日本財団 図書館




 海難審判庁裁決録 >  2003年度(平成15年) > 死傷事件一覧 >  事件





平成14年広審第115号
件名

プレジャーボートリップル エンド被引浮体搭乗者負傷事件

事件区分
死傷事件
言渡年月日
平成15年1月20日

審判庁区分
広島地方海難審判庁(竹内伸二、西林 眞、佐野映一)

理事官
黒田敏幸

受審人
A 職名:リップルエンド船長 海技免状:四級小型船舶操縦士

損害
搭乗者が腰椎及び左大腿部の骨折並びに左足裂傷

原因
安全運航に対する配慮不十分

主文

 本件被引浮体搭乗者負傷は、友人を乗せた浮体を高速力でえい航して遊走する際、安全運航に対する配慮が不十分で、被引浮体が錨泊中の水上オートバイに接触したことによって発生したものである。
 受審人Aの四級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成14年8月11日13時55分
 香川県高松市北方 大島西岸沖合

2 船舶の要目
船種船名 プレジャーボートリップルエンド
全長 6.82メートル
機関の種類 電気点火機関
出力 312キロワット

3 事実の経過
 リップル エンド(以下「リ号」という。)は、最高速力が40ノットを超えるFRP製プレジャーボートで、船体中央部右舷側に操縦席があり、主として人が乗ったウェイクボードを引いて遊走するマリンレジャーに使用され、そのため、船尾デッキにえい航用のロープを係止するビットと、操船者が前方を向いたままウェイクボードのえい航状況を監視できるよう操縦席前方の風防上端にバックミラーがそれぞれ設置されていた。
 A受審人は、岡山県岡山市内に住み、4年ほど前から休日にプレジャーボートを操船して主に屋島湾でウェイクボードのえい航を楽しんでいたが、ビスケットと称するドーナツ形のゴム製浮体(以下「ビスケット」という。)に知人を乗せ、これを長さ数十メートルのロープで引いて遊走した経験が延べ10回ほどあった。そして、平成14年8月11日休暇で高松市の実家に滞在していたとき、単独でリ号に乗り組み、マリンレジャーのため、同日11時ごろ屋島湾の香川県久通港を出航し、友人などが乗ったプレジャーボート4隻とともに、同港北方2.5海里の大島に向かい、同時15分ごろ同島西岸に到着した。
 A受審人は、友人らと砂浜にテントを設置して昼食をとり、その後それまでビスケットに乗ったことがない友人のMに滑走のスリルを味わってもらおうと考え、単独でリ号に乗船し、ライフジャケットを着用した同人をビスケットに乗せてえい航し、船首0.5メートル船尾0.7メートルの喫水をもって、13時40分大島南部にある海抜68メートルの山頂(以下「大島山頂」という。)から280度(真方位、以下同じ。)370メートルの砂浜を発して遊走を開始し、200メートルばかり沖合に存在する岩礁と砂浜との間で直進や旋回を繰り返した。
 ところで、ビスケットは、外径1.2メートル深さ0.3メートルのドーナツ形浮体で、底に防水カバーを張り、プレジャーボートの船尾ビットに係止された直径10ミリメートル長さ20メートルのロープによってえい航された。
 ビスケット搭乗者は、腰部をビスケットのほぼ中心に置いて両足先を外に出し、前方のプレジャーボートの方を向いて座り、左右の手でビスケット上面に固定された取っ手をつかんで身体を支え、プレジャーボートにえい航されながら海面を滑走し、直進時のスピード感や旋回時の遠心力で横滑りするときのスリルを楽しみ、ときどきビスケットから転落することもあったが、それも遊びの一部と考えられ、他船や障害物に接近して危険を感じたとき安全のためビスケットから飛び降りることがあった。また、プレジャーボートの操船者は、搭乗者が滑走中危険を感じても意思の伝達が困難で、特に旋回する際、他船や遊泳者などをかわしても、ビスケットがプレジャーボートの旋回圏の外方に振り出されるうえ、波浪による動揺や旋回中の遠心力などを受けて搭乗者が海中に転落し、他船や障害物と接触するおそれがあることから、これらの近くを遊走する際には、搭乗者の安全確保に十分配慮した運航が必要であった。
 A受審人は、ビスケットをえい航して旋回する際、減速しないで直進中とほぼ同じ速力で旋回するものの、初心者など慣れない人を乗せる際初めのうちは比較的小さい舵角で旋回し、しばらく遊走したあと舵角を大きくするなど搭乗者の様子を見て旋回運動を加減していたが、舵角に応じた旋回径を測定するとか、目測距離の誤差を確かめるなどして旋回時に必要な安全水域を確認しないまま、それまでの遊走経験から、船舶や障害物などから30ないし40メートル離せば、障害物の方に旋回してもビスケットが接触することはないと考えていた。
