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平成14年門審第138号
件名

油送船第五春日丸貨物船ラベンダー衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成15年4月9日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(西村敏和、米原健一、島 友二郎)

理事官
今泉豊光

受審人
A 職名:第五春日丸船長 海技免状:五級海技士(航海)(旧就業範囲)
B 職名:第五春日丸甲板長 海技免状:五級海技士(航海)(旧就業範囲)

損害
第五春日丸・・・左舷船首部に凹損
ラベンダー・・・右舷船首部に凹損

原因
ラベンダー・・・動静監視不十分、船員の常務(前路進出)不遵守

主文

 本件衝突は、両船が互いに左舷を対して無難に通過する態勢で航行中、ラベンダーが、動静監視不十分で、第五春日丸の前路に進出したことによって発生したものである。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成13年7月4日02時00分
 関門海峡中央水道
 
2 船舶の要目
船種船名 油送船第五春日丸 貨物船ラベンダー
総トン数 198トン 1,470トン
全長 46.60メートル 74.12メートル
登録長 43.01メートル 69.64メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 588キロワット 1,176キロワット
IMO番号 9020584  

3 事実の経過
 第五春日丸は、石油製品の輸送に従事する船尾船橋型の鋼製油送船で、A及びB両受審人ほか3人が乗り組み、ガソリン300キロリットル及び軽油100キロリットルを積載し、船首2.00メートル船尾3.40メートルの喫水をもって、平成13年7月3日10時15分香川県坂出港を発し、関門海峡経由で福岡県博多港に向かった。
 A受審人は、船橋当直を自らと機関長及びB受審人の3人による4時間交替の単独3直制として瀬戸内海を西行した。
 21時50分B受審人は、周防灘航路第5号灯浮標付近で機関長から船橋当直を引き継ぎ、操舵装置の後方に立って操船に当たり、前後部マスト灯、両舷灯及び船尾灯を表示して周防灘を西行し、翌4日00時55分本山灯標から282度4,200メートルの地点において、針路を300度(真方位、以下同じ。)に定め、機関回転数毎分280の全速力前進とし、9.3ノットの速力(対地速力、以下同じ。)で、自動操舵により関門海峡東口に向けて進行した。
 ところで、関門海峡東口の部埼北方海域は、中ノ州と称する浅所によって中央水道と北水道とに分かれ、中央水道には、基準針路114度(294度)の推薦航路線が設けられ、同水道の東部は南東方に屈曲して下関南東水道に、西部は関門港関門航路にそれぞれ連なっており、北九州市門司区太刀浦ふ頭沖合550ないし650メートルまでの海域が、関門港の港域となっていた。
 01時50分半B受審人は、部埼灯台から099度3,200メートルの地点に差し掛かり、下関南東水道第1号灯浮標に並航したところで、自室で休息中のA受審人に電話で関門海峡東口に接近したことを報告した。
 報告を受けたA受審人は、間もなく昇橋して周囲を見回したものの、目が暗さに順応していなかったので、他船の灯火を視認することができず、しかも眠気が少し残っていたことから、すぐには船橋当直を交替せずに、操舵室後部で台に腰を掛けて眠気が払拭されるのを待った。
 B受審人は、中ノ州南西灯浮標(以下「南西灯浮標」という。)に並航したところで、A受審人に船橋当直を引き継ぐことにし、いつものように同灯浮標に寄った中央水道の右側端を西行するつもりで続航していたところ、同灯浮標の南方約200メートルのところに緑、白2灯を連携して操業中の小型底びき網漁船(以下「操業漁船」という。)を認め、中央水道の右側端に寄せることができなかったことから、01時55分部埼灯台から085度2,040メートルの地点に達したとき、操業漁船を避けるため、針路を298度に転じ、同水道の中央寄りを自動操舵によって進行した。
 転針したとき、B受審人は、左舷船首10度2,600メートルにラベンダーの白、白、紅3灯を視認したほか、同船の前後に同様の灯火を視認し、いずれも互いに左舷を対して無難に通過する態勢で部埼沖に向かっていることを認め、また、自船の左舷後方約1,100メートルのところに中央水道に向けて西行中の大型船(以下「大型船」という。)の灯火を視認し、同船とも衝突のおそれがないことを認めたので、その後は右舷船首方の操業漁船の動静に注意を払い、時々周囲の状況を確認しながら続航した。
 01時58分B受審人は、部埼灯台から066度1,380メートルの地点に差し掛かったとき、約400メートル隔てて無難に通過する態勢であったラベンダーが、左舷船首30度780メートルのところで左転を始めたが、部埼沖に達していた同船が左転するとは思い及ばず、このころ、右舷船首10度1,600メートル付近の操業漁船が舷灯を交互に見せるようになったので、その動静を注視しながら進行した。
 こうして、B受審人は、右舷前方の操業漁船の動静を監視しながら続航中、ラベンダーが左転を続けて自船の前路に進出し、02時00分少し前、左舷前方至近に同船の前部マスト灯を認め、衝突の危険を感じて探照灯を照射したものの、衝突を避けるための措置をとる暇もなく、02時00分部埼灯台から042度1,130メートルの地点において、第五春日丸は、原針路、原速力のまま、その左舷船首とラベンダーの右舷船首とが後方から22度の角度で衝突した。
