(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成14年9月22日07時20分
紀伊水道
2 船舶の要目
船種船名 |
貨物船第二十すみせ丸 |
漁船第二直丸 |
総トン数 |
5,363トン |
3.4トン |
全長 |
117.80メートル |
13.12メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
3,883キロワット |
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漁船法馬力数 |
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70 |
3 事実の経過
第二十すみせ丸(以下「すみせ丸」という。)は、船尾船橋型の鋼製セメント運搬船で、A受審人ほか10人が乗り組み、載貨の目的で、空倉のまま海水バラスト2,778トンを積載し、船首2.93メートル船尾5.08メートルの喫水をもって、平成14年9月21日15時50分名古屋港を発し、兵庫県赤穂港に向かった。
ところで、すみせ丸は、船体中央やや前方に甲板上高さ約12メートルの荷揚げタワーがあり、同タワー両舷側にそれぞれ積込エアースライドが設置され、操舵スタンドから船首方の見張りを行うにあたっては、船橋左右のそれぞれ約4度の範囲に死角を生じる状態となっていた。このため、船首方の見張りを十分に行うには、船橋内を左右に移動して左右船橋ウイングに出るなど前方の死角を補う必要があった。
A受審人は、翌22日03時45分ごろ和歌山県市江埼南方で昇橋して船橋当直に当たり、06時31分紀伊日ノ御埼灯台から267度(真方位、以下同じ。)3.2海里の地点で、船首を由良瀬戸に向けて進行したところ、右舷側から鳴門海峡向けの貨物船が自船に接近しつつあったので、右舵をとって予定航路を外れ、同貨物船の船尾を替わしたのち、徐々に予定航路に戻しながら北上し、07時10分紀伊宮崎ノ鼻灯台から221度6.3海里の地点に至り、予定航路に乗ったため針路を359度に定め、11.0ノットの対地速力で自動操舵により紀伊水道を北上した。
07時17分A受審人は、紀伊宮崎ノ鼻灯台から230度5.4海里の地点に達したとき、ほぼ正船首1,000メートルのところに、停留している第二直丸(以下「直丸」という。)を視認でき、その後衝突のおそれのある態勢で接近したが、付近海域には普段に比べると漁船や遊漁船などが少なかったので、厳重な見張りを行わなくても大丈夫と思い、船橋内を左右に移動して左右船橋ウイングに出るなど前方の死角を補う見張りを十分に行わなかったので、直丸に気付かなかった。
A受審人は、直丸を避けることなく続航し、07時20分紀伊宮崎ノ鼻灯台から235度5.1海里の地点において、すみせ丸は、原針路、原速力のまま、その左舷船首部が直丸の右舷船首部に後方から1度の角度で衝突した。
当時、天候は曇で風力5の北風が吹き、潮候は下げ潮の中央期であった。
A受審人は、衝突したことに気付かず、航行を続け、船橋当直を次直者と交代したのち、直丸の僚船からの連絡でその事実を知った。
また、直丸は、船体中央やや後部に操舵室を設けたFRP製漁船で、B受審人が1人で乗り組み、一本釣り漁の目的で、船首0.2メートル船尾1.0メートルの喫水をもって、同月22日04時00分和歌山県湯浅広港を発し、紀伊水道の漁場に向かった。
B受審人は、06時50分ごろ前示衝突地点付近の目的の漁場に到着し、船尾にスパンカーを掲げて、操舵室前方の魚倉蓋に腰掛け、左舷側から竿を出して一本釣りを開始し、機関を必要に応じて使用して同じ位置に船位を保ちながら漁を続けた。
07時17分B受審人は、衝突地点で船首を北方に向けて停留していたとき、ほぼ正船尾1,000メートルのところに、すみせ丸を視認することができ、その後衝突のおそれのある態勢で接近したが、停留する自船を接近する他船が避けるものと思い、立ち上がって周囲を見渡すなど、周囲の見張りを十分に行っていなかったので、すみせ丸に気付かず、同船が自船を避けないまま間近に接近しても、モーターホーンによる警告信号を行わず、機関のクラッチを入れて移動するなど衝突を避けるための措置をとらないまま停留中、直丸は、船首を000度に向けたまま前示のとおり衝突した。
衝突の結果、すみせ丸は左舷船首部外板に擦過傷を生じ、直丸は右舷船首に固定されていた錨の木製ストックを折損し、右舷側のノーズレと称する釣糸の擦れ止めを曲損したが、のちいずれも修理され、また、B受審人が衝突の動揺で転倒し、左胸挫傷を負った。
(原因)
本件衝突は、紀伊水道において、北上中のすみせ丸が、見張り不十分で、前路で一本釣り漁に従事して停留中の直丸を避けなかったことによって発生したが、直丸が、見張り不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
A受審人は、紀伊水道において、兵庫県赤穂港に向けて北上する場合、船体中央部に装備された荷揚げタワー等で、船首方に死角を生じる状況であったから、前路において停留している直丸を見落とすことのないよう、左右船橋ウイングに出るなど船首方の死角を補う見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかしながら、同人は、付近海域には普段に比べると漁船や遊漁船などが少なかったので、厳重な見張りを行わなくても大丈夫と思い、船橋内を左右に移動して左右船橋ウイングに出るなど前方の死角を補う見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、直丸の存在に気付かず、同船を避けないまま進行して衝突を招き、すみせ丸の左舷船首部外板に擦過傷を、直丸の右舷船首に固定されていた錨の木製ストックの折損等をそれぞれ生じさせ、B受審人に左胸挫傷を負わせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は、紀伊水道において、一本釣りを行いながら停留する場合、衝突のおそれのある態勢で接近するすみせ丸を見落とすことのないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかしながら、同人は、停留している自船を接近する他船が避けるものと思い、立ち上がって周囲を見渡すなど、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、衝突のおそれのある態勢で接近するすみせ丸に気付かず、警告信号を行うことも、衝突を避けるための措置をとることもなく停留を続けて同船との衝突を招き、前示の損傷を生じさせるとともに自ら負傷するに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。