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 海難審判庁裁決録 >  2003年度(平成15年) > 衝突事件一覧 >  事件





平成14年第二審第27号
件名

貨物船第二東洋丸油送船第三大洋丸衝突事件〔原審門司〕

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成15年6月19日

審判庁区分
高等海難審判庁(山崎重勝、東 晴二、山本哲也、山田豊三郎、佐和 明)

理事官
伊藤 實

受審人
A 職名:第二東洋丸船長 海技免状:三級海技士(航海)
C 職名:第三大洋丸二等航海士 海技免状:三級海技士(航海)
指定海難関係人
B 職名:第二東洋丸甲板長

損害
東洋丸・・・右舷中央後部外板に破口
大洋丸・・・船首部を圧壊

原因
大洋丸・・・法定灯火不表示、動静監視不十分、船員の常務(衝突回避措置)不遵守(主因)
東洋丸・・・注意喚起信号不履行(一因)

二審請求者
受審人C

主文

  本件衝突は、第三大洋丸が、法定灯火を表示しなかったばかりか、第二東洋丸に対する動静監視不十分で、同船との衝突を避けるための措置をとらなかったことによって発生したが、第二東洋丸が、法定灯火を表示していない第三大洋丸に対して注意喚起信号を行わなかったことも一因をなすものである。
 受審人Cの三級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
 受審人Aを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成12年3月30日20時05分
 大分県姫島北東方沖合 

2 船舶の要目
船種船名 貨物船第二東洋丸 油送船第三大洋丸
総トン数 4,428トン 749トン
登録長 110.00メートル 72.00メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 7,060キロワット 1,471キロワット

