(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成13年6月17日07時45分
大分県佐伯湾
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船第三十八与福丸 |
プレジャーボートやす丸 |
総トン数 |
3.3トン |
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全長 |
12.85メートル |
6.35メートル |
登録長 |
10.54メートル |
5.67メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
電気点火機関 |
出力 |
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44キロワット |
漁船法馬力数 |
70 |
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3 事実の経過
第三十八与福丸(以下「与福丸」という。)は、船体後部に操舵室を有するFRP製漁船で、A受審人が1人で乗り組み、佐伯湾内に設置された養殖いかだの養殖魚管理の目的で、船首0.25メートル船尾1.20メートルの喫水をもって、平成13年6月17日07時25分大分県大入島漁港を発し、片白島西岸沖合の養殖いかだに立ち寄って作業を行ったのち、同時42分大入島日向泊浦沖合の養殖いかだに向け発進した。
07時43分わずか前A受審人は、元ケ鼻中瀬照射灯から104度(真方位、以下同じ。)820メートルの地点で、針路を306度に定め、機関を回転数毎分1,950にかけ、18.0ノットの対地速力で、操舵室右舷側に設けられた舵輪の後方に立って手動操舵により進行した。
ところで与福丸は、機関回転数毎分1,950で航走すると船首が浮上し、舵輪の後方に立つと、正船首から右舷側に約4度、左舷側に約8度の範囲の見通しが妨げられて死角を生じるので、A受審人は平素、左右両舷の窓から顔を出して前方を見るなど、死角を補う見張りを行っていた。
こうして07時44分A受審人は、元ケ鼻中瀬照射灯から063度340メートルの地点に達したとき、正船首550メートルのところにやす丸を視認でき、その後、錨泊中の船舶が表示する形象物を掲げていなかったものの、船首を北東方に向けたまま移動しないことや、前方に張った錨索などから、錨泊中であることが分かる同船に向首し、衝突のおそれがある態勢で接近するのを認め得る状況であったが、右舷側至近を同航する同業の漁船に気を取られ、左右両舷の窓から顔を出して前方を見るなど、船首方の死角を補う見張りを十分に行わなかったので、この状況に気付かず、やす丸を避けることなく続航した。
A受審人は、依然、船首死角を補う見張りを行わず、やす丸の存在に気付かないまま進行中、07時45分元ケ鼻中瀬照射灯から343度500メートルの地点において、与福丸は、原針路、原速力で、その船首が、やす丸の右舷船首に前方から81度の角度で衝突し、同船を乗り切った。
当時、天候は曇で風力1の北東風が吹き、潮候は下げ潮の中央期で、視界は良好であった。
また、やす丸は、船体後部に操縦席を有し、セルモーター始動式船外機を装備したFRP製プレジャーボートで、B受審人が1人で乗り組み、知人2人を同乗させ、あじ一本釣りの目的で、船首0.14メートル船尾0.40メートルの喫水をもって、同日05時40分同県佐伯市中江川の係留地を発し、佐伯湾内の釣り場に向かった。
B受審人は、05時50分片白島西岸沖合に至り、釣りを行ったものの、釣果がなかったので、07時00分前示衝突地点付近に移動し、同時05分機関を停止して、重さ8キログラムの錨を水深20メートルの海底に下ろし、長さ6メートルの錨鎖に結んだ直径14ミリメートルの合成繊維製錨索を右舷船首より20メートル延出してウインチに止め、錨泊中の船舶が表示する形象物を掲げないまま錨泊し、後部甲板で船尾方を向いてクーラーボックスに腰掛け、周囲の景色を楽しんだり、前部甲板に置いたクーラーボックスに腰を掛けて右舷側で竿釣りを始めた知人2人と雑談をしていた。
B受審人は、07時44分少し前船首が045度を向いていたとき、右舷船首81度700メートルのところに西行して自船に近づく態勢の与福丸及びその右舷側に同航する漁船を認めたが、航行中の船舶が錨泊中の自船を避けるものと思い、その後の動静監視を十分に行わなかったので、同時44分には与福丸が同方位550メートルとなり、その後、自船に向首して衝突のおそれがある態勢で接近していることに気付かず、有効な音響による注意喚起信号を行うことも、更に接近したとき、機関を始動して移動するなど、衝突を避けるための措置をとることもなく錨泊を続けた。
B受審人は、07時45分少し前機関音を聞いて右舷側に目をやると、与福丸が至近に迫っていることに気付き、衝突の危険を感じて海中に逃げるよう知人に指示したのち、自らも海中に飛び込んだ直後、やす丸は、船首を045度に向けたまま、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、与福丸は、やす丸を乗り切って左舷船首防舷材に擦過傷を生じ、やす丸は、左右両舷船首部を圧壊し、やす丸は修理費の関係で廃船処理された。また、海中に逃れたB受審人ら3人は、与福丸に救助された。
(原因)
本件衝突は、大分県佐伯湾の大入島東方沖合において、西行中の与福丸が、見張り不十分で、錨泊中のやす丸を避けなかったことによって発生したが、やす丸が、動静監視不十分で、有効な音響による注意喚起信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
A受審人は、大分県佐伯湾の大入島東方沖合を西行する場合、船首部の浮上により船首方に死角を生じていたのであるから、前路で錨泊中の他船を見落とすことがないよう、操舵室左右の窓から顔を出して前方を見るなど、死角を補う見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、右舷側至近を同航する同業の漁船に気を取られ、船首方の死角を補う見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、錨泊中のやす丸に気付かず、同船を避けることなく進行して衝突を招き、与福丸の左舷船首防舷材に擦過傷を、やす丸の左右両舷船首部に圧壊をそれぞれ生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同受審人を戒告する。
B受審人は、大分県佐伯湾の大入島東方沖合において錨泊中、西行して自船に近づく態勢の与福丸を認めた場合、衝突のおそれがあるかどうか判断できるよう、同船に対する動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、航行中の船舶が錨泊中の自船を避けるものと思い、与福丸に対する動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、同船が衝突のおそれのある態勢で接近していることに気付かず、有効な音響による注意喚起信号を行うことも、更に接近したとき機関を始動して移動するなど、衝突を避けるための措置をとることもなく錨泊を続けて同船との衝突を招き、前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同受審人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。