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平成14年第二審第38号
件名

貨物船神永丸貨物船やえ丸3衝突事件[原審仙台]

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成15年5月13日

審判庁区分
高等海難審判庁(佐和 明、宮田義憲、田邉行夫、吉澤和彦、山本哲也)

理事官
伊藤 實

受審人
A 職名:神永丸船長 海技免状:一級海技士(航海)
B 職名:神永丸二等航海士 海技免状:四級海技士(航海)
C 職名:やえ丸3船長 海技免状:五級海技士(航海)
指定海難関係人
D 職名:やえ丸3甲板長

損害
神永丸・・・右舷中央部船尾寄り外板に破口を伴う凹損
やえ丸・・・左舷船首部を圧壊

原因
神永丸・・・狭視界時の航法(信号、レーダー、速力)不遵守
やえ丸・・・狭視界時の航法(信号、レーダー、速力)不遵守

二審請求者
理事官熊谷孝徳

主文

  本件衝突は、神永丸が、視界制限状態における運航が適切でなかったことと、やえ丸3が、視界制限状態における運航が適切でなかったこととによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Bを戒告する。
 受審人Cを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成13年4月11日14時44分
 宮城県歌津埼東方沖合

2 船舶の要目
船種船名 貨物船神永丸 貨物船やえ丸3
総トン数 4,405トン 499トン
全長 141.75メートル 76.16メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 6,619キロワット 735キロワット

