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平成14年門審第61号
件名

漁船第五曙丸油送船クレーン オーシャン衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成15年4月9日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(西村敏和、長浜義昭、上野延之)

理事官
関 隆彰

受審人
A 職名:第五曙丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士

損害
第五曙丸・・・・・・・・船首部に凹損
クレーン オーシャン・・・右舷後部に擦過傷

原因
第五曙丸・・・・・・・・見張り不十分、横切りの航法(避航動作)不遵守(主因)
クレーン オーシャン・・・動静監視不十分、警告信号不履行、横切りの航法(協力動作)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は、第五曙丸が、見張り不十分で、前路を左方に横切るクレーン オーシャンの進路を避けなかったことによって発生したが、クレーン オーシャンが、動静監視不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための最善の協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成13年1月24日03時40分
 長崎県対馬豆酘埼西方沖合

2 船舶の要目
船種船名 漁船第五曙丸
総トン数 17トン
全長 19.40メートル
登録長 16.37メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 478キロワット
船種船名 油送船クレーン オーシャン
総トン数 3,964トン
全長 107.48メートル
登録長 99.00メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 2,942キロワット
IMO番号 9229934

3 事実の経過
 第五曙丸は、いか一本釣り漁業に従事するFRP製漁船で、A受審人ほか1人が乗り組み、操業の目的で、船首0.5メートル船尾1.8メートルの喫水をもって、平成13年1月23日14時30分長崎県対馬厳原港を発し、対馬豆酘埼西方の漁場に向かった。
 ところで、第五曙丸は、専ら、対馬周辺海域において夜間にいか漁を操業し、翌朝、対馬の厳原港又は三浦湾漁港で水揚げする操業形態を採っており、漁場と水揚港との間の航海時間が長くないことから、通常はA受審人が単独で操船に従事していた。
 A受審人は、17時40分豆酘埼西方約14海里の漁場に到着して操業を始め、翌24日02時30分ごろいか約90キログラムを漁獲したところで操業を終え、同時40分豆酘埼灯台から266度(真方位、以下同じ。)14.40海里の地点を発進して、水揚げのため三浦湾漁港に向かい、針路を091度に定め、機関を回転数毎分1,400の全速力前進にかけ、10.7ノットの速力(対地速力、以下同じ。)で、自動操舵により進行した。
 A受審人は、操舵室中央部で、床上の高さ約60センチメートルの板の間に腰を掛けて単独で操船に当たり、法定の灯火を表示し、操舵室左舷前面にあるレーダーを12海里レンジとして作動させ、右舷側のいか釣り漁船との距離を確認しながら東行し、03時21分豆酘埼灯台から261度7.10海里の地点に差し掛かったとき、前方2ないし3海里のところに数隻の小型漁船の灯火を視認し、いずれも青色回転灯を点灯して漂泊していたことから、ぶりはえ縄漁船(以下「はえ縄漁船」という。)が、操業場所を確保するために南北に間隔をとって漂泊待機していることを知り、同漁船の北側を迂回するため、手動操舵に就いて左転を始めた。
 A受審人は、レーダーを1.5海里レンジから0.75海里レンジへと順次短距離レンジに切り替えて、はえ縄漁船のレーダー映像を確認しながら続航し、03時30分ごろ最北端のはえ縄漁船を確認することができたので、徐々に右転して豆酘埼に向け、03時34分少し過ぎ豆酘埼灯台から268度4.80海里の地点において、同漁船の北側を約0.2海里隔てて通過できるよう、一旦、針路を豆酘埼に向く093度に転じ、自動操舵に切り替え、最北端のはえ縄漁船から十分に遠ざかったところで、再度、豆酘埼南南西方に拡延している大瀬の南方に向けて、針路を右に転じるつもりで進行した。
 A受審人は、転針して間もなく、税金の申告に必要な水揚げの伝票などを探しておこうと思い立ち、豆酘埼に接近するころには小型漁船が多くなるおそれがあるので、それまでに探し終えようとして、前路を一見したところ漁船の灯火を認めず、0.75海里レンジとしたレーダーでもはえ縄漁船2隻のほかには他船の映像を認めなかったことから、しばらくは他船と接近することはないものと思い、操舵室天井の20ワットの室内灯を点灯し、板の間に腰を掛けたまま、左舷側にある物入れの引出しを開けて伝票などを探し始めた。
 03時36分わずか前A受審人は、豆酘埼灯台から267度4.53海里の地点に差し掛かったとき、右舷船首50度1,460メートルのところにクレーン オーシャンの白、白、紅3灯を視認でき、0.75海里レンジのレーダーでも同船の映像を探知し得る状況となり、その後同船の方位に明確な変化がなく、前路を左方に横切り、衝突のおそれのある態勢で接近したが、伝票などを探すことに気を取られ、見張りを十分に行っていなかったので、このことに気付かず、右転するなどして、同船の進路を避けることなく続航した。
