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平成14年神審第73号
件名

漁船第5昭与丸乗組員負傷事件

事件区分
死傷事件
言渡年月日
平成15年2月27日

審判庁区分
神戸地方海難審判庁(村松雅史、大本直宏、内山欽郎)

理事官
小寺俊秋

受審人
A 職名:第5昭与丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士

損害
甲板員が右大腿骨骨折

原因
曳網索のプロペラへの巻き込み防止措置不十分

主文

 本件乗組員負傷は、操業中、曳網を開始するにあたって機関を前進にかける際、曳網索のプロペラへの巻き込み防止措置が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成13年9月30日12時20分
 石川県金沢港西方沖合

2 船舶の要目
船種船名 漁船第5昭与丸
総トン数 6.99トン
登録長 11.85メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 496キロワット

3 事実の経過
(1) 第5昭与丸の構造等
 第5昭与丸(以下「昭与丸」という。)は、昭和56年8月に進水した、小型底びき網漁業に従事する一層甲板型のFRP製漁船で、甲板上のほぼ中央部に設けられた船橋楼は、船首側の機関室囲壁と船尾側の操舵室とに区分され、操舵室の後方が長さ約5メートルの船尾甲板になっていて、同甲板上には、曳網索の巻き取り用ロープリールが右舷側に1台、左舷側に前後2台設置されていたほか、両舷リール外側の船縁に、1辺約15センチメートル(以下「センチ」という。)高さ約1.8メートルの木製角材の係船用ビット(以下「たつ」という。)が約2メートルの間隔でそれぞれ2本、操舵室後部壁面から約60センチ後方の船尾甲板中央部に、1辺約25センチ高さ約1.6メートルの木製角材の曳網用ビット(以下「大たつ」という。)1本が取り付けられていた。また、プロペラは、大たつの船尾方で、両舷各2本のたつのうち、船尾側たつの船首方に位置していた。
(2) 漁法
 漁法は、長さ約50メートルの漁網に長さ約1,700メートルの2本の曳網索を取り付け、左回りで航走しながら同索及び漁網を繰り出すかけ回し式で、投網開始地点で曳網索の先端に取り付けた浮標樽を海上に投下して同索及び漁網を繰り出したのち、他方の曳網索を繰り出しながら浮標樽に向首して投網開始地点に戻り、両側の同索を直径32ミリメートル長さ約5メートルのコンパウンドロープ(以下「とったり」という。)とそれぞれ接続して、同樽を回収後、曳網したのち揚網するものであった。
(3) 曳網開始前の作業
 曳網開始前の作業は、甲板員1人が、右舷船尾の2本のたつの間で、曳網索の先端に付けた浮標樽をはずし、同索をとったりに接続し、たるみがあればたるみをとって、同時に浮標樽回収前の諸作業を行うものであった。
(4) 本件発生に至る経緯
 昭与丸は、A受審人及び甲板員Sが乗り組み、操業の目的で、船首0.4メートル船尾1.8メートルの喫水をもって、平成13年9月29日23時00分石川県金沢港を発し、翌30日00時30分同港北西方沖合14海里ばかりの漁場に至って操業を開始し、南方に移動しながら操業を繰り返した。
 A受審人は、12時00分ごろ金沢港西防波堤灯台から275度(真方位、以下同じ。)12.0海里の地点付近で、浮標樽を投入して5回目の投網を開始し、かけ回し後に同地点に戻り、S甲板員に、曳網開始前の作業を行わせた。
 12時20分少し前A受審人は、S甲板員が、右舷船尾の2本のたつの間で待機しているように見えたので、作業が終了し、曳網索のたるみもとったものと思い、曳網索のたるみをとったかどうかを同甲板員に確認するなど、同索のプロペラへの巻き込み防止措置を十分にとることなく、曳網を開始するために機関を前進にかけたところ、たるんでいた曳網索がプロペラに巻き込まれ、同索に接続されたとったりが船首方に急激に引っ張られたことにより、右舷船尾側のたつに船首方向への強い張力が掛かって、同たつが折れ、12時20分金沢港西防波堤灯台から275度12.0海里の地点において、S甲板員が倒れてきたたつに右大腿部を強打された。
 当時、天候は曇で風力3の北東風が吹き、波高は約0.5メートルであった。
 A受審人は、所属漁業協同組合に事故の発生を通報し、S甲板員の搬送を要請したが、来援した巡視艇への同甲板員の移乗が困難であったので、海上保安官の指示で曳網索を切り離し、漁具の回収を僚船に依頼して金沢港に帰港し、S甲板員を病院に搬送した。
 その結果、S甲板員は、4箇月の入院加療を要する右大腿骨骨折と診断された。

(原因)
 本件乗組員負傷は、金沢港西方沖合においてかけ回し式漁法で操業中、曳網を開始するにあたって機関を前進にかける際、曳網索のプロペラへの巻き込み防止措置が不十分で、同索がプロペラに巻き込まれ、曳網索に接続されたとったりが船首方に急激に引っ張られ、たつに船首方向への強い張力が掛かってたつが折れ、乗組員が倒れてきたたつに強打されたことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、金沢港西方沖合においてかけ回し式漁法で操業中、曳網を開始するにあたって機関を前進にかける際、曳網索がたるんでいるとプロペラに巻き込まれるおそれがあるから、同索がプロペラに巻き込まれないよう、曳網索のたるみをとったかどうかを甲板員に確認するなど、同索のプロペラへの巻き込み防止措置を十分にとるべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、甲板員が右舷船尾2本のたつの間で待機しているように見えたので、作業が終了し、曳網索のたるみもとったものと思い、曳網索のたるみをとったかどうかを同人に確認するなど、同索のプロペラへの巻き込み防止措置を十分にとらなかった職務上の過失により、たるんでいた曳網索がプロペラに巻き込まれ、同索に接続されたとったりが船首方に急激に引っ張られ、右舷船尾側のたつに船首方向への強い張力が掛かって、同たつが折れ、甲板員が倒れてきたたつに強打されて右大腿骨を骨折するに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。





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