(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成14年9月16日09時00分
北海道釧路港
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船第三十一幸洋丸 |
総トン数 |
19トン |
全長 |
22.6メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
478キロワット |
3 事実の経過
第三十一幸洋丸(以下「幸洋丸」という。)は、さんま棒受け網漁業に従事する中央船橋型FRP製漁船で、A受審人ほか5人が乗り組み、操業の目的で、船首0.8メートル船尾2.3メートルの喫水をもって、平成14年9月14日13時00分北海道釧路港を発し、襟裳岬東方35海里ばかりの漁場に向かった。
ところで、A受審人は、同年8月10日岩手県山田港から釧路港に幸洋丸を回航し、同港を基地としてさんま漁に従事していたが、漁場の近いこともあって漁場との往復の船橋当直に自ら単独で当たり、また、漁ろう長を兼ねていて操業中の作業指揮と操船も行うなど、出漁中ほとんど休息をとれず、疲労が蓄積した状態になっていた。
出港後A受審人は、いつものように単独の船橋当直に就き18時ごろ漁場に至り操業を開始したものの、漁模様が良くなかったことから帰港を取り止め、翌15日05時ごろから漂泊を始めて6時間ばかりの休息をとったが、僚船との無線連絡等により断続的な休息となった。
A受審人は、同日15時00分魚群探索を開始し、日没時から網を入れ、さんま16トンを漁獲したところで操業を打ち切り、翌16日03時00分船首1.4メートル船尾2.3メートルとなった喫水により、襟裳岬灯台から076度(真方位、以下同じ。)29.1海里の地点を発進し、帰途に就いた。
発進したときA受審人は、針路をGPSプロッターにより釧路港に向く020度に定め、機関を回転数毎分1,100の全速力前進にかけ、10.0ノットの対地速力で、自動操舵により進行した。
A受審人は、乗組員を休息させて単独で船橋当直に就き、上部操舵室のいすに腰を掛け、見張りに当たって続航し、08時00分釧路港西区南防波堤東灯台(以下「西区南防波堤東灯台」という。)から201度10.0海里の地点に達したとき、1箇月に及ぶさんま漁により蓄積していた疲労に加え、夜間操業に続く長時間の船橋当直のため眠気を催したが、もう少しで入港だから眠気に耐えられるものと思い、休息中の乗組員を起こして見張りに当たらせるなど、居眠り運航の防止措置をとることなく進行するうち、いつしか居眠りに陥った。
こうして幸洋丸は、居眠り運航となり、釧路港西区南防波堤に向首し、同一針路、速力のまま続航中、09時00分西区南防波堤東灯台から278度510メートルの地点において、同防波堤の消波ブロックに、原針路、原速力で衝突した。
当時、天候は晴で風力3の北東風が吹き、潮候は上げ潮の中央期であった。
衝突の結果、幸洋丸は、球状船首部及び船首部左舷外板に破口を、船首部右舷外板に擦過傷等をそれぞれ生じたが、引船により釧路港に引き付けられ、のち修理された。
(原因)
本件防波堤衝突は、漁場から北海道釧路港に向け帰航中、居眠り運航の防止措置が不十分で、同港の防波堤に向首したまま進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、単独の船橋当直に就いて漁場から釧路港に向け自動操舵により帰航中、眠気を催した場合、1箇月に及ぶさんま漁により蓄積していた疲労に加え、夜間操業に続く長時間の船橋当直に当たっていたから、居眠り運航とならないよう、休息中の乗組員を起こして見張りに当たらせるなど、居眠り運航の防止措置をとるべき注意義務があった。ところが、同受審人は、もう少しで入港だから眠気に耐えられるものと思い、休息中の乗組員を起こして見張りに当たらせるなど、居眠り運航の防止措置をとらなかった職務上の過失により、居眠りに陥り、釧路港の防波堤に向首したまま進行して同防波堤との衝突を招き、幸洋丸の球状船首部及び船首部左舷外板に破口を、船首部右舷外板に擦過傷等をそれぞれ生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。