 こうして、A受審人は、その後も板の間に腰を掛けたまま伝票などを探し続け、03時38分豆酘埼灯台から266.5度4.16海里の地点に達したとき、クレーン オーシャンが同方位550メートルに接近したが、依然として、見張りを十分に行っていなかったので、このことに気付かず、同船の進路を避けないまま進行していたところ、同時38分半同方位330メートルに迫ったクレーン オーシャンが右回頭を始め、同時39分半、同船が自船の正船首方を約40メートル隔てて通過したものの、更に右回頭を続ける同船と再度接近していることにも気付かず、同時40分わずか前正船首至近に同船の舷窓の明かりを認めて衝突の危険を感じ、急いで機関を後進にかけたが、効なく、03時40分豆酘埼灯台から266度3.80海里の地点において、第五曙丸は、原針路、ほぼ原速力のまま、その船首がクレーン オーシャンの右舷後部に後方から47度の角度で衝突した。
 当時、天候は晴で風力3の北風が吹き、視界は良好であった。
 また、クレーン オーシャンは、船尾船橋型の鋼製油送船で、船長B及び二等航海士C(いずれも大韓民国籍)ほか15人(大韓民国籍7人及びフィリピン共和国籍8人)が乗り組み、空倉のまま、船首3.10メートル船尾5.00メートルの喫水をもって、同月23日19時50分長崎県長崎港を発し、対馬西方経由で大韓民国蔚山(うるさん)港に向かった。
 B船長は、船橋当直を自らが8時から12時まで、一等航海士が4時から8時まで、及びC二等航海士が0時から4時までとして4時間交替の3直制とし、自らと一等航海士には操舵手1人を付け、C二等航海士には操舵手及び操舵員各1人を付けていた。
 B船長は、出港操船に続いて船橋当直に就き、操舵手を手動操舵に就け、法定の灯火を表示して長崎県平戸島西方に向け北上し、22時35分同島南西端を通過したところで、針路を対馬豆酘埼西方に向く348度に定めて進行した。
 翌24日00時00分C二等航海士は、平戸島北端に並航したころB船長と交替して船橋当直に就き、操舵手及び操舵員をそれぞれ見張りに就け、引き続き針路を348度に定め、機関回転数毎分165の11.0ノットの速力で、自動操舵によって対馬海峡東水道を北上した。
 03時21分C二等航海士は、豆酘埼灯台から223度5.10海里の地点に差し掛かったとき、6海里レンジとしたレーダーで左舷船首43度4.50海里のところに第五曙丸の映像を探知し、しばらくして同船の白、緑2灯を視認してその動静を監視したところ、同船の方位が右方に変化し、前路を無難に通過する態勢であることを認めたので、その後は左舷側のはえ縄漁船に注意を払いながら続航した。
 03時36分わずか前C二等航海士は、豆酘埼灯台から258度4.14海里の地点において、針路を蔚山港に向く012度に転じたとき、第五曙丸が左舷船首49度1,460メートルのところとなり、その後同船の方位に明確な変化がなく、前路を右方に横切り、衝突のおそれのある態勢で接近したが、左舷正横付近となったはえ縄漁船及び左舷後方から接近する追越し船の動静監視に気を取られ、第五曙丸に対する動静監視を十分に行っていなかったので、このことに気付かずに進行した。
 03時38分C二等航海士は、豆酘埼灯台から263度4.00海里の地点に差し掛かったとき、第五曙丸が同方位550メートルのところに接近したが、依然として、はえ縄漁船などの動静監視に気を取られ、第五曙丸に対する動静監視を十分に行っていなかったので、このことに気付かず、同船に対して避航を促す警告信号を行わずに続航した。
 こうして、C二等航海士は、03時38分半豆酘埼灯台から264度3.97海里の地点に達し、第五曙丸が同方位330メートルのところとなったとき、操舵員から第五曙丸が左舷前方に接近している旨の報告を受けて同船の接近に気付き、操船信号を行わずに右舵一杯をとって右回頭を始め、同時39分半、自船の船尾が第五曙丸の船首を約40メートル隔てて替わったことを認めたものの、舵を戻して同船の進路から遠ざかるなど最善の協力動作をとらずにそのまま右回頭を続け、クレーン オーシャンは、船首が140度を向いたとき、約8ノットの速力で、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、第五曙丸は、船首部に凹損を生じたが、のち修理され、クレーン オーシャンは、右舷後部に擦過傷を生じた。

(原因)
 本件衝突は、夜間、長崎県対馬豆酘埼西方沖合において、両船が互いに進路を横切り、衝突のおそれのある態勢で接近中、東行する第五曙丸が、見張り不十分で、前路を左方に横切るクレーン オーシャンの進路を避けなかったことによって発生したが、北上するクレーン オーシャンが、動静監視不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための最善の協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、夜間、長崎県対馬豆酘埼西方沖合において、豆酘埼西方の漁場から水揚げのため三浦湾漁港に向けて東行する場合、接近する他船を見落とすことのないよう、見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、はえ縄漁船を替わし終えて針路を転じたとき、前路を一見して他船を認めなかったことから、しばらくは他船と接近することはないものと思い、操舵室で伝票などを探すことに気を取られ、見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、前路を左方に横切り、衝突のおそれのある態勢で接近するクレーン オーシャンに気付かず、同船の進路を避けることなく進行して衝突を招き、第五曙丸の船首部に凹損を、クレーン オーシャンの右舷後部に擦過傷をそれぞれ生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して、同受審人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。 


参考図
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