(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成14年5月12日02時30分
壱岐水道
2 船舶の要目
船種船名 |
貨物船うりずん |
総トン数 |
1,596トン |
登録長 |
103.81メートル |
機関の種類 |
過給機付4サイクル12シリンダ・V型ディーゼル機関 |
出力 |
5,957キロワット |
回転数 |
毎分502 |
3 事実の経過
うりずんは、平成8年7月に進水した、大阪、博多及び那覇各港間に定期運航し、コンテナ、車両、雑貨等の輸送に従事する鋼製貨物船で、主機として、日本鋼管株式会社が製造した12PC2-6V型機関を装備し、船橋に主機の遠隔操縦装置、監視装置、警報装置などを備えていた。
主機は、左舷列をA列、右舷列をB列と呼び、各列に三菱重工株式会社製のMET42SD型排気タービン過給機を備え、燃料としてスタンバイ中はA重油が、航海中はC重油が使用され、年間の運転時間が約6,500時間で、自動負荷制御装置を装備していた。
過給機は、ロータ軸がブロワ側及びタービン側で平軸受により支持され、ロータ軸の推力はスラストカラー両側の推力軸受で受けるようになっており、各軸受は主機潤滑油主管から分岐した潤滑油で潤滑されるようになっていて、過給機出口潤滑油温度が摂氏85度以上になると、警報装置が作動するようになっていた。
過給機の推力軸受は、すべり面がホワイトメタルで、テーパランド形と称してテーパ部とフラット部の長さの比が新品で4対1となっており、経年使用による摩耗でテーパ部が短くなると油膜が充分に形成されなくなるので、取替え基準として、潤滑油が主機と共通で燃料がC重油の機関については、4,000ないし5,000時間ごとに点検のうえ、同比が2対1ないし1対1になったとき、あるいは、定期点検が実施されていないときには、15,000時間ごととするよう取扱説明書に記載されていた。
A受審人は、うりずん艤装時からの機関長で、就航後、主機潤滑油の性状管理にあたっては、年間3回性状分析を依頼してその都度継続使用可能である旨の結果を得ていた。しかし、過給機推力軸受の整備にあたっては、平成10年8月中間検査時運転時間約18,000時間で新替えした後定期点検を実施せず、平成13年5月前回取替えからの運転時間が約11,000時間で過給機を開放した際、次回開放までの運転時間を考慮すると取り替えるべきであったが取り替えず、摩耗量も点検しなかった。また、平成13年9月A列過給機から異音が発生して同機を開放し、推力軸受の異状摩耗を認めて新替えしたとき、B列過給機推力軸受も同様の懸念が予想されたが、B列過給機の推力軸受を点検することなく、同推力軸受の摩耗が進行していることに気付かないまま主機の運転を続けた。
うりずんは、A受審人ほか10人が乗り組み、貨物950トンを積載し、船首3.98メートル船尾5.38メートルの喫水で、平成14年5月12日00時45分博多港を発し、主機回転数毎分約480として那覇港に向かって航海中、前回推力軸受取替えからの主機運転時間が約18,000時間となっていたところ、B列過給機ブロワ側推力軸受の摩耗がさらに進行して油膜の厚さが不十分となり、潤滑油温度が上昇して同日02時20分警報が作動した。
A受審人は、当直機関士からの報告を受けて主機の負荷を下げるように指示してから機関室に赴いたが、10分を経過してもB列過給機潤滑油出口温度が低下しない状況であったので、至急主機を停止すべきところ、さらに様子を見ることとして主機の回転数を下げて運転を続けた。
こうして、うりずんは、平成14年5月12日02時30分烏帽子島灯台から真方位272度2.9海里の地点において、ブロワ側推力軸受のホワイトメタルが消滅した主機B列過給機の回転部分とケーシングとが接触して大音響を発した。
当時、天候は曇で風力2の北東風が吹き、海上は穏やかであった。
A受審人は、直ちに主機を停止したが那覇港への続航を断念し、微速運転で博多港に引き返した。
損傷の結果、博多港にてB列過給機が新替えされた。
(原因)
本件機関損傷は、A列過給機から異音が発生して開放し、同機推力軸受の当りが悪いことを認めた際、B列過給機推力軸受の点検が不十分で、摩耗が進行していた同軸受が取り替えられずに運転が続けられたことと、軸受の摩耗により過給機潤滑油出口温度上昇警報が作動し、主機負荷を下げても同温度が下がらなかった際、主機の取扱いが不適切で、主機が停止されずに運転が続けられたこととによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、A列過給機から異音が発生して開放し、同機推力軸受の当りが悪いことを認めた場合、B列過給機推力軸受を点検すべき注意義務があった。しかしながら、同人は、B列過給機推力軸受を点検しなかった職務上の過失により、摩耗が進行していた同軸受を取り替えずに主機の運転を続けて同機を損傷させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して、同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。