3 事実の経過
(1)第二東洋丸及び第三大洋丸
ア 第二東洋丸
 第二東洋丸(以下「東洋丸」という。)は、全長120.00メートル、幅20.00メートル、深さ6.65メートルの自動車運搬船兼貨物船で、船底から航海船橋甲板まで8層の甲板があり、同甲板の満載喫水線上の高さが約16.5メートルで、同船橋の前窓から船首端までの距離が約37メートルであった。
 東洋丸は、ARPA付のレーダー2基、GPS及び同プロッター、電磁式速力計等を装備しているほか、信号装置として固定式探照灯1個、モーターサイレン及びエアーホーンを備えていた。
イ 第三大洋丸
 第三大洋丸(以下「大洋丸」という)は、全長76.67メートル、幅11.40メートル、深さ5.35メートルの油送船で、航海船橋甲板の満載喫水線上の高さが約5メートル、同船橋の前窓から船首マスト及び船首端までの距離がそれぞれ約50メートル及び約61メートルであった。
 大洋丸は、ARPA付のレーダー2基、GPS等を装備しているほか、信号装置として操舵室で操作できる1キロワットの探照灯、モーターサイレン及びエアーホーンを備えていた。
(2) 乗組員及び船橋当直体制等
ア 東洋丸
 東洋丸は、近海区域を航行区域とする総トン数1,600トン以上5,000トン未満の船舶であることから、三級海技士(航海)の海技免許を持つ船長のほか、四級海技士(航海)の同免許を持つ一等航海士、五級海技士(航海)の同免許を持つ二等及び三等各航海士を乗り組ませるべきところ、航行区域が限定されていることから、船舶職員法第20条の規定により、三級海技士(航海)の同免許を持つ船長、四級海技士(航海)の同免許を持つ一等航海士を乗り組ませることを内容とした、乗組み基準の特例許可を受け、船長、一等航海士、二等航海士、甲板長ほか甲板手3名、機関長ほか機関士2名及び司厨長の合計11名が乗り組んでいた。
 船橋当直は、一等航海士、二等航海士及び甲板長の3名に、それぞれ甲板手1名が補佐として付き、各直2名の4時間交替3直制で行われており、出入港時、狭水道航行時、視界制限時及び船舶輻輳時等には船長自らが操船指揮をとっていた。
イ 大洋丸
 大洋丸は、沿海区域を航行区域とする油送船で、船長、一等航海士、二等航海士、甲板長、機関長、一等機関士、司厨長の合計7名が乗り組んでいた。
 船橋当直は、一等航海士、二等航海士及び甲板長の3名による単独4時間交替3直制で行われており、出入港時、狭水道航行時、視界制限時及び船舶輻輳時等には船長自らが操船指揮をとっていた。
(3) 受審人等
ア 受審人A
 A受審人は、昭和51年M運輸広島(M株式会社の旧社名、以下「M株式会社」という。)所有の船舶に甲板員として乗船した後、昭和56年5月乙種一等航海士の、平成2年5月三級海技士(航海)の海技免許を取り、航海士及び船長を経て、平成9年1月第一東洋丸の船長となり、その後一括公認の船長として同社所有の船舶に乗船し、平成12年3月24日東洋丸に船長として乗船した。
イ 指定海難関係人B
 B指定海難関係人は、漁船及び内航貨物船の甲板員を経て、昭和57年M株式会社が所有する船舶の甲板員、甲板手を経て、平成11年10月12日甲板手兼甲板長として一括公認により雇い入れられ、航海当直部員として船橋当直責任者の補佐にあたっていたところ、平成12年3月24日東洋丸の甲板長として乗船した。
ウ 受審人C
 C受審人は、昭和41年内航貨物船に甲板員として乗船した後、外航貨物船などの甲板員、甲板手を経て、平成3年1月三級海技士(航海)の海技免許を取り、外航船及び内航貨物船などの航海士を経験し、平成12年3月3日大洋丸に二等航海士として乗船した。
(4) 事件発生に至る経緯
 東洋丸は、専ら広島港、八戸港及び苫小牧港各港間で自動車などの輸送に従事していたところ、苫小牧港において車台28台、貨物コンテナー16個及び車両3台を積載し、船首4.25メートル船尾6.70メートルの喫水をもって、平成12年3月28日16時20分同港を発し、関門海峡経由で広島港に向かった。
 ところでA受審人は、船橋当直者に対する指示を船長命令簿などによらず、口頭によって与えており、甲板長として乗船したB指定海難関係人に当直責任者として船橋当直を行わせるにあたって、同指定海難関係人が航海当直部員の認定を受けており、これまでも当直責任者の補佐としての経験があったことから、他の航海士と同様に当直を任せることができると思い、08時から12時及び20時から24時の時間帯の同当直を行わせていた。
 A受審人は、広島港に向かうにあたり、周防灘航路第5号灯浮標(以下、周防灘航路灯浮標については「周防灘航路」を省略する。)に並んだところで、祝島南西方灯浮標を経て平郡水道に向かうこととし、その針路線をGPSプロッターに表示させていたので、自らは祝島に接近したところで昇橋する予定で、同月30日17時58分部埼灯台を通過したとき、一等航海士に当直を委ねて降橋した。
 降橋にあたって、A受審人は、第5号灯浮標に達した後の当直時間帯がB指定海難関係人の当直時間にあたり、自船の針路が周防灘の推薦航路に沿って西行する船舶と小角度で交差することや、レーダーの見張り警報機能やプロット機能を有効に活用するなどして、早期に他船を発見して十分に余裕のある時期に安全に航過する措置をとること、動静が分からない船舶がいるときには直ちに報告することなど、具体的な内容を示すことも、これをB指定海難関係人に引き継ぐよう指示することもしなかった。
