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平成14年那審第49号
件名

引船唐翔丸運航阻害事件

事件区分
運航阻害事件
言渡年月日
平成15年3月18日

審判庁区分
門司地方海難審判庁那覇支部(平井 透、金城隆支、坂爪 靖)

理事官
濱本 宏

受審人
A 職名:唐翔丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
B 職名:唐翔丸甲板員 海技免状:一級小型船舶操縦士

損害
3番シリンダ用の燃料噴射ポンプが固着、航行不能

原因
主機燃料噴射ポンプの開放整備不十分

主文

 本件運航阻害は、主機燃料噴射ポンプの開放整備が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Bを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成14年2月11日04時00分
 沖縄県仲間港南東方沖合

2 船舶の要目
船種船名 引船唐翔丸
総トン数 19トン
登録長 15.00メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 882キロワット

3 事実の経過
 唐翔丸は、昭和62年6月に進水した、先島諸島間で台船の曳航作業などに従事する2機2軸を有する鋼製引船で、主機として三菱重工業株式会社が製造したS6R2F-MTK型と称するディーゼル機関を備え、各主機のシリンダには船首側を1番として6番までの順番号がそれぞれ付されていた。
 主機は、使用燃料がA重油で、右舷側主機(以下「右舷機」という。)の船首側動力取出軸では操舵機用油圧ポンプ及び曳航索ウインチ用油圧ポンプがVベルトで駆動されるようになっており、左舷側主機(以下「左舷機」という。)の船首側動力取出軸では発電機がVベルトで駆動されるようになっていた。
 主機の燃料油系統は、燃料油タンクからペーパーエレメント式の一次燃料油こし器を経て燃料供給ポンプで吸引加圧された燃料油が、ペーパーエレメント式の二次燃料油こし器を経て燃料噴射ポンプに供給されたのち、同ポンプで約350キログラム毎平方センチメートルに加圧されて燃料噴射弁に至るようになっており、同噴射弁の漏洩油などは燃料油タンクに戻るようになっていた。
 燃料噴射ポンプは、ボッシュ型のポンプで、プランジャ、プランジャバレル、コントロールラック、コントロールピニオン、コントロールスリーブなどで構成され、同ポンプ仕組みに取り付けられたカム軸の燃料カムが回転し、ローラ及びタペットと称する滑り金を介して同ポンプのプランジャばねを圧縮するとともにプランジャを押し上げ、加圧された燃料油が燃料噴射弁から噴射されたのち、燃料カムの回転に従ってプランジャばねがローラ、タペット及びプランジャを押し下げるようになっていた。
 プランジャは、下部の直径方向にほぼ方形のつば部が加工され、コントロールスリーブの下部に加工された縦溝内につば部が嵌り込む(はまりこむ)ようになっていた。
 コントロールスリーブは、コントロールピニオンと一体であり、調速機とリンク機構で連結されたコントロールラックの直線運動で同ピニオンが回転すると同スリーブの縦溝に嵌まり込んだプランジャのつば部が回転し、プランジャの先端に加工された縦溝及び斜め溝の位置が替わることによって燃料噴射量の調節が行われるようになっていた。
 ところで、唐翔丸の燃料噴射ポンプは、1本のコントロールラックで全シリンダの燃料噴射ポンプを制御するようになっていたことから、経年によるプランジャ及びプランジャバレルの摩耗が進行して燃料油の外部漏洩が増加すると、プランジャとプランジャバレルとの隙間、タペットとポンプ本体との隙間などの摺動部に燃料油が浸入して付着し、摩擦熱で炭化するなどして異物となり、同隙間にかみ込むなどして摺動部の固着が1シリンダの燃料噴射ポンプに生じても、全シリンダのコントロールラックの作動が阻害され、燃料噴射量の調節ができなくなるおそれがあった。
 A受審人は、平成10年9月有限会社Eに入社し、同11年2月B受審人が船長として乗り組む唐翔丸に甲板員兼船長(月7日船長)として乗り組み、船長から機関作業などの指導を受けながら、同12年10月B受審人と交代して船長となり、操船のほか機関の運転及び保守管理にあたり、指導を受けた燃料油こし器の開放整備、潤滑油量及び冷却清水量の点検、Vベルトの点検などを船舶管理責任者として行っていたものの、機関関係などの定期整備計画の立案に関与せず、燃料噴射ポンプの整備については実質的な船舶管理者であったB受審人に任せておけば大丈夫と思い、長期間開放整備が行われていなかった同ポンプの開放整備を行うよう、実質的な船舶管理者に要請することなく、年間約600時間となる主機の運転を続けていた。
 B受審人は、昭和40年4月から貨物船などに乗り組んだのち、平成8年7月有限会社Eに入社し、唐翔丸の船長や台船唐翔1号の作業長として勤務したのち、同14年1月唐翔丸に甲板員兼船長(月10日船長)として再度乗り組んだ。
 また、同人は、三級海技士(機関)免状を受有し、唐翔丸の船長経験が豊富であったことから、A受審人と交代したのちも実質的な船舶管理者として機関の保守管理にあたり、会社に提出する作業日報の記載、機関関係などの定期整備計画の立案などを行い、同8年7月唐翔丸が中古船として購入されて以来燃料噴射ポンプの開放整備が行われていないことを承知していたものの、これまで同ポンプの調子が良かったので大丈夫と思い、整備業者に依頼するなど、同ポンプの開放整備を十分に行うことなく、唐翔丸の運航を続けていた。
 こうして、唐翔丸は、A及びB両受審人が乗り組み、同14年2月10日08時00分沖縄県平良港を発し、積荷を満載した台船を曳航して同県仲間港に向い、18時00分ごろ台船のマストに腐食による曲損が生じたことから、B受審人が台船に移乗して処置を行ったものの、マストのことが心配で同人は台船に残ることとした。
 唐翔丸は、翌11日仲間港南東方沖合に達し、夜明けを待つ目的で台船が錨泊したのち、回転数毎分1,100(以下、回転数は毎分のものとする。)としていた主機の回転を下げようとしたところ、左舷機は停止回転数600まで下がったが、右舷機は回転数1,100のままで下がらない状況となった。
 A受審人は、機関室に赴いたものの異状を発見できず、周囲の状況が気にかかったことから操舵室に戻った。
 唐翔丸は、操舵室の操縦レバーと調速機とを連結するワイヤが振動等で緩んで伸びていると思ったA受審人が、操縦レバーを後進側に引いたところ、クラッチが正常に作動して急激に負荷がかかったことから主機が自停し、燃料噴射ポンプのプランジャが吐出量ゼロの位置になるとともに、同ポンプの摺動部に異物がかみ込んで固着し、04時00分大原航路第23号灯標から真方位127度320メートルの地点において、主機の始動ができなくなって航行不能となった。
 当時、天候は曇で風力4の北東風が吹き、海上は2メートルの波高があった。
 B受審人は、A受審人が手配したボートで07時00分唐翔丸に移乗し、燃料噴射ポンプと調速機とを連結しているリンク機構の連結ピンを抜いてコントロールラックを手動で動かしてみたところ、全く動かなかったことから右舷機の始動を断念し、同機で操舵機用油圧ポンプを駆動しており、操舵機が使用できないので会社に救助を求めた。
 その結果、唐翔丸は、来援した引船に曳航され12時10分沖縄県石垣港に引き付けられ、のち3番シリンダ用の燃料噴射ポンプが固着していることが確認され、修理が行われた。

