(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成14年2月6日23時30分
沖縄県泡瀬漁港南東方沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船ふさ丸 |
総トン数 |
4.5トン |
登録長 |
10.60メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
220キロワット |
3 事実の経過
ふさ丸は、平成5年10月に進水した沖縄県中城湾内での潜水器漁業に従事するFRP製漁船で、主機としてヤンマーディーゼル株式会社が製造した6CA-ET型と称するディーゼル機関を備え、操舵室から主機及び逆転減速機の運転操作が行えるようになっており、主機の冷却は間接冷却方式であった。
冷却海水系統は、船底弁から主機駆動の冷却海水ポンプで吸引加圧された海水が、主機潤滑油冷却器、逆転減速機潤滑油冷却器、空気冷却器、清水冷却器の順に熱交換を行ったのち、過給機下流の主機排気管に導かれ、主機の排気ガスとともに船外に排出されるようになっていた。
冷却海水系統の配管は、主機潤滑油冷却器と逆転減速機潤滑油冷却器との間が内径45ミリメートル(以下「ミリ」という。)、外径55ミリ、長さ300ミリのゴムホースで連結され、金属製配管との嵌合(かんごう)部がステンレス製金具で締付けられるようになっていた。
A受審人は、機関の運転及び保守管理にあたり、発航前点検として、潤滑油量、ビルジ量、蓄電池の電解液量、冷却海水ポンプ駆動用Vベルトの張り具合などの点検を行ったのち主機を始動し、出港した直後に冷却海水の排出状況を確認するようにしていた。
ところで、ふさ丸は、A受審人が平成13年8月友人から主機潤滑油冷却器と逆転減速機潤滑油冷却器とを連結するゴムホースに亀裂が生じた事例を聞いて同ホースの点検を行おうと思っていたものの、同ホースの点検を十分に行うことなく、月15ないし20日の操業を続けていたことから、いつしかゴムホースの経年劣化が進行し、同ホースに亀裂などが生ずるおそれのある状況となっていた。
こうして、ふさ丸は、A受審人ほか1人が乗り組み、操業の目的で同14年2月6日17時00分泡瀬漁港を発し、所要時間が15ないし20分の中城湾内の漁場に向かった。
ふさ丸は、同日23時20分操業を終え、帰港の途に就いて航行中、前示ゴムホースの経年劣化が進行したことから、ほぼ水平に配管された同ホースの上方面、中央部に長さ150ミリ、幅5ミリの亀裂が長手方向に異音を発して生じ、噴出した多量の海水が機関室に流入する状況となった。
A受審人は、同時27分竹竿が床に落ちたような前示異音に気付き、主機を停止回転として甲板上を点検したものの、異状が認められなかったので主機を再び前進とした。
そののち、ふさ丸は、噴出する海水の飛沫を浴びた主機回転計の電磁継電器がぬれ損し、同時28分回転数表示がゼロになるとともに、充電が正常に行われていないことを示す赤色警告灯が点灯し、さらに、清水冷却器の海水量が不足して主機冷却清水温度が高温となって警報を発し、警告灯が点灯したことから、主機を停止したA受審人が操舵室内の機関室点検口を開けて覗いたところ、23時30金武中城港中城新港西防波堤東灯台から真方位183度960メートルの地点において、主機クランク軸の高さ付近まで浸水しているのを発見した。
当時、天候は晴で風力1の北東風が吹き、海上は穏やかであった。
A受審人は、主機を再始動したものの、主機のフライホイールが海水を巻き上げる状況となったことから主機の運転を断念し、ビルジポンプ及び雑用海水ポンプで排水に努めるとともに、海の緊急電話に救助を求めた。
その結果、ふさ丸は、来援した巡視艇に曳航されて泡瀬漁港に引き付けられ、のち破損したゴムホース、ぬれ損した電磁継電器などが取り替えられた。
(原因)
本件浸水は、機関の運転及び保守管理にあたる際、冷却海水系統のゴムホースの点検が不十分で、同ホースに経年劣化による亀裂が生じ、多量の海水が機関室に流入したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、機関の運転及び保守管理にあたる場合、友人から主機潤滑油冷却器と逆転減速機潤滑油冷却器とを連結するゴムホースに亀裂が生じた事例を聞いて同ホースの点検を行おうと思っていたのであるから、同ホースの点検を十分に行うべき注意義務があった。しかしながら、同人は、同ホースの点検を十分に行わなかった職務上の過失により、同ホースに経年劣化による亀裂が生じ、噴出した多量の海水が機関室に流入する事態を招き、主機電気系統の電磁継電器などをぬれ損させるに至った。