(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成14年8月14日16時37分
高知県橘浦漁港
2 船舶の要目
船種船名 |
プレジャーボート第2美佐丸 |
総トン数 |
1.5トン |
全長 |
7.52メートル |
機関の種類 |
電気点火機関 |
出力 |
73キロワット |
3 事実の経過
第2美佐丸(以下「美佐丸」という。)は、和船型FRP製プレジャーボートで、A受審人が1人で乗り組み、同乗者Yほか2人を乗せ、船首0.2メートル船尾0.6メートルの喫水をもって、水上レジャーの目的で、平成14年8月14日13時00分高知県橘浦漁港の定係地を発し、付近の海域でゴムボートを曳航して遊走を始めた。
ところで、美佐丸は、船体後部に舵輪と、その左舷側に操縦レバーが備えられており、また、船尾中央部に3翼一体型で直径約33センチメートルの推進器翼を有する船外機1基が取り付けられ、同翼の中心位置が水面下約0.45メートルとなっていた。
14時ごろA受審人は、ゴムボートが破損したのでいったん帰港し、Y同乗者が持ち込んだ長さ1.6メートル幅0.4メートルのボードを載せて再出航し、同ボードに長さ11メートルの曳索を連結して船尾に係止し、ボードを曳航しながら遊走を再開した。
16時36分A受審人は、同乗者1人をボードに乗せ、自らは舵輪後方のいすに腰掛けて操船に当たり、橘浦漁港西方にある標高84.1メートルの三角点(以下「三角点」という。)から060度(真方位、以下同じ。)400メートルの地点において、針路を358度に定め、機関を全速力前進より少し遅い20.0ノットの対地速力にかけ、右舷側の養殖施設と左舷側の防波堤とをそれぞれ約30メートル離し、手動操舵により進行した。
定針したときA受審人は、Y同乗者が右舷前部の、他の同乗者が左舷中央部の舷縁にそれぞれ腰掛けているのを認めたが、しばらく遊走しているので、船体が傾斜しても大丈夫と思い、海中に転落しないよう、船底に腰を下ろして舷縁をつかませるなど、同乗者の安全に対する配慮を十分に行わず、左手で舵輪を操作し、右舷側から後方を振り返り、ボードを見ながら続航した。
16時37分少し前A受審人は、養殖施設をかわしたところで、旋回するため右舵をとり、続いて左舵をとったところ、転舵に伴って船体が傾斜し、16時37分三角点から028度750メートルの地点において、ほぼ原針路に戻ったとき、Y同乗者が右舷側の海中に転落して推進器翼に接触した。
当時、天候は晴で風はほとんどなく、潮候は上げ潮の初期であった。
A受審人は、推進器付近に接触音を聞き、機関を中立として前方を向いたところ、船内にY同乗者の姿がなく、左転しながら海面を捜すうち浮上してきた同人を認め、船内に収容して橘浦漁港に戻り、救急車で病院に搬送した。
その結果、Y同乗者(昭和56年8月7日生)は、左頸動脈損傷による失血死と診断された。
(原因)
本件同乗者死亡は、高知県橘浦漁港において、ボードを曳航しながら遊走する際、同乗者の安全に対する配慮が不十分で、転舵に伴って船体が傾斜し、舷縁に腰掛けていた同乗者が海中に転落して推進器翼に接触したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、高知県橘浦漁港において、ボードを曳航しながら遊走するにあたり、同乗者が舷縁に腰掛けているのを認めた場合、海中に転落しないよう、船底に腰を下ろして舷縁をつかませるなど、同乗者の安全に対する配慮を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、しばらく遊走しているので、船体が傾斜しても大丈夫と思い、同乗者の安全に対する配慮を十分に行わなかった職務上の過失により、転舵に伴って船体が傾斜し、同乗者が海中に転落して推進器翼に接触する事態を招き、左頸動脈損傷により失血死するに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の一級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
よって主文のとおり裁決する。