(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成13年6月13日15時37分
大分県関埼沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
貨物船第十萬栄丸 |
漁船海洋丸 |
総トン数 |
499トン |
2.8トン |
全長 |
69.0メートル |
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登録長 |
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8.60メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
735キロワット |
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漁船法馬力数 |
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70 |
3 事実の経過
第十萬栄丸は、船尾船橋型の石材砂利砂運搬船で、船長I、A受審人ほか2人が乗り組み、製鋼スラグ1,600トンを載せ、船首3.80メートル船尾4.80メートルの喫水をもって、平成13年6月13日14時10分大分県大分港を発し、宮崎県宮崎港に向かった。
14時30分A受審人は、別府航路第3号灯浮標の南西1海里付近で、昇橋して単独の船橋当直につき、別府湾を東行した。
15時24分半A受審人は、大分県関埼灯台から317度(真方位、以下同じ。)1.2海里の地点で、針路を128度に定め、機関を全速力前進にかけ、折からの南東流により右方に約1度圧流され、11.6ノットの速力(対地速力、以下同じ。)で、関埼と高島の間の水域を航行するために手動操舵として進行した。
ところで、第十萬栄丸は前部甲板に設置されたジブクレーンの上部構造物により、操舵室中央の舵輪の後方において、正船首から左右両舷に各3度の死角が生じており、A受審人は、時々操舵室内を左右に移動するなどして死角を補う見張りを行うべきことを知っていた。
15時35分少し前A受審人は、関埼灯台から117度1,600メートルの地点に達したとき、関埼と高島の間の水域を通過したので、針路を135度に転じ、自動操舵に切り替え、折からの南東流に乗じて11.7ノットの速力で続航した。
A受審人は、転針を終えたとき、ほぼ正船首800メートルのところに、漂泊中の海洋丸を視認することができる状況となり、その後、方位が変わらず衝突のおそれのある態勢で接近したが、海面反射除去等の調整を適切に行っていない3海里レンジとしたレーダーを一瞥して他船の映像を認めなかったことから、周囲に他船はいないものと思い、操舵室中央に置いたいすに腰掛けていて、船首死角を補う見張りを十分に行わなかったので、このことに気付かず、海洋丸を避けないまま進行した。
A受審人は、依然、見張り不十分で、海洋丸に気付かないまま続航中、15時37分関埼灯台から123度1.3海里の地点において、第十萬栄丸は、原針路、原速力のまま、その左舷船首が、海洋丸の左舷船尾に、直角に衝突した。
当時、天候は雨で風力2の南東風が吹き、潮候は下げ潮の中央期で、付近海域には148度方向に流れる約0.6ノットの潮流があり、視界は約2海里であった。
A受審人は、衝突の直後、左舷側中央至近に海洋丸を認め、左舷ウイングに出て同船の状況を見たものの、異状に気付かないで航海を続けていたところ、16時50分ごろ海上保安庁よりの衝突した旨の電話連絡を受け、その後、I船長が事後の措置にあたった。
また、海洋丸は、樽流し漁に従事する、汽笛を備えていないFRP製漁船で、B受審人が1人で乗り組み、船首0.2メートル船尾1.0メートルの喫水をもって、同月13日13時00分大分県佐賀関漁港を発し、関埼南東方沖合の漁場に至って操業を開始した。
15時00分ごろB受審人は、関埼灯台の南南東方1海里付近で、北西方に向け約50メートル間隔で投入した10組の仕掛けの南東端のものから引き揚げ始めた。
15時30分B受審人は、関埼灯台から122度1.2海里の地点で、船首を北東方に向けて機関を中立とし、折からの南東流に乗じて漂泊を開始し、後部甲板で右舷側から7組目の仕掛けの揚収を行った。
15時35分少し前B受審人は、関埼灯台から122度1.3海里の地点に達したとき、船首が045度を向いて、左舷正横800メートルのところに、第十萬栄丸を視認することができる状況となり、その後、自船に向首し衝突のおそれのある態勢で接近したが、3匹ほどのマダイがかかった仕掛けを引き揚げることに気を取られ、周囲の見張りを十分に行わなかったので、このことに気付かなかった。
B受審人は、依然、見張り不十分で、避航の気配のないまま接近する第十萬栄丸に対して、避航を促す有効な音響信号を行わず、更に接近して、機関を使用するなど衝突を避けるための措置をとることもなく漂泊を続け、15時37分わずか前、左舷船尾至近に同船を初めて認めたものの、どうすることもできず、海洋丸は、船首が045度に向いて前示のとおり衝突した。
衝突の結果、第十萬栄丸に損傷はなかったが、海洋丸は左舷船尾舷縁に損傷を生じ、のち修理された。
(原因)
本件衝突は、関埼沖合において、南下する第十萬栄丸が、見張り不十分で、漂泊中の海洋丸を避けなかったことによって発生したが、海洋丸が、見張り不十分で、避航を促す有効な音響信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
A受審人は、関埼沖合を南下する場合、船首に死角のあることを知っていたのであるから、前路で漂泊中の海洋丸を見落とすことのないよう、船橋内を左右に移動するなどして船首死角を補う見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、海面反射除去等の調整を適切に行っていないレーダーを一瞥して他船の映像を認めなかったことから、周囲に他船はいないものと思い、操舵室中央に置いたいすに腰掛けていて、船首死角を補う見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、前路で漂泊中の海洋丸に気付かず、同船を避けることなく進行して、海洋丸との衝突を招き、同船の左舷船尾舷縁に損傷を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は、関埼沖合において樽流し漁中、仕掛けを引き揚げるために漂泊する場合、衝突のおそれのある態勢で接近する第十萬栄丸を早期に認めることができるよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、獲物がかかった仕掛けを引き揚げることに気を取られ、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、衝突のおそれのある態勢で接近する同船に気付かず、同船に対して避航を促す有効な音響信号を行うことも、機関を使用するなどして衝突を避けるための措置をとることもなく漂泊を続けて、第十萬栄丸との衝突を招き、自船に前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。