 B指定海難関係人は、19時50分ごろ当直交替のため昇橋したが、当直に就くにあたってレーダーによって他船の状況等を確認せず、間もなく第5号灯浮標で変針になる旨だけの引継を一等航海士から受け、同時55分船橋当直を交替した。
 19時56分B指定海難関係人は、姫島灯台から342度2.3海里の地点で、針路をGPSプロッターに示されている090度(真針路、以下同じ。)に定めて自動操舵とし、レーダーを作動させていたものの、視界も良好で船首方に他船の灯火を認めなかったので、レーダー画面を監視することも、見張り警報機能を作動させることもなく、目視による見張りを行って、機関を全速力前進にかけ、折からの潮流に抗して17.8ノットの対地速力で進行した。
 B指定海難関係人は、19時59分姫島灯台から005度2.2海里の地点に達したとき、右舷船首4度2.7海里に反航する大洋丸が存在し、その後衝突のおそれがある態勢で接近したが、同船が航行中の動力船であることを示す灯火(以下「法定灯火」という。)を表示していなかったので、これに気付かず続航した。
 20時02分B指定海難関係人は、姫島灯台から028度2.4海里の地点に達したとき、当直補佐の甲板手から6海里レンジとしていたレーダーで、正船首やや右方1.3海里のところに船舶の映像を認めた旨の報告を受け、双眼鏡を使用して同方向を注視し、居住区のものと思われる明かりを認めたものの、法定灯火を認めなかった。そこで同指定海難関係人は、甲板手にプロット機能の作動を指示したものの、同船のベクトル表示に約1分を要することから、その表示を待たないで、同時02分半甲板手を手動操舵につけ、自らは目視による見張りを行ったところ、依然として同船の法定灯火を認めず、動静が分からず不安を抱いたが、もうすこし接近するまで様子を見ようと思い、A受審人にその旨を報告しなかったことから、注意喚起信号が行われず、目視による見張りを続けながら進行した。
 20時04分B指定海難関係人は、大洋丸がほぼ正船首0.41海里に接近したとき、第6号灯浮標が右舷船首30度0.6海里に接近していたことから、同灯浮標に接近することを避け、同船を右舷側に見て航過することとして左舵を命じた。同時04分少し過ぎ、同指定海難関係人は、大洋丸が探照灯を照射したので同船が反航船であることを初めて知り、左舵一杯を令したが、及ばず、20時05分姫島灯台から040度3.0海里の地点で、東洋丸は022度を向首して14.3ノットとなったとき、大洋丸の船首が東洋丸の右舷後部に後方から70度の角度で衝突した。
 当時、天候は晴で、風力2の北西風が吹き、視界は良好で、衝突地点付近には約0.3ノットの西北西に向かう潮流があった。
 A受審人は、自室で休息中、衝撃で衝突したことを知り、急ぎ昇橋して事後の措置にあたった。
 また、大洋丸は、C重油約2,000キロリットルを積載し、船首4.10メートル船尾5.10メートルの喫水をもって、同月30日13時45分愛媛県菊間港を発し、伊予灘の推薦航路に沿って関門港小倉区に向かった。
 C受審人は、08時から12時まで及び20時から24時までの船橋当直にあたっており、19時45分姫島灯台から073度5.5海里の地点で昇橋し、一等航海士から針路が282度で自動操舵にしていること、速力が10.3ノットであること、第5号及び第6号灯浮標が見えていること、他船の状況及び船長からの指示事項を引き継ぎ、自らもこれらを確認したものの、法定灯火の表示状況についての引継は受けず、自らもその表示状況を確認する習慣もなかったのでこれを確認せず、間もなく当直を交替し、法定灯火を表示しないまま、同針路、同速力で進行した。
 C受審人は、19時50分姫島灯台から068度4.8海里の地点に達したとき、12海里レンジとしていたレーダーで、左舷船首4度7.0海里に東洋丸のレーダー映像を認めたので双眼鏡を用いて同方向を確認したところ、舷灯を認めなかったものの、マスト灯2個を初認し、その視認状況とレーダー映像の接近模様から、同船が高速力で周防灘の推薦航路に沿って反航する船舶で、左舷を対して航過できるものと思い込み、レーダーの見張り警報機能を有効に活用しないで続航した。
 C受審人は、19時56分姫島灯台から061度3.9海里の地点に達したとき、左舷船首約8度4.2海里に接近した東洋丸が、針路を左方に転じて右舷灯を示すようになり、同時59分には同船を左舷船首8度2.7海里に認めることができ、その後衝突のおそれのある態勢で接近するのを知ることができたが、初認したときの左舷を対して航過できるものとの思い込みから、同船の動静監視を十分に行わなかったので、これに気付かないで進行した。
 20時02分C受審人は、姫島灯台から049度3.2海里の地点に達したとき、東洋丸が衝突のおそれのある態勢のまま、左舷船首8度1.3海里に接近していたが、依然、動静監視を十分に行わなかったので、これに気付かず、衝突を避けるための措置をとらないで続航した。
