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平成15年門審第17号
件名

遊漁船マリンチャレンジャー漁船第十一福龍丸衝突事件(簡易)

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成15年4月25日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(西村敏和)

副理事官
小俣幸伸

受審人
A 職名:マリンチャレンジャー船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
B 職名:第十一福龍丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士

損害
マリンチャレンジャー・・・右舷船首部に擦過傷
福龍丸・・・・・・・・・・左舷中央部外板及び左舷灯に損傷

原因
マリンチャレンジャー・・・見張り不十分、追い越しの航法(避航動作)不遵守(主因)
福龍丸・・・・・・・・・・見張り不十分、注意喚起信号不履行、追い越しの航法(協力動作)不遵守(一因)

裁決主文


 本件衝突は、第十一福龍丸を追い越すマリンチャレンジャーが、見張り不十分で、第十一福龍丸を確実に追い越し、かつ、十分に遠ざかるまでその進路を避けなかったことによって発生したが、第十一福龍丸が、見張り不十分で、注意喚起信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Bを戒告する。

適条


 海難審判法第4条第2項、同法第5条第1項第3号
 
裁決理由の要旨

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成14年4月16日10時40分
 鹿児島県口永良部島南西方
 
2 船舶の要目
船種船名 遊漁マリンチャレンジャー 船漁船第十一福龍丸
総トン数 19トン 4.98トン
登録長 14.91メートル 9.90メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 661キロワット  
漁船法馬力数   50

3 事実の経過
 マリンチャレンジャーは、専ら鹿児島県吐喇(とから)群島周辺海域において遊漁船業に従事する、2機2軸を備えた最大搭載人員30人のFRP製遊漁船で、A受審人ほか1人が乗り組み、釣り客7人を乗せ、釣りの目的で、 船首0.8メートル船尾1.4メートルの喫水をもって、平成14年4月15日03時00分鹿児島県山川港を発し、吐喇群島口之島周辺の釣り場に向かった。
 A受審人は、機関を全速力前進にかけ、19.0ノットの速力(対地速力、以下同じ。)で、大隅群島口永良部島西方を通過して吐喇海峡を南下し、同日08時00分ごろ口之島北東約8海里の平瀬付近の釣り場に到着して釣りを行い、19時00分ごろ口之島沖で錨泊して休息をとった。
 16日05時10分A受審人は、口之島沖を抜錨し、再度平瀬付近の釣り場で釣りを行った後、口之島北西約4海里の芽瀬付近の釣り場に移動して釣りを続け、09時40分釣りを止め、西之浜港南防波堤灯台から333度(真方位、以下同じ。)4.7海里の地点を発進し、山川港に向けて帰途に就いた。
 A受審人は、操舵室右舷側でいすに腰を掛けて操船に当たり、発進して間もなく、操舵装置と連動させたGPSプロッタに、口永良部島北西端の野埼西方沖約150メートルを通過予定地点として入力し、同地点に自動操舵で到達できる自動航法モードに設定して、針路を029度に定め、機関を回転数毎分1,900の半速力前進にかけ、14.0ノットの速力で、口永良部島西方の通過予定地点に向けて進行した。
 A受審人は、吐喇海峡を北上するうち、海上が時化模様となって船首から波しぶきが打ち上がるようになり、レーダーの画面上で前方1.5海里のところに、0.1海里幅で扇形に警報範囲(以下「接近警報」という。)を設定していたことから、海面反射の映像(以下「海面反射」という。)に反応して警報音が発せられ、その都度警報音を止める操作を行っていたところ、10時28分少し過ぎ野埼灯台から210.5度18.0海里の地点に差し掛かったとき、右舷船首7度1.5海里のところに第十一福龍丸(以下「福龍丸」という。)が存在し、同船のレーダー映像が接近警報の設定範囲に入って警報音が発せられたが、海面反射に反応したものと思い、同映像を確認することなく、警報音を止める操作を行った。
 A受審人は、この時化の中で操業する小型漁船はいないので、レーダーの感度を絞っても支障はないものと思い、海面反射を除去するために感度調整を始め、10時30分野埼灯台から211度17.5海里の地点に達したとき、接近警報が海面反射に反応しないようになるまで感度を絞って調整を終え、1.5海里レンジとしたレーダーで周囲の状況を確認したところ、右舷船首7度1.3海里のところに福龍丸が存在したが、同船の映像が表示されていなかったことから、その存在に気付かず、他船が前方1.5海里に接近して警報音が発せられてからでも避けることができるので、仕事の予定や段取りなどを決めておこうと思い立ち、その後はレーダーの接近警報に頼って目視による見張りを行わず、メモ帳を取り出し、操舵室右舷側でいすに腰を掛けたまま、これを見ながら仕事の段取りなどの考え事を始めた。
 15時37分A受審人は、野埼灯台から211度15.9海里の地点に差し掛かったとき、右舷船首7度710メートルのところに福龍丸を視認し得る状況となり、その後、同船の方位に明確な変化がなく、追い越す態勢で接近したが、メモ帳を見ながら考え事を続けていて、見張りを十分に行っていなかったので、このことに気付かず、福龍丸を確実に追い越し、かつ、十分に遠ざかるまでその進路を避けることなく続航した。  
 こうして、A受審人は、レーダーの接近警報に頼って、考え事をしながら進行し、10時39分野埼灯台から211度15.4海里の地点に達したとき、福龍丸に衝突のおそれのある態勢で240メートルまで接近したが、依然として、見張りを十分に行っていなかったので、このことに気付かず、福龍丸の進路を避けないまま続航中、10時40分わずか前右舷船首至近に福龍丸が立てていた竿を認め、急いで左舵一杯をとったが、効なく、10時40分野埼灯台から211度15.2海里の地点において、マリンチャレンジャーは、ほぼ原針路、原速力のまま、その右舷船首が、福龍丸の左舷中央部に後方から約14度の角度で衝突した。
 当時、天候は曇で風力4の南南西風が吹き、潮候は下げ潮の中央期に当たり、付近海域には約0.6ノットの東流があり、視界は良好であった。
 また、福龍丸は、ひき縄漁に従事するFRP製漁船で、B受審人が1人で乗り組み、 操業の目的で、船首0.4メートル船尾1.5メートルの喫水をもって、同月13日05時00分鹿児島県枕崎港を発し、口永良部島周辺の漁場に向かった。
 ところで、福龍丸は、枕崎港を基地として周年ひき縄漁に従事しており、1航海3日の予定で出漁して昼間に操業し、夜間は最寄りの漁港や島影で仮泊して休息をとる操業形態を採り、長さ約12メートルの竿を中央に1本立て、両舷側から各1本を出して、それぞれの竿から擬餌針を付けた長さ約200メートルのひき縄を延ばし、約5ノットの速力で引いてかつおなどを漁獲していた。
 B受審人は、ひき縄漁を操業しながら大隅海峡を南下し、13日21時ごろ口永良部漁港に寄港して休息をとり、14、15両日は更に南下して吐喇群島臥蛇島及び中之島周辺海域で操業し、15日夜間は中之島北西沖で錨泊して休息をとった。
 16日06時00分B受審人は、中之島北西沖を抜錨し、同島北西海域で操業していたものの、波浪注意報が発表され、海上が時化模様となることが予想されたので、07時00分かつおなど約270キログラムを漁獲したところで操業を切り上げ、ひき縄を取り込み、横揺れを緩和するために竿3本を出したまま、中之島灯台から322度5.5海里の地点を発進し、水揚げのため口之島及び口永良部島西方経由で枕崎港に向けて帰途に就いた。
 B受審人は、操舵室右舷側で渡し板に腰を掛けて操船に当たり、レーダーを6海里レンジとして作動し、08時08分西之浜港南防波堤灯台から317度1.8海里の地点において、針路を015度に定め、機関を全速力前進の回転数から少し下げた毎分1,400回転とし、風潮流の影響を受けて、021度の実航針路及び6.5ノットの速力で、自動操舵によって進行した。
 B受審人は、吐喇海峡を北上するにつれて潮目に漂う流れ藻が多くなったことから、これをプロペラに絡ませないよう、前路の流れ藻を探しながら続航していたところ、10時37分野埼灯台から211度15.9海里の地点に差し掛かったとき、左舷船尾21度710メートルのところにマリンチャレンジャーを視認し得る状況となり、その後、その方位に明確な変化がなく、自船を追い越す態勢で接近したが、前路の流れ藻を探すことに気を取られ、周囲の見張りを十分に行っていなかったので、このことに気付かずに進行した。
 こうして、B受審人は、左舷後方から衝突のおそれのある態勢で接近するマリンチャレンジャーに気付かないまま続航し、10時39分野埼灯台から211度15.3海里の地点に達したとき、マリンチャレンジャーが同方位240メートルのところに接近したが、依然として、前路の流れ藻を探すことに気を取られ、周囲の見張りを十分に行っていなかったので、このことに気付かず、電気ホーンを吹鳴して注意喚起信号を行うことも、間近に接近して右転するなど衝突を避けるための協力動作をとることもせずに進行中、福龍丸は、原針路、原速力のまま、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、マリンチャレンジャーは、右舷船首部に擦過傷及びハンドレールに曲損などを生じ、福龍丸は、左舷中央部外板及び左舷灯に損傷を生じたが、のちいずれも修理された。

