(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成13年12月24日06時00分
三重県和具漁港南方沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船宗栄丸 |
漁船幸栄丸 |
総トン数 |
6.6トン |
0.8トン |
全長 |
15.16メートル |
9.4メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
235キロワット |
|
漁船法馬力数 |
|
40 |
3 事実の経過
宗栄丸は、レーダー装備のFRP製漁船で、A受審人が1人で乗り組み、いせえび漁の目的で、船首0.4メートル船尾1.5メートルの喫水をもって、平成13年12月24日05時45分三重県和具漁港を発し、法定灯火を表示して同漁港南方沖合の漁場へ向かった。
A受審人は、申し合わせにより港外で出漁時刻まで待機することになっていたので、沖防波堤南方至近で漂泊したのち、05時58分和具港沖防波堤灯台(以下「沖防波堤灯台」という。)から228度(真方位、以下同じ。)190メートルの地点を発進し、徐々に増速しながら布施田水道の右舷標識を示す渡リ黒ミ灯浮標と左舷標識を示す四丈北東方灯浮標とのほぼ中間へ向かう同水道の航路筋を南下した。
ところで、A受審人は、四丈北東方灯浮標から1,500メートルばかり南方沖合にかけての島や干出岩が多数存在する海域において、夜間、法定灯火を適切に表示しない小型漁船を見掛けたことがあり、また、和具漁港に両色灯はあっても船尾灯の設備のない小型漁船が何隻か停泊しているのを承知していた。
05時59分A受審人は、沖防波堤灯台から173度300メートルの地点に達したとき、針路を135度に定め、機関を回転数毎分1,700とし、10.5ノットの対地速力で手動操舵により進行した。
定針時、A受審人は、正船首330メートルのところに自船に船尾を向けて漂泊中の幸栄丸が存在し、同船に船尾灯等の灯火がなかったので視認できなかったものの、レーダーでは十分に探知することができ、その後同船と衝突のおそれのある態勢で接近するのを認め得る状況であったが、航路筋では法定灯火を適切に表示しない船舶はいないと思い、法定灯火を適切に表示しないで漂泊している船舶をも見落とさないよう、レーダーによる見張りを十分に行っていなかったので、幸栄丸の存在に気付かなかった。
こうして、宗栄丸は、衝突を避けるための措置をとることなく原針路原速力のまま進行中、06時00分沖防波堤灯台から153度600メートルの地点において、その右舷船首部が、幸栄丸の左舷側後部に後方から22度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風力2の北風が吹き、潮候は上げ潮の初期で、日出時刻は06時56分であった。
また、幸栄丸は、一本つり漁業に従事するFRP製漁船で、B受審人が1人で乗り組み、いかつり漁の目的で、船首0.2メートル船尾1.0メートルの喫水をもって、同日05時50分和具漁港を発し、同漁港南方沖合の釣り場に向かった。
ところで、B受審人は、幸栄丸に、航行中の長さ12メートル未満の動力船が表示するマスト灯1個及び船尾灯1個(又はこれらに代わる白色の全周灯1個)の法定灯火を備えておらず、両色灯のみを掲げて発航したものであった。
B受審人は、布施田水道南方の釣り場に至る途中で試し釣りを行うこととし、05時58分機関をアイドリング状態として漂泊を開始し、中央部右舷側で船尾方に背を向けて、魚群探知機の映像の明かりに覆い被さるように近づき、同明かりが船尾方に漏れない体勢で、ぎじ針を取り付けるなど釣りの準備に取り掛かった。
05時59分B受審人は、前示衝突地点で船首を113度に向けて漂泊していたとき、左舷船尾22度330メートルのところに宗栄丸の白、紅、緑3灯を視認でき、その後同船が衝突のおそれのある態勢で接近するのを認め得る状況であったが、釣りの準備に気を取られ、周囲の見張りを十分に行わなかったので、宗栄丸が自船の船尾方から接近していることに気付かず、速やかに機関を使用するなど、衝突を避けるための措置をとることなく漂泊を続け、幸栄丸は、113度に向いたまま、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、宗栄丸は、右舷船首部外板に擦過傷を生じたのみであったが、幸栄丸は、左舷後部外板及び操舵室に損壊を生じて沈没し、のち引き揚げられて廃船処理された。また、B受審人は、衝突の衝撃で海中に転落したが、宗栄丸に救助された。
(原因)
本件衝突は、夜間、三重県和具漁港南方沖合の布施田水道の航路筋において、漂泊中の幸栄丸が、両色灯を掲げたのみで法定灯火を適切に表示しなかったばかりか、見張り不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことによって発生したが、幸栄丸の後方から接近する宗栄丸が、見張り不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
B受審人は、夜間、三重県和具漁港南方沖合の布施田水道の航路筋において、ぎじ針を取り付けるなど釣りの準備をしながら漂泊する場合、接近する他船を見落とさないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、釣りの準備に気を取られ、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、宗栄丸が両色灯しか掲げていない自船の船尾方から接近していることに気付かず、速やかに機関を使用するなど、衝突を避けるための措置をとることなく漂泊を続けて衝突を招き、宗栄丸の船首部外板に擦過傷を生じさせ、自船の左舷後部外板及び操舵室に損壊を生じて沈没させるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して、同人の一級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
A受審人は、夜間、三重県和具漁港南方沖合の布施田水道の航路筋において、漁場へ向けて南下する場合、法定灯火を適切に表示しない小型漁船がいることを承知していたのであるから、これらの船舶をも見落とさないよう、レーダーによる見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、航路筋では法定灯火を適切に表示しない船舶はいないと思い、レーダーによる見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、幸栄丸に気付かず、衝突を避けるための措置をとることなく進行して衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。