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平成14年第二審第25号
件名

漁船衛広丸漁船大東丸衝突事件[原審長崎]

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成15年4月22日

審判庁区分
高等海難審判庁(宮田義憲、山本哲也、山田豊三郎、田邉行夫、佐和 明)

理事官
川本 豊

受審人
A 職名:衛広丸船長 海技免状:四級小型船舶操縦士
B 職名:大東丸船長 海技免状:四級小型船舶操縦士

損害
衛広丸・・・左舷中央部を破損、岸壁に激突し船首部を大破、のち廃船
船長が左腓骨骨幹部を骨折、甲板員が左大腿骨剥離骨折等
大東丸・・・左舷前部外板損傷

原因
大東丸・・・安全な速力、見張り不十分、港則法の航法(防波堤入口)不遵守

二審請求者
理事官尾崎安則

主文

 本件衝突は、大東丸が、安全な速力とせず、かつ、左舷に見る防波堤突端からできるだけ遠ざかって航行しなかったばかりか、見張り不十分で、右舷に見る同突端に近寄って無難に航過する態勢の衛広丸の前路に進出したことによって発生したものである。
 受審人Bの四級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。 

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成13年2月13日05時45分
長崎県島原港内港  

2 船舶の要目
船種船名 漁船衛広丸 漁船大東丸
総トン数 4.91トン 4.0トン
登録長 12.25メートル 12.48メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
漁船法馬力数 70 70

3 事実の経過
(1)島原港内港
 島原港内港は、島原港の北部にあって、龍宮島及び兎島等と霊南岸壁及び船津新地等の陸岸とに囲まれた、全体が狭い水路(以下「島原水路」という。)の形状をなしており、北方から同内港に入出航する船舶は、龍宮島の東方沖約100メートルに設けられた、内港防波堤(D)及び同島北端から北北西方に延びる、基本水準面上高さ4.81メートルの内港防波堤(B)(以下「B防波堤」という。)と霊南岸壁等とに挟まれた、最小可航幅が約50メートルの島原水路を利用していた。
 同水路は、入口付近においてはほぼ東西方向に延び、B防波堤の北北西端付近では大きく南西側に屈曲しており、B防波堤の西側先端付近にはオレンジ色の点滅灯を備えた、漁業実験用自動給餌装置が設置され、その南西方約30メートルから港奥にかけて数隻の廃船が錨泊係留されていた。  
(2)本件発生に至る経緯
 衛広丸は、船尾に操舵室を備えた刺網漁業に従事するFRP製漁船で、A受審人ほか1人が乗り組み、前日投入した刺網を揚げる目的で、島原港沖合の漁場に向かうこととした。
 A受審人は、マスト灯及び船尾灯を装備せず、両色灯のみを点灯し、船首0.35メートル船尾0.80メートルの喫水をもって、平成13年2月13日05時40分島原港船津新地の船だまりを発した。
 A受審人は、舵輪の後ろで眼高が海面上約2.2メートルの位置に立ち、後進で離岸したのち、05時44分機関を7.5ノット(対地速力、以下同じ。)の微速力前進にかけて手動操舵で進行した。
 A受審人は、船津新地南側の港駅裏防波堤を4ないし5メートル離して航過したのち、05時44分30秒入航船の状況が早期に確認できるよう、島原灯台から229度(真方位、以下同じ。)470メートルの地点で、針路を霊南岸壁の南西端水銀灯に向く045度に定めて続航した。
 05時44分42秒A受審人は、右舷船首24度195メートルに、B防波堤の陰から現れた入航中の大東丸の紅灯を視認したことから、右転し、その後、前路で錨泊中の廃船に接近するのですぐに左転を始め、同分49秒右舷に見る同防波堤の突端に数メートルまで近寄る063度の針路とし、大東丸を無難に航過する態勢で進行中、同分54秒左舷船首70メートルに接近した大東丸が、左転して自船の前路に進出する態勢となり、05時45分島原灯台から225度375メートルの地点において、大東丸の船首が衛広丸の左舷中央部に前方から20度の角度で衝突した。
 当時、天候は曇で風はほとんどなく、潮候は下げ潮の末期にあたり、潮高は約80センチメートルで、潮流は微弱であった。
 また、大東丸は、船尾に操舵室を備えた刺網漁業に従事するFRP製漁船で、B受審人ほか1人が乗り組み、船首0.5メートル船尾0.7メートルの喫水をもって、同日04時05分島原港を発し、同港北東方の漁場に至り、前日投入した刺網を揚収したのち、05時30分島原灯台から035度2.5海里の漁場を発進し、漁獲物の水揚げのため、同港魚市場に向かった。
 B受審人は、マスト灯及び船尾灯を装備せず、ほぼ船体中央部に立てたマスト頂部に白色全周灯を備えていたが、これを点灯せず、両色灯のみを点灯し、舵輪の後ろで眼高が海面上約2.2メートルの位置に立ち、機関を全速力前進にかけて約20ノットの速力で手動操舵によって進行した。
 B受審人は、05時44分ごろ島原灯台の東方沖に達したとき、機関を15.0ノットの港内全速力前進に減じて続航し、同分35秒島原灯台から202度250メートルの地点で、島原水路に入り、針路を290度に定めたが、安全な速力にすることなく、港内全速力のまま進行した。
 B受審人は、05時44分42秒左舷船首41度195メートルのところに、出航中の衛広丸の緑灯を視認できる状況であったが、前路を一瞥(いちべつ)して出航船はいないものと思い、見張りを十分に行っていなかったので、同船に気付かなかった。
 05時44分44秒B受審人は、島原灯台から217度260メートルの地点に達し、左舷に見るB防波堤の突端から遠ざかる進路で航行すれば、衛広丸と左舷を対して無難に航過する態勢であったが、魚市場に向けてB防波堤の突端に近づくように左転を始め、同分54秒ほぼ魚市場に向首する223度としたとき、右舷船首70メートルに接近した衛広丸の前路に進出する態勢となった。しかし、依然、見張りを十分に行わないまま、同船に気付かず続航し、同時45分わずか前船首至近に接近した衛広丸の灯火を初めて視認したが、どうすることもできず、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、衛広丸は、左舷中央部が破損し、A受審人が左腓骨骨幹部を骨折し、甲板員が右大腿骨剥離骨折等を負い、大東丸は、左舷前部外板に軽微な損傷を生じたが、のち、修理された。
 衛広丸は、A受審人が衝突の衝撃で海中に転落し、甲板員を乗せたまま航走して岸壁に激突し、船首部を大破して廃船とされた。