 当時、天候は晴で風力1の西風が吹き、視界は良好で、潮候は下げ潮の末期に当たり、関門海峡早鞆瀬戸では約3ノットの東流があった。
 また、ラベンダーは、専ら大韓民国、本邦及び中華人民共和国の間において雑貨の輸送に従事する船尾船橋型の鋼製貨物船で、船長C(大韓民国籍)ほか7人(大韓民国籍1人及びインドネシア共和国籍6人)が乗り組み、重量80トンのベルトコンベアーを積載し、船首2.00メートル船尾3.50メートルの喫水をもって、同月3日13時00分大韓民国馬山港を発し、関門海峡経由で大分県大分港に向かった。
 C船長は、船橋当直を、自らが8時から12時まで、三等航海士が0時から4時まで、及び一等航海士が4時から8時までの4時間交替の単独3直制とし、これまで昼夜を問わず、何度も関門海峡を通過したことがあったので、同海峡の水路事情については良く知っていた。
 翌4日00時30分C船長は、六連島北西約5海里の関門海峡西口に達したところで昇橋し、同時40分三等航海士と船橋当直を交替して操船の指揮を執り、同航海士を手動操舵に就け、前後部マスト灯、両舷灯及び船尾灯を表示し、六連島西水路を南下して関門港関門第2航路に向かい、同航路に入ったころ、前方約0.7海里のところに自船よりも速力が少し遅い同航船(以下「先航船」という。)がいたので、関門航路内で追い越すことにならないよう、船間距離に注意して進行した。
 C船長は、船橋左舷側にあるレーダーの後方で操船に当たり、関門第2航路から関門航路に入って同航路の右側をこれに沿って続航し、01時30分関門橋を通過したとき、先航船が右舷船首約1,000メートルのところとなり、部埼を通過した後に同船の左舷側を追い越すつもりで速力を調整し、同船との船間距離を徐々に詰めながら約3ノットの東流に乗じて早鞆瀬戸を東行した。
 01時47分C船長は、関門航路東口を出航して中央水道に入り、同時52分部埼灯台から314度1,950メートルの地点において、針路を114度に定め、先航船が右舷船首方約300メートルとなったので、機関を回転数毎分280の半速力前進とし、11.0ノットの速力で、太刀浦ふ頭沖の関門港田野浦区の港域内を進行した。
 定針したとき、C船長は、3海里レンジとしたレーダーで右舷船首10度5,000メートルにあたる、下関南東水道第1号灯浮標付近に2隻の大型船の映像と、ほぼ正船首4,500メートルのところに第五春日丸の映像をそれぞれ探知し、いずれも推薦航路線の北側を西行していることを知ったものの、第五春日丸の映像が小さかったことから、同映像が小型漁船のものであると判断し、接近すれば小回りが利く小型漁船の方で避けてくれるので、その動静を監視する必要がないと思い、大型船の白、白、紅3灯だけを確認し、第五春日丸の灯火を確認しなかったので、同映像が小型漁船ではないことに気付かず、その後も第五春日丸の動静監視を行うことなく続航した。
 01時58分C船長は、部埼灯台から042度730メートルの地点で部埼灯台に並航したとき、先航船が左転して自船の進路上に寄せてきたので、同船の正船尾に付くのを避けようと考えたものの、右舷側にはこの先も太刀浦ふ頭が続いていて右転できないものと錯覚し、船尾方には後続船がいて減速することもできず、ほぼ正船首となった大型船との距離が約1,500メートルあったので、左転して360度回頭することにした。
 ところが、C船長は、先航船及び大型船の動静監視に気を取られ、レーダーで探知した第五春日丸のことは失念してしまい、左転するに先立って後続船が左舷後方に付いていないことを確認したものの、回頭舷となる左舷側の状況を十分に確認しなかったので、左舷船首26度770メートルのところを第五春日丸が西行していることに気付かず、汽笛により短音2回の操船信号を行うことなく、左舵一杯をとって左回頭を始めた。
 こうして、C船長は、先航船を注視しながら左回頭し、01時59分部埼灯台から053度1,000メートルの地点に達し、船首が030度を向いたとき、視線を先航船から右舷正横後10度1,000メートルの大型船に移したものの、依然として、右舷船首36度230メートルを西行中の第五春日丸に気付かないまま更に左回頭を続け、同船の前路に進出し、02時00分少し前、大型船との距離が十分にあることを確認して前方を振り返ったところ、右舷正横至近のところに第五春日丸を認め、衝突の危険を感じて、左舵一杯としたまま機関を極微速力前進とし、探照灯を照射して注意喚起信号を行ったが、効なく、左回頭中のラベンダーは、船首が320度を向いたとき、約7ノットの速力で前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、第五春日丸は左舷船首部に凹損を、ラベンダーは右舷船首部に凹損をそれぞれ生じ、のちいずれも修理された。

(原因)
 本件衝突は、夜間、関門海峡中央水道において、両船が互いに左舷を対して無難に通過する態勢で航行中、東行するラベンダーが、動静監視不十分で、操船信号を行わずに左転し、西行する第五春日丸の前路に進出したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人の所為は、本件発生の原因とならない。
 B受審人の所為は、本件発生の原因とならない。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
(拡大画面:28KB)





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