3 事実の経過
 神永丸は、専ら釧路、苫小牧、塩釜及び大阪各港間において車両等の輸送に従事する、船体中央部船尾寄りに船橋楼を設け、可変ピッチプロペラを装備したロールオン・ロールオフ型貨物船で、A及びB両受審人ほか11人が乗り組み、車両等846トンを載せ、船首5.2メートル船尾6.4メートルの喫水をもって、平成13年4月11日10時15分塩釜港仙台区を発し、苫小牧港に向かった。
 A受審人は、船橋当直を3人の航海士にそれぞれ甲板手1人を付けた3直4時間交替制としていたところ、発航時から霧模様であったので引き続き在橋して操船の指揮にあたり、金華山沖を通過して進路を北に向けた13時過ぎ、折から当直中のB受審人に、反航船がいるときは沖合に針路を転じて避けるように指示し、食事を兼ねて小休息のため降橋した。
 14時00分B受審人は、歌津埼灯台から132度(真方位、以下同じ。)14.5海里の地点に達したとき、針路を023度に定めて自動操舵とし、霧で視程が約300メートルに狭められていたので、霧中信号を自動吹鳴として機関を半速力前進に下げたものの、安全な速力にまで減じることなく、14.6ノットの対地速力(以下「速力」という。)で法定の灯火を表示して進行した。
 14時15分ごろB受審人は、12海里レンジとしたレーダーで、正船首少し左約12海里にやえ丸3(以下「やえ丸」という。)及びその左方に2隻の反航船の映像を初めて探知し、しばらく観察したのち2隻の反航船はほぼ自船の針路線と平行に反航しているが、やえ丸はその方位が明確に変わらないまま、自船の船首輝線に寄る状況で接近していることを認めた。
 B受審人は、やえ丸の針路を確かめるため、VHFで連絡をとろうとしたものの、応答がなかったので14時22分、歌津埼灯台から109.5度13.6海里の地点において、同船の映像がほぼ正船首9海里となったとき、針路を028度に転じて続航した。
 14時25分ごろ再び昇橋したA受審人は、やえ丸の動向についてB受審人から報告を受け、自動衝突予防援助装置(以下「アルパ」という。)を装備した1号レーダーでの監視を同受審人に任せ、自らはアルパを装備していない2号レーダーを使用することとし、マーカー用ペンでやえ丸の映像をプロットして動静を監視していたところ、その方位が顕著に変わらないまま左舷前方から接近することから、同船が金華山に接航する針路をとらず沖合に向けているものと判断し、同時30分歌津埼灯台から102度13.9海里の地点において、甲板手を手動操舵に就けて針路を左に転じ、018度として進行した。
 A受審人は、その後右舷前方から徐々に左方に移動するやえ丸のレーダー映像をプロットしていたものの、レーダーレンジの切替えを度々行っているうちにその進路模様がはっきりしなくなったが、1号レーダーを監視しているB受審人に同船の動静についてのアルパ情報を報告させないで続航した。
 14時39分A受審人は、歌津埼灯台から093度14.2海里の地点に達し、やえ丸の映像を左舷船首9度2.0海里に認めるようになったとき、針路を000度に転じたところ、その後やえ丸と著しく接近することを避けることができない状況となったが、同映像を再び船首輝線の右側に視認するようになったことから、右舷を対して無難に航過できるものと思い、依然B受審人にやえ丸の針路、最接近距離などを逐次報告させるなど、適切な補佐を指示しないまま、同船と著しく接近することが避けることができない状態となっていることに気付かず、針路を保つことができる最小限度の速力に減じることも、必要に応じて行きあしを止めることもしないで進行した。
 B受審人は、A受審人が自らレーダーを見ていることから、相手船の針路や最接近距離等の情報を逐次報告するまでもないと思い、十分な補佐を行うことなくレーダー監視を続けた。
 14時42分A受審人は、やえ丸の映像が右舷船首方0.8海里に接近したとき、針路を更に350度に転じて続航中、同時43分少し前同船の汽笛を聞き、衝突の危険を感じて左舵を命じ、右舷ウイングに出たところ、同時43分半右舷前方300メートルばかりにやえ丸の船体を視認し、左舵一杯を指示したが効なく、14時44分歌津埼灯台から089度14.0海里の地点において、神永丸は、原速力のままその船首が300度に向いたとき、右舷中央部船尾寄りに、やえ丸の左舷船首部が後方から30度の角度で衝突した。
 当時、天候は霧で風力2の東北東風が吹き、視程は約300メートルであった。
 また、やえ丸は、袋入り精製塩を瀬戸内海各港から国内各地に輸送する船尾船橋型貨物船で、C受審人及びD指定海難関係人ほか3人が乗り組み、荷役用パレット約150トンを載せ、船首2.6メートル船尾4.0メートルの喫水をもって、同月10日16時10分苫小牧港を発し、香川県坂出港に向かった。
 C受審人は、船橋当直を自らのほか一等航海士及びD指定海難関係人の3人による、単独3直4時間交替制として三陸沿岸を南下し、翌11日12時00分陸中尾埼灯台から138度6.5海里の地点に達したとき、針路を200度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけて10.8ノットの速力で進行した。
 定針したころ、C受審人は、霧で視程が0.5海里ばかりに狭められていたうえ、濃霧注意報が発表されていることを知っていたが、すでに昇橋していた次直のD指定海難関係人がこの海域の航海に慣れているから単独の当直を任せても大丈夫と思い、法定の灯火を点じただけで、引き続き在橋して自ら操船の指揮をとることなく、霧中信号を行うことも、安全な速力に減じることもしないまま、漁船が多いときには知らせるよう指示して降橋し、食事ののち自室で休息した。
 D指定海難関係人は、更に霧が濃くなり視界が悪化したものの、船橋にある2台のレーダーを駆動させてこれらを適宜監視しながら当直にあたり、14時00分歌津埼灯台から064度18.0海里の地点に達したとき、右舷側の同航船が接近してきたので、針路を左に転じて170度とし、同時10分半、同灯台から071度17.5海里の地点で再び針路を200度に戻して続航した。
 14時20分ごろD指定海難関係人は、12海里レンジとしたレーダーで、ほぼ正船首方向10海里ばかりに反航する神永丸の映像を初めて探知し、同時30分歌津埼灯台から080度15.5海里の地点に達したとき、同映像がほぼ正船首方向から接近するので、右舵をとって針路を210度に転じた。
 14時39分自室で休んでいたC受審人は、神永丸が左舷船首21度2.0海里となり、その後同船と著しく接近することを避けることができない状況となったが、このことを知る由もなく、針路を保つことができる最小限度の速力に減じ、必要に応じて行きあしを止めるなどの措置をとることができずにそのまま進行した。
 14時40分少し過ぎレーダーレンジを1.5海里に切り替えたD指定海難関係人は、神永丸が左舷前方1.5海里になったとき、同船と左舷を対して安全に航過できるようになったと思い、針路を200度に戻して続航した。
 14時43分少し前D指定海難関係人は、神永丸の霧中信号に初めて気付き、自らも汽笛で長音1回を吹鳴して機関を停止し、間もなく右舵一杯として回頭中、船首が270度を向いたとき、約8ノットの残速力で前示のとおり衝突した。
 自室で就寝中のC受審人は、自船の発する汽笛を聞いて昇橋の途中、衝撃で衝突を知り、事後の措置にあたった。
 衝突の結果、神永丸は、右舷中央部船尾寄り外板に破口を伴う凹損を生じ、やえ丸は、左舷船首部が圧壊した。

