(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成14年2月8日18時30分
山口県宇部港沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
油送船第三 八宝丸 |
総トン数 |
999トン |
全長 |
84.00メートル |
機関の種類 |
過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関 |
出力 |
1,765キロワット |
回転数 |
毎分260 |
3 事実の経過
第三 八宝丸は、平成3年7月に進水した鋼製油送船で、主機として、阪神内燃機工業株式会社製の6EL35型ディーゼル機関を装備し、船橋に主機の遠隔操縦装置を備えていた。
主機は、燃料としてスタンバイ中はA重油が、航海中はC重油が使用され、揚げ荷中は貨油ポンプの原動機として運転されており、年間の運転時間が約5,000時間で、各シリンダには船首側を1番として順番号が付されていた。
主機の吸気弁及び排気弁は、弁箱式となっていてシリンダヘッドに各1個が装備され、シリンダヘッドと弁箱との当たり面には厚さ1.5ミリメートルの鋼製ガスケットを挿入し、弁箱1個につき外径30ミリメートルの植え込みボルト2本と、同ボルト用ナットで締め付けるようになっており、第三 八宝丸では予備弁箱を3個ずつ用意して、運転時間約4,500時間ごとに取り替えのうえ整備していた。
各弁箱締付けナットは、主機取扱説明書では肌付きからの増し締め角度が、吸気弁箱60度、排気弁箱30度と記載されており、その場合の締付けトルクはそれぞれ95キログラム・メートル及び65キログラム・メートルに相当し、第三 八宝丸では必ずトルクレンチで締め付けることとしており、機関室の監視室内に各締付けトルクを記載した注意書が掲載してあった。
A受審人は、平成13年2月16日機関長として乗り組み、第三 八宝丸の整備基準に従って同月24日1、3及び5番シリンダ、翌3月25日ごろ2、4及び6番シリンダの各吸気弁箱及び排気弁箱をそれぞれ整備済みのものと取り替え、締付けにあたっては前示注意書どおりのトルクで締め付け、その後支障なく主機の運転を続けて翌14年1月6日休暇下船した。
第三 八宝丸は、いつしか2番シリンダ吸気弁箱締付けナットが緩んだことから、同月10日シリンダヘッドと弁箱との間に生じた隙間から排気が吹き抜けるとともに、シリンダヘッドが弁箱で叩かれる状態となって亀裂が生じたが、同シリンダのシリンダヘッドを取り替えたのみで、他シリンダの各弁箱締付けナットの緩みの有無が点検されず、翌2月初めには4番シリンダにおいても、排気弁箱締付けナットが緩んで排気の吹き抜けが生じた。
A受審人は、休暇が終了して同月6日佐世保港において錨泊中の第三 八宝丸に乗船し、翌7日着岸のための港内シフトの際、前月休暇下船する前にはなかった主機の異音に気付き、さらに、同日同港出港の際、回転数毎分約148(以下、回転数は毎分のものとする。)の微速力前進時に同異音に気付いたが、回転数約185の半速力以上で同異音が消えたことから、全速力時の回転数を通常の220から210に下げて大分港に向かった。
こうして第三 八宝丸は、大分港にて積み荷後、A受審人ほか7人が乗り組み、ガソリン、灯油及び軽油合計2,600リットルを積載し、船首4.15メートル船尾5.30メートルの喫水で、平成14年2月8日14時00分同港を発し、佐世保港に向け、揚げ荷時間に間に合わせるため回転数約230で山口県宇部港沖合を航行中、4番シリンダのシリンダヘッドと排気弁箱との隙間から吹き抜ける排気により、18時30分宇部港西防波堤灯台から真方位241度4.9海里の地点において、主機が異音を発した。
当時、天候は晴で風力2の東風が吹き、海上は穏やかであった。
機関室当直中のA受審人は、回転数約210まで下げても異音が続くので主機を停止して点検したところ、4番シリンダ排気弁に異状を認めたので、同弁箱を抜き出して吹き抜けた痕跡とシリンダヘッドの亀裂を確認し、予備シリンダヘッドがなかったことから、弁箱との当たり面を摺り合わせのうえ、揚げ荷時間に間に合わせるため回転数約230で続航し、佐世保港にてシリンダヘッドを新替えした。
(原因)
本件機関損傷は、主機吸気弁箱締付けナットの緩みにより生じた、シリンダヘッドの亀裂を認めて同シリンダを取り替えた際、同時期に整備が施行された他シリンダの各弁箱締付けナットの点検が不十分で、緩みが生じていた排気弁箱締付けナットが締め付けられないまま主機の運転が続けられたことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人の所為は、本件発生の原因とならない。
よって主文のとおり裁決する。