(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成14年10月3日09時20分
瀬戸内海 来島海峡西口西方
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船第八琴白丸 |
プレジャーボート安野丸 |
総トン数 |
4.2トン |
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全長 |
12.05メートル |
5.61メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
電気点火機関 |
出力 |
183キロワット |
22キロワット |
3 事実の経過
第八琴白丸(以下「琴白丸」という。)は、船体やや後部に操舵室を設けたはえ縄漁に従事するFRP製漁船で、A受審人及び妻の2人が乗り組み、平成14年10月3日早朝から安芸灘東部で操業を行ったのち、いったん自宅のある愛媛県岡村港に戻り、その後同県小部漁港に至って水揚げを済ませ、船首0.2メートル船尾0.8メートルの喫水をもって、同日09時10分同漁港を発し、岡村港に向けて帰途に就いた。
ところで、岡村港から小部漁港に至る進路は、西方に開口した同県小部湾口北部にあたる梶取ノ鼻及び御崎ノ鼻に寄せて南下したのち、湾口中央付近から湾奥に位置する小部漁港に向かい、帰路はその逆を辿るものであった。なお、梶取ノ鼻沖から御崎ノ鼻沖に至る水域は釣り場でもあった。
発航後、A受審人は、単独で見張りを兼ねて操船にあたり、同乗中の妻には前部甲板で漁具の整備を行わせ、同港防波堤口を替わると小部湾を西進した。09時16分来島梶取鼻灯台(以下「梶取鼻灯台」という。)から150度(真方位、以下同じ。)1.3海里にあたる湾口中央付近で、針路を320度に定め、機関を半速力前進にかけ14.5ノットの通常航海速力で進行した。その後同時17分前路約0.7海里に停留状態の安野丸を認めることができ、その後同船と衝突のおそれがある態勢で接近する状況であった。
ところが、A受審人は、定針したころ前方を見張ったものの、当時高齢による視力の衰えで視野がぼんやりとした状態であり、しかも1時間ほど前に梶取ノ鼻沖から御崎ノ鼻沖を航行したとき、いつもと違って釣り船を見かけなかったことから前方には他船がいないという思いもあって見張りを十分に行わなかったので、背の低い安野丸を見落とし、その後も前方の見張りを十分に行わないまま続航した。
こうして、09時19分半A受審人は、前路200メートル余りに引き続き停留状態の安野丸と衝突のおそれがある態勢で接近する状況であったが、依然として前方の見張りを十分に行わなかったので、これに気付かず、同船を避けないまま進行し、09時20分梶取鼻灯台から170度850メートルの地点において、琴白丸は、その船首が安野丸の左舷後部にほぼ直角に衝突した。
当時、天候は晴で風はほとんどなく、視界は良好であった。
また、安野丸は、船外機付き和船型FRP製プレジャーボートで、B受審人が1人で乗り組み、釣りの目的で、船首0.2メートル船尾0.3メートルの喫水をもって、同日08時00分愛媛県大西町の係留地を発し、小部漁港に出入りする漁船等の通航する小部湾口北部御崎ノ鼻沖の釣り場に至り、機関を止めて釣りを始め、その後適宜機関を使用して前示衝突地点付近で釣りを続けた。同時17分船首を230度に向けて停留状態で左舷側を背に陸岸の方を向いた姿勢で船尾部で座りながら釣りを行っていたとき、左舷正横約0.7海里に来航する琴白丸を認めることができ、その後同船が衝突のおそれがある態勢で接近する状況であった。
ところが、B受審人は、普段から航行船の方で停留している船を避けるものと思い、周囲に対する見張りを十分に行わなかったので、09時19分半琴白丸が避航の気配のないまま左舷正横200メートル余りに迫っていることに気付かず、救命胴衣に装着されたホイッスルなどの有効な音響による注意喚起信号を行うことも、速やかに機関を使用して衝突を避けるための措置もとらないまま停留して釣りを続け、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、琴白丸は船底外板に擦過傷及び舵推進器翼に損傷を生じ、安野丸は船体後部を大破し転覆のち全損処理され、またB受審人が肋骨の骨折を負った。
(原因)
本件衝突は、愛媛県小部湾北西部において、航行中の第八琴白丸が、見張り不十分で、前路で釣りを行いながら停留中の安野丸を避けなかったことによって発生したが、安野丸が、見張り不十分で、有効な音響による注意喚起信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
A受審人は、小部湾東奥から水揚げを済ませて帰航する際、単独で見張りを兼ねて操船にあたる場合、高齢に伴う視力の衰えそして同湾北部御崎ノ鼻沖から梶取ノ鼻沖付近は釣り場でもあったから、前路で停留中の釣り船を見落とすことのないよう、前方の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかし、同人は、往航時同沖に釣り船を見かけなかったので付近には他船がいないものと思い、前方の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、前路で釣りを行いながら停留中の安野丸に気付かず、これを避けないまま進行して、安野丸との衝突を招き、第八琴白丸の船底外板に擦過傷及び舵推進器翼に損傷を生じさせ、また安野丸を大破転覆させて全損及びB受審人に肋骨骨折を負わせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の一級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
B受審人は、小部湾北部陸岸に近い小部漁港に出入りする漁船等の通航域において、適宜機関を使用してほぼ停留状態で一本釣りを行う場合、自船に向かって接近する航行船を見落とすことのないよう、周囲に対する見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかし、同人は、普段から航行船の方で停留船を避けるものと思い、周囲に対する見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、背後方向から自船に向かって接近する第八琴白丸に気付かず、備付けの救命胴衣に装着されたホイッスルなどにより有効な音響による注意喚起信号を行うことも、速やかに機関を使用して衝突を避けるための措置もとらないまま停留し続けて、同船との衝突を招き、前示の損傷及び傷害を負うに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。