 20時03分少し前C受審人は、姫島灯台から047度3.2海里の地点で第6号灯浮標を左舷側0.3海里に航過し、この時刻を海図に記載して前方の見張りを行ったところ、東洋丸の右舷灯を左舷船首0.35海里に初めて認め、同船と横切りの態勢であることを知り、同時04分少し過ぎ急いで探照灯を点じて同船や自船の船首方を照射し、同時4分半右舵一杯として機関を停止したが、大洋丸は、312度を向首して9.6ノットの速力で、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、東洋丸は右舷後部外板に破口を生じ、大洋丸は船首を圧壊したが、のちいずれも修理された。
(主張に対する判断)
 東洋丸側受審人及び補佐人は、本件は大洋丸が法定灯火を表示していなかったことによって発生したものであり、A受審人の所為は原因とならない旨主張する。
 一方、大洋丸側受審人及び補佐人は、大洋丸は法定灯火を表示しており、C受審人が、当直交替時刻を遵守しなかった点、レーダーにより東洋丸を探知した後のレーダー監視が不十分であった点及び衝突を避けるための協力動作が緩慢であった点に本件衝突の一因があるものの、主たる原因は、(1)A受審人が、夜間高速力(18ノット)で平郡水道に向かうにあたり、海図に針路線を記載せず、転針点等の報告を指示せず、日頃航海当直部員の指導を行わず、同部員に航海当直を行わせたことと、(2)航海当直に当たるB指定海難関係人が暗順応不十分なまま、十分な引継をしないで当直を交替し、転針点に近づいたことを船長に報告せず、周防灘航路の西行路を逆航し、レーダー監視を怠り、近距離で探知した大洋丸に警告信号を行わず、避航動作をとらなかったことである旨主張するので、以下判断する。
1 大洋丸の法定灯火の表示の有無について
 C受審人に対する質問調書中、「後部マスト灯と舷灯の点灯状態は確認していない。交替時航海灯制御盤のスイッチなどは確かめていないが一等航海士はスイッチを入れ点灯状態を確認したと言っている。19時45分ごろ一等航海士と当直を交替し、直後に前部マスト灯の明かりがボヤーとして見えたのは確認している。」旨の供述記載があり、また同受審人は、当廷においても同旨の供述を行っている。
 一方、B指定海難関係人に対する質問調書中、「衝突の3分前ごろI甲板手がレーダー映像を探知した旨の報告をしたので、その方向を見て相手船の居住区の明かりを認めたが航海灯は見あたらなかった。」旨の供述記載があり、また当時B指定海難関係人と当直を行っていたI甲板手に対する質問調書中、「衝突の3分前ごろ相手船のレーダー映像を認め、航海灯などが見えないので、B甲板長に前方に何か見えるかと言った。B甲板長は何も見えないと返答した。双眼鏡を使って見たところ小さなぼやけた明かりが見えたがマスト灯、舷灯は見えなかった。」旨の供述記載がある。
 また、A受審人に対する質問調書中、「衝突の衝撃ですぐに昇橋した。10秒ぐらいで昇橋できる。相手船の航海灯は点灯していなかった。ほぼ同時に昇橋した一等航海士、二等航海士も相手船は航海灯をつけていないと言っていた。相手船の連掲された紅灯2個の点灯を認めたときにも航海灯は認めていない。」旨の供述記載がある。
 検査調書には、「操舵室における船首方の見張りの姿勢で、船尾灯を除く他の航海灯は、(1)後部マスト灯に照射される前部マストの上部、(2)前部マスト灯に照射される前部停泊灯の台座、(3)右舷灯によって照射される船首楼右舷側後壁などによって点灯を確認できた。」旨記載されている。
 C受審人は、同受審人に対する質問調書中及び原審審判調書中の各供述記載並びに当廷において、航海灯制御盤のスイッチ、舷灯及び後部マスト灯の点灯を確認していないが、法定灯火は表示していた旨主張するものの、この主張にあたって、検査調書に記載されているような具体的な状況を説明していない。
 したがって、当海難審判庁は、これらの証拠から、大洋丸は法定灯火を表示していなかったと認定し、同船が同灯火を表示していなかったことは、本件発生の原因をなすものと判断する。
2 A受審人のB指定海難関係人に対する指示について
 同受審人の船橋当直者に対する指示模様は、事件発生に至る経緯において認定したとおりである。
 同受審人に対する質問調書中、「B甲板長が航海当直部員の認定を受けていることは知っていた。免状は持っていないがベテランであるから船橋当直については、一等航海士や二等航海士と同じように当直を任せられると思っていた。」旨の供述記載があり、また同受審人は、当廷において、「追い越すときには十分離して、早め早めに対応するように言っているが、具体的に距離の指示はしていない。」旨供述している。
 また、B指定海難関係人に対する質問調書中、「航海当直部員の職務は見張りと舵取りと思っていた。」旨の供述記載及び同指定海難関係人の原審審判調書中、「航海当直部員としての教育は受けていない。甲板手のとき当直者が相手船をかわすのを見て、見よう見まねで自分なりに判断していた。」旨の供述記載がある。
