(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成14年3月29日04時41分
伊豆諸島三宅島北西方沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船第十一根本丸 |
油送船ツクバサン |
総トン数 |
19.96トン |
146,376トン |
全長 |
|
324.00メートル |
登録長 |
17.66メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
478キロワット |
21,770キロワット |
3 事実の経過
第十一根本丸(以下「根本丸」という。)は、一本釣り漁業に従事するFRP製漁船で、A受審人及びB指定海難関係人ほか2人が乗り組み、さば漁の目的で、船首0.6メートル船尾2.2メートルの喫水をもって、平成14年3月28日10時30分基地とする神奈川県三崎港を僚船とともに発し、同日18時00分伊豆諸島三宅島西方沖合にある三本岳周辺の漁場に至って操業を始め、翌29日03時30分伊豆岬灯台から256度(真方位、以下同じ。)7.2海里の地点で、ゴマサバ約5トンを漁獲して操業を終え、基地に向けて発進した。
ところで、A受審人は、平素、漁場への往復航時には、船橋当直を自らとB指定海難関係人とで分担し、同指定海難関係人の当直経験が豊富であったので、特に指示することもあるまいと思い、周囲の見張りを行うことなど同当直についての指示を十分に行うことなく、出入港時や操業中の操船を任せていた。
発進したころ、B指定海難関係人は、航行中の動力船の灯火を表示して漁獲物処理を行いながら機関を微速力前進として北上し、04時00分伊豆岬灯台から270度5.2海里の地点で、乗組員が同処理を終えて船室に降りたとき針路を013度に定め、機関を全速力前進にかけ、折からの北東方に流れる海流に乗じて3度右方に圧流されながら、11.4ノットの対地速力(以下「速力」という。)で自動操舵により進行した。
04時25分B指定海難関係人は、伊豆岬灯台から319度5.9海里の地点に差し掛かったとき、右舷船首22度に白1灯を視認し、6海里レンジとしたレーダー画面を見たところ、船舶映像が探知されていなかったことから、同灯火がこの海域を主漁場とする小型のかつお漁船が表示した船尾灯と思い、レーダーレンジを切り替えるなどして、レーダーの見張りを十分に行わないまま、操舵室前部右舷側に固定した椅子(いす)に左舷方を向いて腰掛け、同室左舷側に設置されたGPSプロッタ画面に向いた姿勢で、帰途に就いた僚船と無線電話で交信しながら続航した。
04時36分B指定海難関係人は、伊豆岬灯台から333度7.3海里の地点に至ったとき、右舷船首23度2海里のところに、前路を左方に横切るツクバサン(以下「ツ号」という。)の白、白、紅3灯を視認できる状況であったが、依然として僚船との交信に夢中になり、周囲の見張りを十分に行っていなかったので、同船の存在にも、その後同船と衝突のおそれがある態勢で接近していることにも気付かず、ツ号の進路を避けないまま進行中、同時41分わずか前突然目の前にツ号の黒い船体を認め、慌てて機関を全速力後進にかけたが、効なく、04時41分伊豆岬灯台から338度8.0海里の地点において、根本丸は、原針路原速力のまま、その船首がツ号の左舷船首部に、前方から62度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風力4の南南東風が吹き、視界は良好で、付近海域には約1.4ノットの北東流があった。
A受審人は、船室で休息中、衝突の衝撃を感じ、急いで暴露甲板に出てツ号と衝突したことを知り、事後の措置に当たった。
また、ツ号は、ペルシャ湾岸と本邦諸港間の原油輸送に従事する船尾船橋型の鋼製油送船で、船長K及びC指定海難関係人ほか日本国籍の4人及びフィリピン共和国籍の21人が乗り組み、海水バラスト96,150トンを積載し、船首7.38メートル船尾11.58メートルの喫水をもって、同月27日16時30分北海道室蘭港を発し、アラブ首長国連邦フジャイラ港に向かった。
C指定海難関係人は、翌々29日04時00分伊豆岬灯台から019度14.3海里の地点で、甲板員とともに船橋当直に就き、航行中の動力船の灯火表示を確かめ、針路を230度に定めて機関を全速力前進にかけ、折からの北東方に流れる海流に抗して14.4ノットの速力で、自動操舵により進行した。
