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平成14年那審第57号
件名

漁船三十八善孝丸乗組員行方不明事件

事件区分
死傷事件
言渡年月日
平成15年3月27日

審判庁区分
門司地方海難審判庁那覇支部(坂爪 靖、金城隆支、平井 透)

理事官
中谷啓二

受審人
A 職名:三十八善孝丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士

損害
甲板員2人が行方不明

原因
揚縄作業中の安全措置不十分

主文

 本件乗組員行方不明は、揚縄作業中の安全措置が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成13年8月17日02時20分(日本標準時、以下同じ。)
 フィリピン諸島東方沖合

2 船舶の要目
船種船名 漁船三十八善孝丸
総トン数 19.97トン
登録長 14.94メートル
3.84メートル
深さ 1.44メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 603キロワット

3 事実の経過
 三十八善孝丸は、船体中央部に操舵室を設けたFRP製漁船で、平成11年11月末からアメリカ合衆国グアム島アプラ港を基地とし、フィリピン諸島東方沖合で1航海約30日のまぐろ延縄漁業に従事していたところ、A受審人及び日本人機関長ほかインドネシア人6人、フィリピン人2人が乗り組み、操業の目的で、船首1.8メートル船尾2.5メートルの喫水をもって、平成13年8月3日15時30分同港を発し、同月7日06時00分北緯11度50分東経134度50分の地点に至って操業を開始し、その後漁場を西方へ移動しながら操業を続けた。
 ところで、本船のまぐろ延縄漁は、一枚と呼ばれる長さ約1,000メートルの幹縄に、約42メートル間隔で釣針の付いた長さ約25メートルの枝縄をスナップフックで取り付け、一枚毎に浮子を付け、約120枚の幹縄を船尾から投縄する。そして、約3時間漂泊待機したあと、揚縄にかかり、前部甲板右舷側ブルワーク上にあるサイドローラを経て、その内側の同甲板上に備えたラインホーラを使用して幹縄を同舷側から船内に巻き上げる。その後スローコンベアに乗せ、操舵室後部の幹縄庫上に備えた幹縄巻取り機で幹縄庫に収めていくと同時に幹縄にぶら下がった状態の枝縄をスナップフック部で取り外し、枝縄巻上げ機で巻取ったあと枝縄箱に収める。その間、まぐろが掛かっているときには、枝縄をたぐり寄せて船首から船尾方へ約5.7メートルの右舷側ブルワークにある、長さ80センチメートル高さ50センチメートルの舷門を開放し、そこからまぐろを取り込むようにするもので、投縄に約6時間、揚縄に約12時間を要していた。
 同月16日07時50分A受審人は、北緯10度48分東経131度39分の地点で、8回目の操業を開始し、13時00分北緯10度28分東経131度30分の地点で、投縄を終え、同地点で漂泊待機したあと、自らは操舵室で操業全般の指揮を執り、15時30分外国人乗組員8人を前部甲板上の作業配置に就かせて揚縄にかかり、針路を真方位024度に定めて自動操舵とし、1.8ノットの対地速力で進行した。
 そのころ、A受審人は、沖ノ鳥島付近を北西進する台風11号の影響で、西風が強まり荒天となって波浪を左舷船尾方から受けて船体が動揺し、時々海水が前部甲板上に打ち上がる状況となり、大量の海水が同甲板上に打ち込んだ際には、乗組員が開放中の舷門付近から船外に排出される海水とともに押し流されるおそれがあったが、この程度の風波なら揚縄作業に支障はないものと思い、前部甲板上にライフラインを張って海中転落の防止を図ったり、乗組員に作業用救命胴衣を着用させたりするなどの揚縄作業中の安全措置を十分にとらないで、乗組員に同作業を行わせながら続航した。
 インドネシア人甲板員C及び同甲板員Eの2人は、1年余りの乗船経験があり、揚縄作業等は一通り心得ていたものの、上下雨合羽、雨靴及び軍手を着用しただけで、作業用救命胴衣を着用しないまま、翌17日01時30分ごろから前部甲板右舷側の枝縄巻上げ機付近で、枝縄を縦約50センチメートル横約35センチメートル高さ約35センチメートルのプラスチック製枝縄箱に整理して入れ、これを船尾の枝縄庫に収納する作業にあたり、02時20分わずか前枝縄箱を持って操舵室左横の通路に向かって歩いていたところ、突然左舷船尾方から大波を受けて右舷側に大傾斜し、右舷側ブルワークを越えて大量の海水が前部甲板上に打ち込み、次いで滞留した海水が一気に開放中の舷門付近から流出したため、02時20分北緯10度46分東経131度38分の地点において、同甲板員2人とも転倒して海水に押し流され、右舷側舷門付近から海中に転落した。
 当時、天候は曇で風力5の西風が吹き、付近海域には高さ約4メートルの波があった。
 A受審人は、船尾方の海面に浮いている転落者2人を認め、浮き玉等を海中に投下し、救助しようとしているうちに見失い、付近で操業中の僚船に依頼するとともにグアム島のアメリカ合衆国コーストガードにも依頼して4日間捜索にあたったが、C甲板員(1964年2月4日生)及びE甲板員(1979年6月15日生)が行方不明となった。

(原因)
 本件乗組員行方不明は、夜間、フィリピン諸島東方沖合において、まぐろ延縄漁業に従事して揚縄作業中、荒天となった際、安全措置が不十分で、突然大波が前部甲板上に打ち込み、同甲板上で作業中の乗組員が転倒して海水に押し流され、舷門付近から海中に転落したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、夜間、フィリピン諸島東方沖合において、まぐろ延縄漁業に従事して揚縄作業中、荒天となった場合、大量の海水が前部甲板上に打ち込んだ際には、乗組員が開放中の舷門付近から船外に排出される海水とともに押し流されるおそれがあったから、同甲板上にライフラインを張って海中転落の防止を図ったり、乗組員に作業用救命胴衣を着用させたりするなどの揚縄作業中の安全措置を十分にとるべき注意義務があった。しかるに、同人は、この程度の風波なら揚縄作業に支障はないものと思い、揚縄作業中の安全措置を十分にとらなかった職務上の過失により、突然大波が前部甲板上に打ち込み、枝縄箱を持って操舵室左横の通路に向かって歩いていたインドネシア人甲板員2人が転倒して海水に押し流され、舷門付近から海中に転落し、同甲板員2人を行方不明とさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって、主文のとおり裁決する。





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