(航法の適用)
 本件は、霧で視程が約300メートルとなった三陸沖合において、北上する神永丸と南下するやえ丸との間で発生したもので、海上衝突予防法(以下、法という。)第19条視界制限状態にある水域を航行している船舶間の航法が適用される。
 すなわち、同条第3項により、法第5条(見張り)、同第6条(安全な速力)、同第7条(衝突のおそれ)及び同第8条(衝突を避けるための動作)の、あらゆる視界の状態における船舶について適用される各航法規定と法第35条(霧中信号)を、その時の状況及び視界制限状態を十分に考慮して励行することが求められる。
 しかるに、両船はいずれも安全な速力として航行しなかったうえ、やえ丸は霧中信号を行わなかった。また、両船が互いにレーダーで約6海里の距離に相手船を探知したとき、著しく接近する事態を避けるため、やえ丸が針路を右に、神永丸が左に転じたが、それらの措置は法第8条及び第19条でいう、相手船が自船の針路の変更等を容易に認めることができる大幅なものではなかったため、レーダーで監視中のそれぞれが互いに相手船の動静を十分に把握できないまま航行を続けた。
 更に、神永丸側は、アルパを装備しているが、これを有効に活用せず、やえ丸が沖出しをするものと臆断し、針路の左転を次々と行った。
 そして、両船の距離が約2海里に接近し、著しく接近することを避けることができない状況となったとき、両船とも同第19条第6項を遵守して針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、必要に応じて行きあしを止める措置をとらなかったことによって本件発生に至ったものである。

(原因に対する考察)
 両船が霧のため視界が制限された三陸沖合を航行中、神永丸において船長が、レーダーによって左舷前方に探知したやえ丸のアルパ情報を有効に活用せず、動静監視不十分のまま沖出しするものと臆断して針路を左に転じ、その後も左転を繰り返したが、両船が著しく接近することを避けることができない状況となったとき、法第19条第6項の規定による適切な措置をとれば、本件発生は免れたものと認められ、あえて左転したことを原因とするまでもない。
 やえ丸においては、船長が視界制限状態下にあることを認識していたにもかかわらず降橋し、操船の指揮をとることなく、両船が著しく接近することを避けることができない状況となった際、針路を保つことができる最小限度の速力に減じることも、必要に応じて行きあしを止めることもできなかったことは、本件発生の原因となる。

(原因)
 本件衝突は、霧のため視界が制限された三陸沖合において、北上する神永丸が、安全な速力とせず、前路に反航するやえ丸の映像を探知し、これと著しく接近することを避けることができない状況となった際、レーダーによる動静監視不十分で、針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、必要に応じて行きあしを止めなかったことと、南下するやえ丸が、霧中信号を行うことも、安全な速力とすることもしなかったばかりか、船長による操船の指揮がとられず、神永丸と著しく接近することを避けることができない状況となった際、針路を保つことができる最小限度の速力に減じ、必要に応じて行きあしを止めるなどの措置がとられなかったこととによって発生したものである。
 神永丸の運航が適切でなかったのは、船長がアルパを装備したレーダーを監視している当直航海士に対し、接近するやえ丸の動静を逐次報告させるなど、適切な補佐をするよう指示しなかったことと、当直航海士が船長に対して十分な補佐を行わなかったこととによるものである。

(受審人等の所為)
 A受審人は、霧のため視界が制限された三陸沖合を北上中、レーダーで前路に反航するやえ丸の映像を認めた場合、同船と著しく接近することを避けることができないかどうかを判断できるよう、アルパを装備したレーダーを監視している当直航海士に対し、針路、最接近距離など同船の動静を逐次報告させるなど、適切な補佐をするよう指示すべき注意義務があった。しかるに、A受審人は、自船が左転したので、右舷を対して無難に航過できるものと思い、当直航海士に対して適切な補佐をするよう指示しなかった職務上の過失により、やえ丸の動静監視が不十分となり、著しく接近することを避けられなくなったことに気付かず、原速力のまま進行して同船との衝突を招き、神永丸の右舷側後部外板に破口を伴う凹損を生じさせ、やえ丸の左舷船首部を圧壊させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B受審人は、霧のため視界が制限された状況下、船長の指揮のもとに船橋当直にあたり、レーダーを監視する場合、アルパ装備のレーダーで監視にあたっていたのであるから、接近するやえ丸の情報を逐次報告するなど、船長に対する補佐を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、船長も自らレーダーを見ているので、逐次報告をするまでもないと思い、船長に対する補佐を十分に行わなかった職務上の過失により、やえ丸との衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 C受審人は、霧で視界制限状態となった三陸沖合を南下する場合、自ら操船の指揮をとるべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、次直のD指定海難関係人が、この海域の航海に慣れているから単独の当直を行わせても大丈夫と思い、視界制限状態下の船橋当直を無資格の者に委ね、引き続き在橋して自ら操船の指揮をとらなかった職務上の過失により、神永丸と著しく接近することを避けることができない状況となった際、針路を保つことができる最小限度の速力に減じ、必要に応じて行きあしを止めるなどの措置をとることができず神永丸との衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。
 以上のC受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 D指定海難関係人の所為は、本件発生の原因とならない。

 よって主文のとおり裁決する。

(参考)原審裁決主文平成14年8月27日仙審言渡
 本件衝突は、神永丸が、視界制限状態における運航が適切でなかったことによって発生したが、やえ丸3が、視界制限状態における運航が適切でなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Cを戒告する。 


参考図1

参考図2





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