 このことから、A受審人が、乗組み基準の特例許可を受けた東洋丸において、B指定海難関係人に平郡水道に向かう時間帯の船橋当直を責任者として行わせるにあたって、航海当直部員の職務が船長の職務上の命令によって行うものであったが、何かあったら知らせよと指示したのみで、自船の速力、針路模様、航行海域等を考慮したうえで職務内容を具体的に指示しなかったことは、本件発生の原因をなすものと判断する。
3 東洋丸がとった平郡水道に向かう針路について
 C受審人に対する質問調書中、「周防灘は何十回となく航行しており、航路事情についてもよく分かっている。」旨の供述記載があり、同受審人は、東洋丸が右舷灯を示すようになった19時56分以後同船の動静を監視しておれば、同船が平郡水道に向かう東行船であることを知ることができ、同船との衝突を避けるための措置をとることができたものと判断する。
 したがって、東洋丸が第5号灯浮標に並んだ後、平郡水道を航行するため、針路を090度として祝島南西方灯浮標に向けて周防灘の推薦航路の北側を東行したことは、本件発生の原因をなすものとは判断しない。
4 東洋丸の船橋当直の引継について
 B指定海難関係人が前直者と船橋当直を引き継いだ状況は、事件発生に至る経緯に認定したとおりである。
 船橋当直者が当直を引き継ぐにあたって遵守すべき基本事項は、船員法施行規則第3条の5の規定に基づき定められた、航海当直基準に明示されている。B指定海難関係人が前直者と船橋当直を交替する際の引継が、同基準に沿ったものではなかったと認められるものの、大洋丸が法定灯火を表示していなかったことから、このことが本件発生の原因をなすものとは判断しないが、当直の引継に当たっては、同基準を遵守すべきである。
5 B指定海難関係人の見張り模様について
 同指定海難関係人の原審審判調書中、「甲板手から報告あるまで私はレーダーは見ていない。相手船の灯火が見えるとレーダーを見るようにしている。ARPAは相手船が同航船の場合速力を把握するため、相手船の接近が速いとき使用している。両船の速力が本件時のようなときには1.5海里で相手船を探知してからARPA機能を作動させてもすぐには表示が出ないので間に合わない。本件時のレーダーレンジは6海里であったがレーダーは見ていない。ARPA以外の機能については聞いていない。」旨の供述記載がある。
 また、A受審人は、当廷において、「レーダーの使用についてはレンジをなるべく変えたり、プロッティングを早めにするよう言っている。」旨供述している。
 以上の証拠から、東洋丸において、見張り警報機能及びプロット機能を有する2基のレーダーは、正常に作動していたところ、これらの機能が有効に活用されていなかったことが認められる。
 しかし、B指定海難関係人が、レーダー機能を有効に活用して十分な見張りを行わなかったことは、大洋丸が法定灯火を表示していなかった点から、本件発生の原因をなすとは判断しないが、レーダー機能の有効活用について十分に配慮すべきである。
6 B指定海難関係人が大洋丸の存在を知った後の措置について
 同指定海難関係人に対する質問調書中、「相手船の存在を知ったときマスト灯、舷灯を認めず、居住区の明かりを見て同航船か、漁船と思った。近づいてから右舷か左舷にかわすつもりであった。」旨の供述記載があり、同指定海難関係人は、当廷において、「ポールドからの青白い明かりが2つ、3つ並んで見えた。相手船の動静が分からなかった。漁船ではなく貨物船かタンカーと思ったが船尾灯は見えず不安があった。西行船ではないかとまでは考えが回らなかった。」旨供述している。
 同指定海難関係人が、レーダー映像により大洋丸の存在を知ったのは、本件発生の3分前、距離1.3海里前方のところであり、このとき同船の法定灯火を認めず、居住区の明かりのみを認め、同船の動静を判断できず、不安を抱いていたから、その旨をA受審人に報告して注意喚起信号を行うことが必要であったところ、この旨の報告をせず、注意喚起信号が行われなかったことは、本件発生の原因をなすものと判断する。
7 C受審人の見張り模様について
 同受審人に対する質問調書中、及び同受審人の原審審判調書中、「レーダーで相手船の映像を7海里に認め、双眼鏡でマスト灯2個を認め、左舷対左舷で航過すると思って安心していた。19時57分にレーダーで船位を入れたがこのとき相手船の映像を左舷船首方に認めたがその後レーダーは見ていない。居眠りもせず前方の見張りを行っていたがどうして直前まで気付かなかったのか分からない。20時04分第6号灯浮標の通過時刻を海図に記入した直後相手船のマスト灯2個と右舷灯を認めた。」旨の各供述記載がある。
 以上の供述記載から、C受審人が、目視による見張りだけでなく正常に作動していたレーダーの警報機能等を活用しておれば、早期に東洋丸の接近を知ることができたと思われるところ、初認直後の左舷対左舷で航過するとの思い込みから、同機能等を有効に活用するなどして、同船の動静監視を十分に行わなかったことは、本件発生の原因をなすものと判断する。
8 C受審人がとった衝突回避措置について
 同受審人が、第6号灯浮標の通過時刻を海図に記入した後、東洋丸の右舷灯を認めて探照灯を照射したのは、両船の距離が約500メートルに接近したときで、このとき東洋丸は左転中であり、この照射は衝突回避措置とは認められず、大洋丸側は衝突回避措置をとらなかったと判断する。