(原因)
 本件運航阻害は、機関の運転及び保守管理にあたる際、主機燃料噴射ポンプの開放整備が不十分で、経年による摺動部の摩耗によって生じた隙間に異物がかみ込んで摺動部が固着し、主機が始動不能になったことによって発生したものである。
 主機燃料噴射ポンプの開放整備が不十分であったのは、船長が同ポンプの開放整備を行うよう、実質的な船舶管理者である甲板員に要請しなかったことと、同管理者が同ポンプの開放整備を十分に行わなかったこととによるものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、機関の運転及び保守管理にあたる場合、甲板員のときから乗り組んでいたのであるから、船舶管理責任者として長期間開放整備が行われていなかった燃料噴射ポンプの開放整備を行うよう、実質的な船舶管理者である甲板員に要請すべき注意義務があった、しかしながら、同人は、機関関係などの定期整備計画の立案に関与せず、燃料噴射ポンプの整備については実質的な船舶管理者に任せておけば大丈夫と思い、同ポンプの開放整備を行うよう、同管理者に要請しなかった職務上の過失により、同ポンプ摺動部の固着を生じさせ、主機が始動不能となって航行不能になる事態を招き、来援した引船に救助されるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B受審人は、機関の保守管理にあたる場合、主機燃料噴射ポンプの摺動部が経年によって摩耗すると、生じた隙間に異物がかみ込むなどして摺動部が固着するおそれがあり、実質的な船舶管理者として機関関係などの定期整備計画の立案を行っていたのであるから、整備業者に依頼するなど、同ポンプの開放整備を十分に行うべき注意義務があった。しかしながら、同人は、これまで燃料噴射ポンプの調子が良かったので大丈夫と思い、同ポンプの開放整備を十分に行わなかった職務上の過失により、同ポンプ摺動部の固着を生じさせ、主機が始動不能となって航行不能になる事態を招き、来援した引船に救助されるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。





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