(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成14年6月4日17時01分
長崎県対馬東方沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船和栄丸 |
漁船第2明神丸 |
総トン数 |
9.7トン |
6.2トン |
登録長 |
13.91メートル |
11.22メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
308キロワット |
|
漁船法馬力数 |
|
120 |
3 事実の経過
和栄丸は、主にいか一本釣り漁業に従事するFRP製漁船で、A受審人が単独で乗り組み、操業の目的で、船首0.5メートル船尾1.2メートルの喫水をもって、平成14年6月4日15時55分長崎県志多賀漁港を発し、同港北北東方沖合20海里付近の漁場へ向かった。
16時01分半A受審人は、琴埼灯台から216度(真方位、以下同じ。)5.4海里の地点で、針路を069度に定め、機関を回転数毎分1,800の全速力前進に掛け、12.0ノットの対地速力(以下「速力」という。)で、自動操舵によって進行した。
ところで、A受審人は、自船が全速力前進で航走すると、船首部が浮上して水平線とほぼ同じ高さになり、船首の陰に隠れた部分が死角となることから、適宜、レーダーを活用するなどして、その死角を補いながら見張りに当たっていたものであった。
16時57分ごろA受審人は、右舷船首45度付近1,300メートルばかりのところに、自船と同じいか一本釣り漁に従事する同業船を視認したので、双眼鏡を用いてその船名を確かめていたところ、17時00分少し前琴埼灯台から092度7.6海里の地点に達したとき、正船首方500メートルのところに、第2明神丸(以下「明神丸」という。)を視認でき、その後、同船が、まき網船団の灯船と思われる船体であることや、行きあしがないことなどから、魚群探索のために漂泊していると判断できる状況となったが、対馬東岸から遠く離れた海域であり、付近に危険な他船を見受けなかったことなどから、船首方の死角内に航行の支障となる船はいないものと思い、前示同業船の船名を確かめることに気を取られ、レーダーを活用するなどして死角を補う見張りを十分に行わなかったので、船首の陰に隠れた明神丸に気付かないまま続航した。
こうして、17時00分半A受審人は、漂泊中の明神丸に200メートルのところまで接近し、衝突のおそれがある状況となったが、依然として、死角を補う見張りを十分に行わなかったので、このことに気付かず、同船を避けないまま進行中、17時01分琴埼灯台から091度7.9海里の地点において、和栄丸は、原針路、原速力で、その船首が、明神丸の右舷中央部に直角に衝突した。
当時、天候は晴で風はなく、視界は良好であった。
また、明神丸は、主にまき網船団の灯船として使用されるエアーホーン等を装備していないFRP製漁船で、B受審人が単独で乗り組み、網船1隻、運搬船2隻及び自船を含む灯船3隻の計6隻で船団を成し、操業の目的で、船首0.3メートル船尾1.5メートルの喫水をもって、同日15時00分長崎県比田勝港を発し、同港南東方沖合の漁場へ向かった。
15時40分B受審人は、同港南東方約8海里に在るオロン岳曽根に到着して魚群探索を始め、同曽根周辺で35分ばかり探索を続けたものの、魚群を見つけることができなかったことから、遅れて到着した他の灯船に同海域での探索を任せ、16時30分2海里半ばかり南方の前示衝突地点至近に移動して再び探索を始めた。
そして、17時00分少し前B受審人は、行きあしを止め、機関を中立運転として漂泊を行い、船首を南南東方に向けて魚群探索中、右舷正横付近500メートルのところに、自船に向首して接近する和栄丸を視認できる状況となったが、魚群を探そうとして魚群探知器やソナーを監視することに気を取られ、周囲の見張りを十分に行わなかったので、同船に気付かないまま漂泊を続けた。
こうして、17時00分半B受審人は、和栄丸が、自船から200メートルのところまで接近して、衝突のおそれがある状況となったが、依然として、周囲の見張りを十分に行わなかったので、このことに気付かず、機関を使用して場所を移動するなどの衝突を避けるための措置をとることなく漂泊中、明神丸は、船首を159度に向けていたとき、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、和栄丸は、球状船首部を圧壊し、明神丸は、右舷中央部外板に破口を生じ、曳航される途中に沈没した。
(原因)
本件衝突は、長崎県対馬東方沖合において、漁場へ向けて航行中の和栄丸が、見張り不十分で、漂泊中の明神丸を避けなかったことによって発生したが、明神丸が、見張り不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
A受審人は、長崎県対馬東方沖合において、漁場へ向けて航行中、自船の船首部が浮上して船首の陰に隠れた部分が死角となる場合、死角内の他船を見落とすことがないよう、レーダーを活用するなどして船首方の死角を補う見張りを十分に行うべき注意義務があった。ところが、同人は、対馬東岸から遠く離れた海域であり、付近に危険な他船を見受けなかったことなどから、船首方の死角内に航行の支障となる船はいないものと思い、右舷側の同業船の船名を確かめることに気を取られ、死角を補う見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、船首の陰に隠れて漂泊中の明神丸に気付かず、同船を避けることなく進行して衝突を招き、自船の球状船首部を圧壊するとともに、明神丸の右舷中央部外板に破口を生じさせて沈没させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の一級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
B受審人は、長崎県対馬東方沖合において、まき網船団の灯船として魚群探索中、機関を中立運転として漂泊する場合、接近する他船を見落とすことがないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。ところが、同人は、魚群を探そうとして魚群探知器やソナーを監視することに気を取られ、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、和栄丸が、衝突のおそれがある態勢で接近することに気付かず、機関を使用して場所を移動するなどの衝突を避けるための措置をとることなく漂泊を続けて衝突を招き、前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する 。
よって主文のとおり裁決する。