(原因)
 本件衝突は、夜間、周防灘において、西行する大洋丸が、法定灯火を表示しなかったばかりか、東洋丸に対する動静監視不十分で、同船との衝突を避けるための措置をとらなかったことによって発生したが、東洋丸が、法定灯火を表示していない大洋丸に対して注意喚起信号を行わなかったことも一因をなすものである。
 東洋丸の運航が適切でなかったのは、船長が、航海当直部員に船橋当直を行わせるにあたって、その職務内容について十分な指示を与えなかったことと、船橋当直の同部員が、前方に認めた法定灯火を表示していない船舶の存在を船長に報告しなかったこととによるものである。

(受審人等の所為)
 C受審人は、夜間、姫島灯台の東北東方を関門港に向けて西航中、船橋当直に就く場合、航海灯制御盤や目視などの方法により、法定灯火を表示していることを確認すべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、同当直に就くにあたり、法定灯火の表示状況を確認する習慣がなく、同灯火を表示していることを確認しなかった職務上の過失により、法定灯火を表示しないまま航行して東洋丸との衝突を招き、東洋丸の右舷側中央部外板に破口を生じ、大洋丸の船首を圧壊させるに至った。
 以上のC受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の三級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
 A受審人は、夜間、第5号灯浮標で変針して祝島南西方灯浮標を経て平郡水道に向かうにあたり、航海当直部員の認定を受けたB指定海難関係人に当直責任者として船橋当直を行わせる場合、同当直部員は、その職務を上長の職務上の命令にしたがって行うものであるから、動静が分からない船舶がいるときには直ちに報告することなど、その職務内容を具体的に指示すべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、同指定海難関係人が航海当直部員の認定を受け、これまで航海当直者の補佐の経験があったことから、他の航海士と同様に船橋当直を任せることができると思い、何かあったら報告せよと指示したのみで、その職務内容を具体的に指示しなかった職務上の過失により、法定灯火を表示していない船舶が存在する旨の報告が得られず、注意喚起信号を行うことなく進行し、大洋丸との衝突を招き、前示の損傷を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B指定海難関係人は、夜間、姫島灯台の北北東方を平郡水道に向けて東行する東洋丸の当直責任者として船橋当直中、法定灯火を表示していない船舶の存在を知り、その動静が分からず不安を抱いた際、その旨を船長に報告しなかったことは、本件発生の原因となる。
 B指定海難関係人に対しては勧告しない。

 よって主文のとおり裁決する。

(参考)原審裁決主文平成14年6月13日門審言渡
 本件衝突は、第三大洋丸が、法定灯火を表示しなかったばかりか、動静監視不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことによって発生したが、第二東洋丸が、動静監視不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Cの三級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。


参考図





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