(原因)
 本件衝突は、鹿児島県口永良部島南西方において、第十一福龍丸を追い越すマリンチャレンジャーが、見張り不十分で、第十一福龍丸を確実に追い越し、かつ、十分に遠ざかるまでその進路を避けなかったことによって発生したが、第十一福龍丸が、見張り不十分で、注意喚起信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 
(受審人の所為)
 A受審人は、鹿児島県口永良部島南西方において、吐喇群島周辺の釣り場から同県山川港に向けて帰航する場合、接近する他船を見落とすことのないよう、見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、他船が前方1.5海里に接近してレーダーの接近警報が発せられてからでも、これを避けることができるので、仕事の段取りなどを決めておこうと思い、レーダーの接近警報に頼ってメモ帳を見ながら考え事を続け、見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、方位に明確な変化がないまま、第十一福龍丸を追い越す態勢で接近していることに気付かず、同船を確実に追い越し、かつ、十分に遠ざかるまでその進路を避けることなく進行して衝突を招き、マリンチャレンジャーは右舷船首部に擦過傷及びハンドレールに曲損などを生じ、第十一福龍丸は左舷中央部外板及び左舷灯に損傷を生じさせるに至った。
 B受審人は、鹿児島県口永良部島南西方において、吐喇群島周辺の漁場から水揚げのために同県枕崎港に向かう場合、接近する他船を見落とすことのないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、潮目に漂う流れ藻をプロペラに絡ませないよう、前路の流れ藻を探すことに気を取られ、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、方位に明確な変化がないまま、追い越す態勢で接近するマリンチャレンジャーに気付かず、電気ホーンを吹鳴して注意喚起信号を行うことも、間近に接近して右転するなど衝突を避けるための協力動作をとることもせずに進行して同船との衝突を招き、前示の損傷を生じさせるに至った。


参考図





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