(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成14年1月26日06時30分
福島県小名浜港
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船第六拾八俊洋丸 |
総トン数 |
117トン |
全長 |
35.94メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
592キロワット |
3 事実の経過
第六拾八俊洋丸(以下「俊洋丸」という。)は、かじき等流し網漁業に従事する中央船橋型鋼製漁船で、A受審人ほか8人が乗り組み、船首1.6メートル船尾3.9メートルの喫水をもって、平成14年1月24日04時00分福島県小名浜港を発し、北緯36度00分東経141度45分付近の漁場に向かった。
ところで、俊洋丸は、かじき等流し網漁の漁期が7月から3月上旬までで、年末年始北海道函館港に停泊して乗組員が休み、1月15日から小名浜港を基地とし操業を行っていた。
出港後、A受審人は、甲板員を輪番で船橋当直に就かせ、約3時間の休息をとり、09時30分船橋当直に入直して12時ごろ漁場に至り、操業指揮に当たって適水海域の探索に続き、長さ12キロメートルの漁網を投入し、25日00時ごろ揚網を終えたものの、漁模様がよくなかったことから潮流の影響の少ないところで漂泊ののち操業を続けることにした。
A受審人は、船橋当直に当たって6時間ばかり西行し、06時00分目的の漂泊場所に到着後、下部操舵室後方の寝台で約4時間の睡眠をとり、14時00分投網を開始した。
16時30分A受審人は、投網を終了して1時間ばかり待機した後、上部操舵室から網の方向を確認して遠隔管制器で操船に当たりながら揚網を行い、かじき100キログラムを獲て操業を打ち切り、26日00時00分北緯36度14分東経141度47分の地点を発進し、乗組員を休息させて小名浜港の東側港口(以下「東口」という。)北方の魚市場に向け帰航の途に就いた。
発進したときA受審人は、針路をGPSプロッターにより小名浜港に向く314度(真方位、以下同じ。)に定め、機関を回転数毎分360可変ピッチプロペラ翼角18度の全速力前進にかけ、9.0ノットの対地速力で、単独で船橋当直に就いて自動操舵により進行した。
A受審人は、上部操舵室で背もたれ付きのいすに腰をかけ、レーダーを監視しながら見張りに当たって続航し、05時50分レーダー画面を見て小名浜港まで約6海里に近づいたことを知り、入港時刻の電話連絡を済ませ、06時00分番所灯台から146度4.7海里の地点に達したとき、操業に続く長時間の船橋当直で疲労し睡眠不足状態であったうえ暖房の影響が加わり、眠気を覚えたが、あと少しで入港だから居眠りすることはあるまいと思い、休息中の乗組員を起こして2人当直にするなど、居眠り運航の防止措置をとることなく、そのままいすに腰を掛け、見張りに当たって進行するうち、いつしか居眠りに陥った。
こうして俊洋丸は、居眠り運航となり、小名浜港の東口に向け針路が転じられず、同口南方1,400メートルに築造中の防波堤に向首し、同一針路、速力のまま続航中、06時30分番所灯台から216度1,870メートルの地点において、同防波堤のケーソンに、原針路、原速力で衝突した。
当時、天候は晴で風力2の北西風が吹き、潮候は下げ潮の末期であった。
衝突の結果、俊洋丸は、自力で防波堤から離れたものの、その後電気系統の故障で翼角が操作不能となり、作業船に曳航されて小名浜港に着岸したが、船首部を圧壊して球状船首に破口を伴う凹損を、船首楼甲板及び上甲板に曲損を生じ、のち修理された。
(原因)
本件衝突は、漁場から福島県小名浜港に向け帰航中、居眠り運航の防止措置が不十分で、同港内に築造中の防波堤に向首進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、単独で船橋当直に就いて漁場から小名浜港に向け自動操舵により帰航中、眠気を覚えた場合、操業に続く長時間の船橋当直で疲労し睡眠不足状態であったから、居眠り運航とならないよう、休息中の乗組員を起こして2人当直にするなど、居眠り運航の防止措置をとるべき注意義務があった。ところが、同受審人は、あと少しで入港だから居眠りすることはあるまいと思い、休息中の乗組員を起こして2人当直にするなど、居眠り運航の防止措置をとらなかった職務上の過失により、居眠りに陥り、居眠り運航となって小名浜港内に築造中の防波堤に向首したまま進行して同防波堤との衝突を招き、俊洋丸の船首部を圧壊して球状船首に破口を伴う凹損を、船首楼甲板及び上甲板に曲損を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の五級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
よって主文のとおり裁決する。