(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成14年8月22日15時00分
岩手県大船渡港
2 船舶の要目
船種船名 |
貨物船第六十一龍丸 |
作業船第92佐賀丸 |
総トン数 |
499トン |
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全長 |
76.583メートル |
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登録長 |
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8.76メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
1,176キロワット |
51キロワット |
3 事実の経過
第六十一龍丸(以下「龍丸」という。)は、主として東北電力原町火力発電所で生じる石炭灰などを、岩手県大船渡港に運搬する船尾船橋型鋼製貨物船で、A受審人ほか4人が乗り組み、同港奥北部にある太平洋セメント株式会社1号岸壁で揚げ荷を終え、空倉のまま、船首2.10メートル船尾4.10メートルの喫水をもって、平成14年8月22日14時53分同岸壁を離岸し、福島県久之浜港に向かった。
A受審人は、揚錨を終えると船首配置を解除し、単独で操船にあたって徐々に速力を上げながら港内を南下し、14時57分標高63メートルの弁天山頂の三角点(以下「弁天山三角点」という。)から342度(真方位、以下同じ。)1,415メートルの地点に達したとき、針路を184度に定め、機関をほぼ微速力前進にかけ、5.5ノットの対地速力(以下「速力」という。)で手動操舵により進行した。
定針したころA受審人は、左舷船首方0.6海里ばかりの港奥東部にあたる地点でクレーン台船が港湾土木工事に従事しており、第92佐賀丸(以下「佐賀丸」という。)が、同台船を囲んでいるオイルフェンスから外に出てきたところを初認した。
その後A受審人は、小型の作業船である佐賀丸が前路を右方に横切る態勢で進行しているのを認めたが、これまでこの種の作業船は港内では間近に接近してから急に進路を変えて自船を避けることが多かったので、動静監視を行わないまま続航した。
14時57分半わずか前A受審人は、弁天山三角点から337度1,350メートルの地点に達したとき、佐賀丸が左舷船首25度850メートルのところで定針し、その後同船の方位が変わらず衝突のおそれがある態勢で接近する状況となったが、これまでのように相手船は間近に接近してから進路を変えるものと思い、依然動静監視を十分に行わなかったので、このことに気付かず、警告信号を行うことも、行きあしを止めるなどの衝突を避けるための協力動作をとることもなく進行した。
15時00分少し前A受審人は、至近に迫った佐賀丸に避航する気配がないことに気付いてようやく危険を感じ、左舵一杯をとるとともに機関を後進に操作したが、及ばず、15時00分弁天山三角点から326度985メートルの地点において、龍丸は、ほぼ原針路、原速力のまま、その船首が佐賀丸の右舷中央部に前方から47度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風力1の西風が吹き、視界は良好であった。
また、佐賀丸は、港湾土木工事にあたるクレーン台船等を支援する鋼製作業船で、平成14年1月から大船渡港奥東部の地盤改良工事に従事していたところ、クレーン台船の作業員を迎えに行くこととなり、B受審人が単独で乗り組み、船首0.40メートル船尾1.00メートルの喫水をもって、同年8月22日14時55分弁天山三角点から321度410メートルの地点に停泊中の同台船を離れ、港奥西部の大船渡市茶屋前にある岸壁に向かった。
B受審人は、クレーン台船を囲んでいる汚濁防止用のオイルフェンスを警戒船に開けさせて外に出た際、周囲を一瞥して航行中の船舶を見かけなかったので、航行中の他船はいないものと思い、操舵室右舷寄りに立った姿勢のまま操船にあたった。
ところで佐賀丸の操舵室は、同室前部中央に操舵スタンドが、前部右側端近くに機関の操縦ハンドルがそれぞれ装備され、前壁上半部が窓によって三分割されており、操舵スタンドと操縦ハンドルの間に立った操船者から前方の見通しは良好であったが、窓付きの引き戸が設けられている両側壁には、側壁前端から引き戸間約50センチメートルの範囲に窓がないため、操船者から右舷方の広範囲に死角が生ずる構造となっていた。
14時57分半わずか前B受審人は、弁天山三角点から334度515メートルの地点に達したとき、針路を317度に定め、機関を半速力前進にかけて6.0ノットの速力で手動操舵により進行した。
B受審人は、定針したとき右舷船首22度850メートルのところに龍丸を認めることができ、その後同船の方位が変わらず衝突のおそれのある態勢で接近する状況となったが、依然定針する前と状況は変わらず周囲に航行中の船舶はいないものと思い、身体を傾けるなどして右舷方の死角を補う見張りを十分に行わなかったので、このことに気付かず、死角に入っていた龍丸を見落としたまま、行きあしを止めるなどして同船の進路を避けることなく続航した。
15時00分わずか前B受審人は、ほぼ船首至近に龍丸の船首を初めて認め、驚いて左舵一杯をとったが、及ばず、佐賀丸は、原針路、原速力のまま前示のとおり衝突した。
衝突の結果、龍丸は、バルバスバウに擦過傷を生じただけであったが、佐賀丸は、右舷側外板に亀裂を生じて機関室に浸水したほか、キール及び左舷側船底外板に凹損を生じ、B受審人が骨盤骨折等を負った。
(原因)
本件衝突は、大船渡港において、両船が互いに進路を横切り、衝突のおそれがある態勢で接近中、佐賀丸が、見張り不十分で、前路を左方に横切る龍丸の進路を避けなかったことによって発生したが、龍丸が、動静監視不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
B受審人は、大船渡港において、単独で操船にあたり、港奥西部に向けて北西進する場合、操船位置から右舷方の広範囲に死角があったのであるから、接近する他船を見落とすことのないよう、身体を傾けるなどして死角を補う見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに同人は、定針する前周囲を一瞥して航行中の他船を見かけなかったので、その後も状況は変わらず周囲に航行中の他船はいないものと思い、死角を補う見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、前路を左方に横切り衝突のおそれのある態勢で接近する龍丸に気付かず、行きあしを止めるなどして同船の進路を避けることなく進行して衝突を招き、龍丸のバルバスバウに擦過傷を、佐賀丸の右舷側外板に亀裂を、キール及び左舷側船底外板に凹損をそれぞれ生じさせ、同船の機関室に浸水させたほか、自らも骨盤骨折等を負うに至った。
A受審人は、大船渡港を出航中、前路を右方に横切る態勢で接近する佐賀丸を認めた場合、衝突のおそれの有無を適切に判断できるよう、動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに同人は、これまでのように相手船は間近に接近してから進路を変えるものと思い、動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、佐賀丸が衝突のおそれのある態勢で接近していることに気付かず、警告信号を行うことも、行きあしを止めるなどの衝突を避けるための協力動作をとることもせずに進行して同船との衝突を招き、前示の損傷等を生じさせるに至った。