 そのころ、リ号の遊走水域には、航行中の船舶やプレジャーボートが存在しなかったものの、砂浜で友人らが飲食や水遊びなどをしており、発進した砂浜から10メートルほど沖の水深約1.2メートルのところに長さ2.64メートルの無人のFRP製水上オートバイSTX1が錨泊していたほか、同オートバイの南南西約30メートルと約50メートルの海岸に別の水上オートバイとプレジャーボートがそれぞれ停船していた。
 A受審人は、砂浜を発進したときSTX1のすぐ近くを通過して同水上オートバイが錨泊していることを知り、その後ときどき後方を見ながら操船し、リ号の航走波によってビスケットが動揺するものの、M搭乗者が転落しないで乗っている様子を見て、次第に速力を上げて遊走しているうち、13時53分ごろ砂浜から70メートルばかり沖合で右旋回したとき、M搭乗者が海中に落ちたので機関を中立にして停止し、間もなく同人が再びビスケットに乗り込み、通常の搭乗姿勢で乗っていることを確かめたあと、13時54分40秒大島山頂から271度450メートルの地点で東方の砂浜に向け発進したあと、急速に加速しながら左旋回して砂浜沿いに北上を始め、13時54分47秒同山頂から273度435メートルの地点で針路を010度に定め、機関を回転数毎分2,200の前進にかけ、22.0ノットの対地速力で進行した。
 13時54分51秒A受審人は、大島山頂から279度430メートルの、水際から55メートルばかり沖合の地点に達したとき、砂浜にいる友人らの前で右旋回することとしたが、そのまま旋回すれば右舷正横47メートルに錨泊中のSTX1に接近してビスケットが接触するおそれがあったが、目測で40メートルばかり離れているのでM搭乗者に危険はないと思い、旋回中に同人が転落するおそれのあることや目測距離の誤差などを勘案し、しばらくそのまま直進して同オートバイから十分に離れたところで旋回するなど安全運航に十分配慮することなく、操舵ハンドルを右に1回ほど回して旋回を開始した。
 13時54分56秒A受審人は、大島山頂から285度410メートルの地点に達し、原針路からほぼ90度旋回したとき、約75メートル南方の海岸に停船していたプレジャーボートが後進しているのを認め、その動向に留意して旋回を続けたところ、停止する様子がないのでさらに少し右舵をとりクラッチを中立にして旋回中、13時55分リ号が原速力のまま257度に向首したとき、大島山頂から280度380メートルの地点において、ビスケット及びM搭乗者がSTX1に接触し、同人がビスケットから転落した。
 当時、天候は晴で風はほとんどなく、潮候は下げ潮の初期であった。
 その結果、M搭乗者が骨盤、腰椎及び左大腿部の骨折並びに左足裂傷を負った。

(原因)
 本件被引浮体搭乗者負傷は、香川県大島西岸沖合において、友人を乗せたビスケットをえい航して高速力で遊走する際、安全運航に対する配慮が不十分で、錨泊中の水上オートバイの近くで高速力のまま旋回し、ビスケットが大きく振れて同オートバイに接触したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、香川県大島西岸沖合において、友人を乗せたビスケットをえい航して高速力で遊走する場合、高速力のまま錨泊中の水上オートバイの近くで旋回すると外方に大きく振れたビスケットから搭乗者が転落するなどして同オートバイと接触するおそれがあったから、目測距離の誤差を勘案し、同オートバイから十分に離れたところで旋回するなど安全運航に十分配慮すべき注意義務があった。しかし、同人は、同オートバイが目測で40メートルばかり離れているので危険はないと思い、同オートバイから十分に離れたところで旋回するなど安全運航に十分配慮しなかった職務上の過失により、大きく振れたビスケットが同オートバイに接触し、搭乗者に骨盤、腰椎及び左大腿部の骨折並びに左足裂傷を負わせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の四級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。

 よって主文のとおり裁決する。





日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION