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平成14年第二審第29号
件名

交通船つかさプレジャーボート海進丸衝突事件[原審門司]

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成15年4月16日

審判庁区分
高等海難審判庁(宮田義憲、東 晴二、山本哲也、佐和 明、吉澤和彦)
参審員 宮崎芳夫、加藤俊平

理事官
川本 豊

受審人
A 職名:つかさ船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
B 職名:海進丸船長 海技免状:四級小型船舶操縦士

損害
つかさ・・・船首部船底外板及び左舷船尾船底外板に擦過傷
海進丸・・・右舷船尾端、右舷ブルワーク及び船外機カバー破損等
船長が右血胸、左大腿骨近位骨幹部骨折等

原因
海進丸・・・法定灯火不表示、見張り不十分、注意喚起信号不履行、船員の常務(衝突回避措置)不遵守

二審請求者
受審人B

主文

 本件衝突は、海進丸が、法定灯火を適切に表示しなかったばかりか、見張り不十分で、後方から接近するつかさに対して注意喚起信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことによって発生したものである。
 受審人Bを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成12年8月15日20時30分
 大分県保戸島漁港西方沖合

2 船舶の要目
船種船名 交通船つかさ プレジャーボート海進丸
総トン数 4.9トン  
全長 13.60メートル 5.65メートル
機関の種類 ディーゼル機関 電気点火機関
出力 279キロワット 18キロワット

3 事実の経過
 つかさは、船体中央から船尾寄りに操舵室と客室を有する甲板室を設け、専ら保戸島と大分県津久見港間において、不定期で旅客や荷物の輸送に従事する一層甲板のFRP製交通船であるが、A受審人が1人で乗り組み、旅客を乗せる目的で、船首0.20メートル船尾0.30メートルの喫水をもって、平成12年8月15日19時40分保戸島漁港を発し、津久見港で旅客1人を乗せて20時10分同港を発進し、航行中の動力船の灯火を表示して保戸島漁港に向け帰途に就いた。
 A受審人は、海面状態が平穏で視界良好な状況下、舵輪の手前に縦30センチメートル(以下「センチ」という。)横45センチ高さ30センチの木箱を置き、同木箱の上に立って手動による操舵と見張りを行いながら、舵輪の左舷側に設置したレーダーを使用して進行し、観音埼を替わるとともに同レーダーレンジを1.5海里に切り替え、津久見湾を東行した。
 20時22分半少し過ぎA受審人は、津久見白石灯標から137度(真方位、以下同じ。)1,120メートルの地点において、針路を保戸島漁港に向く092度に定め、機関を回転数毎分1,700の半速力前進にかけ、20.0ノットの対地速力(以下「速力」という。)で続航した。
 A受審人は、20時29分保戸島港防波堤灯台から275度1,200メートルの地点に達したとき、ほぼ正船首445メートルのところに海進丸が保戸島漁港に向けて東行していたものの、同船が両色灯だけを表示し、他の明かりを何ら点灯していなかったうえ、レーダーにその映像を認めなかったことから、同船の存在を認めることができないまま、その後同船に衝突のおそれがある態勢で接近していることに気付かないで進行中、20時30分保戸島港防波堤灯台から280度580メートルの地点において、つかさは、原針路、原速力のまま、その船首が、海進丸の右舷船尾部に後方から3度の角度で衝突し、同船の右舷側を乗り切った。
 当時、天候は晴で風はほとんどなく、視界は良好で、潮候は満潮時に当たり、月齢は14.9であった。
 また、海進丸は、船外機を取り付けた無蓋のFRP製プレジャーボートで、B受審人が1人で乗り組み、保戸島へ帰る目的で船首0.10メートル船尾0.20メートルの喫水をもって、19時40分津久見港を発し、両色灯のみを掲げて保戸島漁港に向かった。
 これより先、B受審人は、同日大分県臼杵市内の仕事場から保戸島への帰途、津久見港発の定期船の最終便に乗り遅れ、10日ばかり前から津久見港に係留していた海進丸を使用することとして同船に乗船した。
 ところで、海進丸は船首から0.9メートル船尾寄りで船体中心線からやや右寄りに、甲板上からの高さ2.08メートルのマストを備え、同マストの頂部に白色全周灯(以下「全周灯」という。)が、高さ0.6メートルの位置に両色灯がそれぞれ設置されていたが、B受審人が、船尾部物入れ内部に取り付けた各灯火用のスイッチに灯油缶を打ち付け、いずれも破損して点灯できない状況となったので、全周灯は後日舶用スイッチを購入して正規に修理することとし、両色灯のみ点灯できるように自ら家庭用の適当なスイッチを購入して応急修理を施して使用していた。
 B受審人は、出航するに当たり、両色灯さえ表示していれば大丈夫と思い、全周灯を点灯せず、航行中の動力船であることを示す灯火を適切に表示することなく発進した。
 20時00分B受審人は、船尾部物入れ蓋の右舷側に腰掛け、左手で船外機のハンドルを握って前方を向いた姿勢で操船に当たり、津久見白石灯標から163度1,100メートルの地点において、針路を089度に定め、船外機を全速力前進にかけたものの、同機の調子が悪くなって回転数が上がらず、5.5ノットの速力で手動操舵によって進行した。
 B受審人は、20時29分保戸島港防波堤灯台から276度750メートルの地点に達したとき、左舷船尾3度445メートルのところにつかさの白、紅、緑各灯を視認でき、その後同船の方位が変わらず、衝突のおそれがある態勢で接近することを認め得る状況であったが、後方の見張りを十分に行うことなく、このことに気付かないで続航した。
 B受審人は、後方から接近するつかさに対し、船内に備えていた懐中電灯を同船に向けて照射するなどして注意喚起信号を行わず、更に接近しても転針するなど、衝突を避けるための措置をとることもなく進行中、20時30分わずか前何気なく後方を振り返ったところ、至近に迫ったつかさの紅、緑2灯を初めて視認し、急いで右舵一杯をとったが及ばず、海進丸は、原針路、原速力のまま、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、つかさは、船首部船底外板及び左舷船尾船底外板に擦過傷を生じ、海進丸は、右舷船尾端、右舷ブルワーク及び船外機カバーを破損し、マストに曲損をそれぞれ生じたが、のち海進丸は修理された。
 また、衝突の衝撃で、B受審人が約8週間の入院治療を要する右血胸、右後腹膜下出血、左大腿骨近位骨幹部骨折、左第1から第4腰椎横突起骨折及び背部打撲擦過傷を負った。

(主張に対する判断)
 海進丸側は、本件衝突の原因として次の点を主張するので、以下それらについてそれぞれ検討する。
(1)つかさの速力について
 海進丸側はつかさの速力が過大であった旨主張する。しかしながら、同船の性能表によれば、航海速力は軽荷状態(乗船者2人のほか備品30キログラム搭載)において、機関回転数毎分2,250で27ノットとなっており、当時同船はその回転数を毎分1,700の半速力として、20ノットの速力で航走していたこと、また、視界のよい、船舶がほとんど存在しない湾内の広い水域であったことを勘案すれば、速力が過大であったとまではいえない。
(2)つかさのレーダーの調整について
 海進丸側は、つかさがレーダーの調整を十分に行っておれば海進丸の映像をとらえることができた旨主張する。しかしながら、A受審人は、同人に対する質問調書中の供述記載及び原審審判調書中の供述記載において、また、当廷における供述においても「レーダーレンジを切り替え、調整を行った。」旨一貫して主張したうえ、さらに当廷において「荒天のときは映りが悪いが、当時生簀も自船の航跡も映っていた。」旨述べており、昭和33年から船長として船舶に乗り組み、その間レーダーを有効に使用していたことを勘案すると、レーダーについて通常の知識と経験のある船長が、通常求められる注意深さで調整を行ったものと解せられる。
 一方、レーダーはその機能的限界から、存在する対象物すべてを映像化するものでないことは、海上衝突予防法第6条においても指摘するとおり、広く理解されているところであり、とりわけ、海進丸は海面から露出する部分の小さい無蓋のFRP製船舶であり、材質の対電波透過性と反射面積の最も小さくなる船尾方向からの探知であったことを考慮すれば、映像として得られなかったものと推認できても、これを排斥して映じていたとする客観的根拠と証拠は存在しない。このことは少なくとも同人が映像を見ようとしていたこと、そして映像を認めたとすれば敢えて衝突に至らしめるとは考えられない点からも明らかである。
(3)つかさの見張りについて
 海進丸側は、本件衝突発生時は天候が晴で風がほとんどなく、視界は良好で、月齢14.9であったこと、さらに実況見分において、同船の船体を80メートル手前で視認できた旨の結果から、つかさが見張りを十分に行っていれば衝突は回避できた旨主張する。しかしながら、同実況見分は、その調書中に、「風波のある海面で、月齢1.4の夜間、月出以前において、両色灯の点灯位置を事故発生当時より26センチ高く設定して行われた。その結果、船首付近が微弱に照らされることによって、80メートル手前でかろうじてその存在を認めた。」旨記載されているとおり、事件発生時と外的状況の異なる状況において、両舷灯の点灯位置が異なる状態で行われている。その上、前もって両色灯のみを点灯した海進丸が存在することを認識させたうえ、海進丸を視認させる目的をもって、同船の一点に向けてA受審人の乗船する船舶を次第に接近させ、これを視認した地点においてその視認距離を測定したものであることが明らかにされている。
 海上衝突予防法にいう常時適切な見張りとは、予め用意された一点に限って見張りを行うのではなく、四囲を対象に行うものであり、かつまた、夜間、操船者は船舶が灯火を掲げていないことを前提にして見張りを行ってはいないのであって、両色灯のみを点灯する船舶が存在し、これを後方から視認することを想定してはいない。仮につかさが80メートル手前で瞬時に海進丸を認め得たとしても、当時の両船のそれぞれの速力からすると衝突するまでわずか10秒となる。しかもつかさの船体及びその性能を勘案すると、5ワットの電球に照らし出された海進丸の船体の一部をかろうじて視認し、対象物を識別してその動静を判別したうえ、回避のための適切な操船を行わなければ、同船を回避することは不可能であり、時間的にも距離的にも到底無理な要求を強いることとなり、海進丸側の主張は首肯できない。
 以上の理由からA受審人にその原因があるとするのは相当でなく、かえって海進丸が全周灯を掲げていれば、つかさは2海里ばかり前から衝突に至る間、少なくとも7分間にわたって恒常的に海進丸を視認できたのだから余裕をもって同船を避けることができたものと推認できる。

(原因)
 本件衝突は、夜間、海進丸が、津久見港を出航するに当たり、法定灯火を適切に表示しなかったばかりか、同港から保戸島漁港に向かう際、見張り不十分で、後方から接近するつかさに対して注意喚起信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 B受審人は、夜間、津久見港を出航する場合、法定灯火を適切に表示すべき注意義務があった。しかしながら、同受審人は、両色灯さえ表示していれば大丈夫と思い、法定灯火を適切に表示しなかった職務上の過失により、つかさとの衝突を招き、つかさの船首部船底外板及び左舷船尾船底外板に擦過傷を、また、海進丸の右舷船尾端、右舷ブルワーク及び船外機カバーを破損し、マストに曲損をそれぞれ生じさせ、自らが負傷するに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 A受審人の所為は、本件発生の原因とならない。

 よって主文のとおり裁決する。

(参考)原審裁決主文平成14年6月11日門審言渡
 本件衝突は、海進丸が、法定灯火を表示しなかったばかりか、見張り不十分で、後方から接近するつかさに対して注意喚起信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことによって発生したものである。
 受審人Bの四級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。


参考図
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