群を替わしたことなどで前路に他船がいないものと思い、減速するなどして前方の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、前路で錨泊中の中本号を見落とし、これを避けないまま進行して、中本号との衝突を招き、同船を中破させ、B指定海難関係人に胸部打撲及び頭部外傷並びに同人の父親に骨盤及び右脚等の骨折をそれぞれ負わせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の一級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 B指定海難関係人が、漁船など他船が多く通航する狭い金輪島東側瀬戸中央付近で投錨して釣りを行う際、音響を発する信号設備を携帯せず、避航の気配のないまま接近する直哉丸に対して、避航を促すための有効な音響による信号を行うことができなかったことは本件発生の原因となる。
 B指定海難関係人に対しては、今後は音響を発する信号設備の携帯及び乗船者全員の救命胴衣を用意する旨の反省に徴し、勧告するまでもない。

 よって主文のとおり裁決する。 


参考図





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