04時22分C指定海難関係人は、伊豆岬灯台から003度10.2海里の地点に差し掛かったとき、北上中の漁船が左舷船首方に近づいたため、自ら自動操舵の針路設定指針を回して右転を始めたところ、同漁船が自船を避航したので、船位を元の針路線上に戻すこととし、針路を228度に転じて続航した。
04時30分C指定海難関係人は、伊豆岬灯台から354度9.1海里の地点に至ったとき、左舷船首13度4.5海里のところに、根本丸の白、緑2灯を初めて視認し、同船の動静を監視しながら、同じ針路、速力で進行した。
04時36分C指定海難関係人は、伊豆岬灯台から346度8.3海里の地点に達したとき、左舷船首12度2海里のところに根本丸が前路を右方に横切り、衝突のおそれがある態勢で接近する状況となったが、自船が保持船の立場であったので、針路及び速力を保持したまま続航した。
04時38分C指定海難関係人は、伊豆岬灯台から343度8.2海里の地点で、依然根本丸と衝突のおそれがある態勢で1.2海里に接近したとき、汽笛による警告信号を行ったものの、同船が適切な避航動作を取っていないことを知ったが、そのうち避航動作をとるものと思い、自船の操縦性能を考慮して保持船の立場を離れ、直ちに右舵一杯とするなど、根本丸との衝突を避けるための動作をとらず、再び自ら自動操舵の針路設定指針を234度、続いて239度に設定し、小角度の右転を繰り返すとともに、自ら根本丸に向けて昼間信号灯を照射し、同船の避航を期待しながら進行した。
04時40分少し過ぎC指定海難関係人は、根本丸が自船を避航する気配がないまま、左舷前方600メートルに接近したのを認め、衝突の危険を感じ、甲板員に手動操舵による右舵一杯を命じたが、及ばず、ツ号は、その船首が255度を向き、10.5ノットの速力となったとき、前示のとおり衝突した。
K船長は、自室で書類整理をしていたところ、右舵一杯による船体振動を感じて自ら昇橋し、C指定海難関係人から何とか漁船を避けた旨の報告を受けたが、その後根本丸の僚船から国際VHFで根本丸と衝突したことを知らされ、事後の措置に当たった。
衝突の結果、根本丸は、船首部を圧壊したが、のち修理され、ツ号は、左舷船首部外板に擦過傷を生じた。また、B指定海難関係人が2週間の通院加療を要する頭部挫創、右手挫創及び左膝挫傷を、根本丸の機関員1人が4週間の通院加療を要する顔面挫創、左肩打撲及び左側胸部挫創をそれぞれ負った。
(原因)
本件衝突は、夜間、伊豆諸島三宅島北西方沖合において、両船が互いに進路を横切り、衝突のおそれのある態勢で接近中、北上中の第十一根本丸が、見張り不十分で、前路を左方に横切るツクバサンの進路を避けなかったことによって発生したが、西行中のツクバサンが、衝突を避けるための動作を十分にとらなかったことも一因をなすものである。
第十一根本丸の運航が適切でなかったのは、船長が無資格の漁撈長に単独の船橋当直を任せるにあたり、周囲の見張りを行うことについて十分に指示しなかったことと、同漁撈長が、周囲の見張りを十分に行わなかったこととによるものである。
(受審人等の所為)
A受審人は、夜間、伊豆諸島三宅島北西方沖合において、三崎港に向けて帰航する際、B指定海難関係人に単独の船橋当直を任せる場合、右舷方から接近するツクバサンを見落とさないよう、周囲の見張りを十分に行うよう指示すべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、同指定海難関係人の当直経験が豊富であったことから、特に指示することもあるまいと思い、周囲の見張りを行うことについて十分に指示しなかった職務上の過失により、前路を左方に横切り、衝突のおそれがある態勢で接近する同船に気付かず、その進路を避けないまま進行してツクバサンとの衝突を招き、根本丸の船首部に圧壊を、ツクバサンの左舷船首部外板に擦過傷をそれぞれ生じさせ、B指定海難関係人に頭部挫創、右手挫創及び左膝挫傷を、根本丸乗組員に顔面挫創、左肩打撲及び左側胸部挫創をそれぞれ負わせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B指定海難関係人が、夜間、伊豆諸島三宅島北西方沖合において、単独の船橋当直を任され、三崎港に向けて帰航中、周囲の見張りを十分に行わなかったことは、本件発生の原因となる。
B指定海難関係人に対しては、勧告しない。
C指定海難関係人が、夜間、伊豆諸島三宅島北西方沖合において、前路を右方に横切り、衝突のおそれがある態勢で接近する第十一根本丸を認め、同船が適切な避航動作をとっていないことを知った際、同船の避航を期待し、直ちに右舵一杯とするなど第十一根本丸との衝突を避けるための動作を十分にとらなかったことは、本件発生の原因となる。
C指定海難関係人に対しては、勧告しない。
よって主文のとおり裁決する。