(航法の適用)
 本件は、港則法適用港である島原港において、夜間、出航中の衛広丸と入航中の大東丸とが、B防波堤の突端付近で衝突したものであり、以下適用航法について検討する。
 港則法第17条は、防波堤等の突端などにより、互いに他の船舶を視認することが困難な場所において、船舶同士の出会いがしらの衝突を防止するために、あるいは、衝突のおそれがある態勢になっても時間的、距離的に十分な余裕をもって衝突回避の措置がとれるように、同突端などを右舷に見て航行するときは、できるだけこれに近寄り、左舷に見て航行するときは、できるだけこれに遠ざかって航行するように定めたものである。
 本件衝突発生時の状況を検討すれば、島原水路はB防波堤の突端で屈曲し、しかも、当時、同防波堤の高さが水面上約4メートルあり、両受審人の操船位置における眼高及び両船の両色灯の高さから、両船ともB防波堤越しに互いに相手の船舶を視認することができない状況にあって、両船が同防波堤を替わして互いの船舶の灯火を視認可能となったのは、衝突の18秒前である。
 このことから、当初、B防波堤から遠ざかって航行していた大東丸が、その後も同防波堤からできるだけ遠ざかるような進路で航行を続けておれば、本件衝突を回避できたものと認められることから、本条を適用するのが相当である。

(原因)
 本件衝突は、夜間、島原港において、入航する大東丸が、安全な速力とせず、かつ、左舷に見る防波堤突端からできるだけ遠ざかって航行しなかったばかりか、見張り不十分で、右舷に見る同突端に近寄って無難に航過する態勢で出航する衛広丸の前路に進出したことによって発生したものである

(受審人の所為)
 B受審人は、夜間、島原港に入航する場合、出航する衛広丸を見落とさないよう、見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、前路を一瞥して出航船はいないものと思い、見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、衛広丸に気付かず、同船の前路に進出して衝突を招き、大東丸の左舷前部外板に損傷を生じさせ、衛広丸の左舷中央部を破損させるとともにA受審人及び衛広丸甲板員に右大腿骨の骨折等を負わせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の四級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 A受審人の所為は、本件発生の原因とならない。

 よって主文のとおり裁決する。

(参考)原審裁決主文平成14年5月30日長審言渡
 本件衝突は、大東丸が、安全な速力とすることなく、航路筋の右側端に寄せないで航行し、衝突の危険を生じさせたばかりか、見張り不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことによって発生したが、衛広丸が、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Bの四級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 受審人Aを戒告する。


参考図





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