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平成15年広審第8号
件名

遊漁船太進丸プレジャーボート備後丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成15年4月22日

審判庁区分
広島地方海難審判庁(高橋昭雄、西田克史、佐野映一)

理事官
岩渕三穂

受審人
A 職名:太進丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
B 職名:備後丸船長 海技免状:四級小型船舶操縦士

損害
太進丸・・・損傷ない
備後丸・・・右舷船首部外板に亀裂
同乗者1人が溺水による肺浮腫と肺炎等

原因
備後丸・・・見張り不十分、横切りの航法(避航動作)不遵守(主因)
太進丸・・・動静監視不十分、警告信号不履行、横切りの航法(協力動作)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は、備後丸が、見張り不十分で、前路を左方に横切る太進丸の進路を避けなかったことによって発生したが、太進丸が、動静監視不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Bの四級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成14年8月9日16時10分
 広島県走島北方沖合

2 船舶の要目
船種船名 遊漁船太進丸 プレジャーボート備後丸
総トン数 6.6トン  
全長 16.16メートル 7.30メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 257キロワット 7キロワット

3 事実の経過
 太進丸は、ほぼ船体中央部に操舵室を有するFRP製遊漁船兼交通船で、A受審人が1人で乗り組み、広島県福山港まで遊漁客や海水浴客25人の輸送を終えたのち、帰航の目的で、船首0.35メートル船尾1.45メートルの喫水をもって、平成14年8月9日15時40分同港フェリー埠頭を発し、同県走漁港唐船地区(以下「唐船漁港」という。)に向かった。
 A受審人は、福山港掘り下げ航路に沿って南下し、16時02分わずか過ぎ広島県走島の高山三角点から004度(真方位、以下同じ。)2.9海里の地点で、福山港第2号灯浮標を左舷正横約95メートル離して航過したとき、針路を高山の東側山裾に向く179度に定め、機関を回転数毎分2,000の全速力前進にかけ、17.5ノットの対地速力(以下「速力」という。)で手動操舵により進行した。
 A受審人は、旋回窓や幅広の窓枠があったので、操舵室前方右舷側の窓に顔を近づけて見張りを行いながら操舵にあたり、16時07分半高山三角点から010度1.3海里の地点に達したとき、左舷船首9度1,560メートルに前路を右方に横切る態勢の備後丸を初認したが、いちべつしただけで自船が備後丸の前路を替わるものと思い、動静監視を十分に行うことなく、船首方の唐船漁港の防波堤入口付近を見ながら続航した。
 こうして、A受審人は、その後備後丸が衝突のおそれがある態勢で接近していることに気付かず、備え付けのモーターホーンを使用して警告信号を行うことも、さらに同船が避航動作をとらないまま間近に接近しても、機関を使用して行きあしを止めるなどの衝突を避けるための協力動作をとらないまま進行中、16時10分少し前ふと左舷船首方至近に迫った備後丸に気付き、左舵20度をとったが及ばず、16時10分高山三角点から024度1,100メートルの地点において、太進丸は、左回頭して155度に向首したとき、ほぼ原速力のまま、その船首が、備後丸の右舷船首部に前方から30度の角度で衝突した。
 当時、天候は晴で風力2の南西風が吹き、視界は良好で、潮候は下げ潮の末期であった。
 また、備後丸は、船尾の舵柄で操舵を行うFRP製プレジャーボートで、B受審人が1人で乗り組み、同乗者3人を乗せ、魚釣りの目的で、同日10時00分福山港鞆地区(以下「鞆港」という。)の係留地を発し、11時30分宇治島西方沖合に至り、その後走島南方沖合の釣り場に移動して魚釣りを行ったのち、15時50分同釣り場を発進して帰途に就いた。
 B受審人は、船尾両舷に渡した板の右舷側に座り、左手で舵柄を握って見張りを兼ねて操船にあたり、走島東端の金山鼻を左舷側に見て付け回して唐船漁港の北東方沖合に至り、16時04分高山三角点から061度1,200メートルの地点に達したとき、針路を広島県仙酔島の西側の端に向く305度に定め、機関を全速力前進にかけ、4.0ノットの速力で手動操舵により進行した。
 定針したB受審人は、付近には他船が見当たらなかったので、船尾左舷側に座った同乗者柿原利昭に操舵を行わせながら下を向いて釣り道具の修理を始め、16時07分半高山三角点から040度1,080メートルの地点に達したとき、右舷船首45度1,560メートルに太進丸を認めることができ、その後同船が前路を左方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近する状況であったが、釣り道具の修理に気を取られ、前路の見張りを十分に行わなかったので、そのことに気付かず、同船の進路を避けることなく続航した。
 16時10分わずか前B受審人は、ふと目を上げたところ、右舷船首方至近に迫った太進丸を認め、衝突の危険を感じて身を屈め、ほぼ同じころK同乗者が舵柄を引いて右舵をとったが効なく、備後丸は、ほぼ原針路、原速力のまま、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、太進丸にほとんど損傷はなかったが、備後丸は右舷船首部外板に亀裂を生じ、同乗者Mが海中転落し、溺水による肺浮腫と肺炎、左大腿多発裂創、四頭筋裂創及び顔面・右膝打撲擦過傷等の4週間の安静加療を要する傷を負った。

(原因)
 本件衝突は、広島県走島北方沖合において、両船が互いに進路を横切り衝突のおそれがある態勢で接近中、備後丸が、見張り不十分で、前路を左方に横切る太進丸の進路を避けなかったことによって発生したが、太進丸が、動静監視不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 B受審人は、広島県走島北方沖合において、鞆港に帰航するため西行する際、同乗者に操舵を行わせながら見張りを兼ねて操船にあたる場合、走島に向け南下中の太進丸を見落とすことのないよう、前路の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかし、同人は、付近には他船が見当たらなかったので釣り道具の修理を始め、やがてこれに気を取られ、前路の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、前路を左方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近する太進丸に気付かず、その進路を避けないまま進行して同船との衝突を招き、太進丸にほとんど損傷はなかったが、備後丸の右舷船首部外板に亀裂を生じさせ、同乗者1人が溺水による肺浮腫と肺炎、左大腿多発裂創、四頭筋裂創及び顔面・右膝打撲擦過傷等の4週間の安静加療を要する傷を負う事態を生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の四級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 A受審人は、広島県走島北方沖合において、唐船漁港に帰航するため南下中、前路を右方に横切る態勢の備後丸を認めた場合、衝突のおそれの有無を判断できるよう、その動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかし、同人は、いちべつしただけで自船が備後丸の前路を替わるものと思い、動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、同船が衝突のおそれがある態勢で接近していることに気付かず、警告信号を行わず、さらに機関を使用して行きあしを止めるなどの衝突を避けるための協力動作をとらないまま進行して同船との衝突を招き、前示の損傷及び負傷の事態を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図





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