(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成13年5月19日06時25分
山形県酒田港
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船第三観音丸 |
プレジャーボートかもめ |
総トン数 |
2.98トン |
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登録長 |
9.10メートル |
6.14メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
電気点火機関 |
出力 |
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36キロワット |
漁船法馬力数 |
70 |
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3 事実の経過
第三観音丸(以下「観音丸」という。)は、たいはえ縄漁業に従事するFRP製漁船で、A受審人が1人で乗り組み、たい釣り餌のけんこだこ漁の目的で、船首0.3メートル船尾1.5メートルの喫水をもって、平成13年5月19日06時13分山形県酒田港を発し、同県飽海郡遊佐町藤崎西方沖合の漁場に向かった。
発航後、A受審人は、酒田港第1区から第3区に至る水路を北上し、同日06時22分少し前酒田港北防波堤灯台から228度(真方位、以下同じ)60メートルの地点に達したとき、針路を同港北防波堤と第2北防波堤とからなる切通し(以下「切通し」という。)に向く355度に定め、機関を全速力前進にかけ、13.0ノットの対地速力とし、しぶきが上がり始めて操舵室から前方が見えにくくなったので同室外の左舷側後部に移って手動操舵にあたり、折からの風浪により左方に3度圧流されながら進行した。
定針したころ、A受審人は、視界がよかったので左舷船首方1,800メートルの、第2北防波堤東側に係留している白色塗装のプレジャーボートを視認したものの、操舵室外の左舷側後部で立ったまま動かずに操舵を続けていたので、同室の前方にあたる船首方の見張りがおろそかになり、左舷船首3度1,270メートルにかもめがいたが、他船はいないものと思って続航した。
こうして、A受審人は、船首方にあまり注意を払わずに進行し、06時24分少し前酒田灯台から232度1,640メートルの地点に達したとき、左舷船首3度500メートルにかもめが存在し、その船首から伸びた錨索と風に立って止まっている様子から錨泊中であると認めることができ、その後方位が変わらず衝突のおそれがある態勢で接近したが、依然前路に錨泊中の他船はいないものと思い、背伸びをするとか身体を左舷側一杯に移動するなどして、前路の見張りを十分に行うことなく、かもめに気付かず、右転するなどして同船を避けることなく進行中、観音丸は、06時25分酒田灯台から249度1,460メートルの地点において、原針路、原速力のまま、その右舷船首がかもめの右舷船首部に前方から20度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風力3の南南東風が吹き、潮候は低潮時であった。
A受審人は、衝撃で衝突したことを知り、事後の措置にあたった。
また、かもめは、FRP製プレジャーボートで、B受審人が1人で乗り組み、釣りの目的で、船首0.2メートル船尾0.5メートルの喫水をもって、同日06時05分酒田港に注ぐ豊川河口右岸の定係地を発し、同港北防波堤西側の釣場に向かった。
06時13分ころB受審人は、切通し付近に達し沖合の状況を観察したところ予想以上にうねりが高かったので、防波堤の内側で釣りを行うこととし、ほぼ酒田港内中央付近で漂泊して釣りを始め、しばらくして入航する貨物船が至近を通過したことで、釣場を替えることとし、同時20分水深13メートルの前示衝突地点付近に至り、長さ50メートル径10ミリメートルのクレモナロープの先端に約10キログラムのストックレスアンカーを取り付け、これを船首から投じて同ロープを約20メートルに調整し、船首を風に立て、航行する船舶の多い同港内であるが、錨泊中の形象物を表示せず、機関を停止して釣りを再開した。
06時22分少し前B受審人は、船首が155度を向いていたとき、右舷船首20度1,270メートルのところに、観音丸を初認し、しばらく様子を見ていたところ、同船が切通しに向かって北上しているのを認め、同時24分少し前同船が同方位500メートルに近づき、その後方位変化がなく衝突のおそれがある態勢で接近する状況になったが、港内で錨泊していても他船は近づいてから自船を替わしていくものと思い、避航を促すための有効な音響による信号を行わず、引き続き機関を後進にかけ錨索を伸ばすなどして観音丸との衝突を避けるための措置をとることなく錨泊を続けた。
B受審人は、観音丸が同方位のまま至近に迫ったので衝突の危険を感じ、左舷船首から海中に飛び込んだのち、かもめは、船首が同方向を向いたまま、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、観音丸は、船首部外板に擦過傷を生じ、かもめは、右舷船首部外板と操舵室を圧壊し、観音丸により船溜まりに引きつけられたが全損となり、B受審人は同船に救助された。
(原因)
本件衝突は、酒田港において、観音丸が、見張り不十分で、形象物を表示せずに錨泊中のかもめを避けなかったことによって発生したが、かもめが、避航を促すための有効な音響による信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
A受審人は、酒田港において、右舷前方からしぶきを受け、操舵室内から前方の見通しが悪い状況下、同室外の左舷側後部に立って操船にあたり漁場に向かう場合、前路で錨泊中のかもめを見落とすことのないよう、背伸びをするとか身体を左舷側一杯に移動するなどして前路の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかしながら、同人は、前路に錨泊中の他船はいないものと思い、前路の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、錨泊して魚釣り中のかもめに気付かず、右転するなどして同船を避けることなく進行して衝突を招き、観音丸の船首部外板に擦過傷を生じただけであったが、かもめの右舷船首部外板と操舵室を圧壊して全損させるに至った。
B受審人は、酒田港において、同港沖合がうねりが高い状態だったので沖合に出ることを取り止め、港内で錨泊して魚釣り中、観音丸が衝突のおそれがある態勢で間近に接近するのを認めた場合、機関を後進にかけ錨索を伸ばすなどして観音丸との衝突を避けるための措置をとるべき注意義務があった。しかしながら、同人は、港内で錨泊していても他船は近づいてから自船を替わしていくものと思い、観音丸との衝突を避けるための措置をとらなかった職務上の過失により、錨泊を続けて衝突を招き、前示の損傷を生じさせるに至った。