(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成13年4月2日18時10分
長崎県壱岐島北方沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船第三十五海幸丸 |
総トン数 |
228トン |
全長 |
49.95メートル |
機関の種類 |
過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関 |
出力 |
860キロワット |
回転数 |
毎分560 |
3 事実の経過
第三十五海幸丸は、平成元年2月に進水した、運搬船として大中型まき網漁業に従事する鋼製漁船で、同4年6月主機がヤンマーディーゼル株式会社製のZ280-ET2型ディーゼル機関に換装され、その遠隔操縦装置が船橋に備えられていた。
主機は、燃料としてA重油が使用され、各シリンダには船首側を1番として順番号が付されていた。
主機の潤滑油は、台板底部の油溜りに約300リットルとサンプタンクに約2,000リットルとを保有し、直結駆動の潤滑油ポンプによって主機各部を潤滑及び冷却して循環するようになっていた。
主機のピストンは、鋳鉄組合せ形で、主軸受及び連接棒を経由してピストン内側の冷却室に供給された潤滑油によって冷却されるようになっており、主機停止後冷却室にとどまった潤滑油がピストンの余熱で炭化して付着・堆積することのないよう、電動の補助潤滑油ポンプを約20分間運転して冷機するよう取扱説明書に記載されていたが、第三十五海幸丸においては、電動の補助冷却清水ポンプ及び冷却海水ポンプを約20分間運転して冷機し、2年ごとの中間検査時に主機の開放整備、さらに、4年ごとの定期検査時には全ピストンの分解整備を行うこと及び主機の月間運転時間が約500時間のところ、毎年潤滑油の全量を新替えすることで、支障なく主機が運転されていた。
A受審人は、平成3年4月一等機関士として乗り組み、その後機関長と一等機関士とを繰り返し、同6年7月から機関長職を執っており、主機の整備や、停止後の冷機については従来通りの方法を踏襲していたものの、同12年5月定期検査で入渠して潤滑油全量を取り替え、ピストンを分解整備した際、ピストン冷却室を点検することなく、全シリンダともピストン冷却室に潤滑油の炭化物が堆積していることに気付かないまま復旧し、その後の運転を続けた。
こうして第三十五海幸丸は、A受審人ほか9人が乗り組み、平成13年4月2日14時55分福岡県博多漁港を発し、壱岐島北方沖合の漁場に向け主機回転数を毎分約560として航行中、18時10分沖ノ島灯台から真方位235度11.6海里の地点において、炭化物の堆積により冷却が阻害された3番シリンダのピストンが過熱膨張して焼き付き、ピストンが破損して主機が異音を発した。
当時、天候は晴で風力5の南西風が吹き、海上はかなり波があった。
損傷の結果、第三十五海幸丸は航行不能となり、僚船にえい航されて帰港し、のち上記部品の他に損傷が認められたクランク軸、シリンダヘッド、シリンダライナ、連接棒、過給機ロータ軸などが新替えのうえ修理された。
(原因)
本件機関損傷は、ピストンを分解整備する際、ピストン冷却室の点検が不十分で、ピストン冷却室に堆積した潤滑油の炭化物が取り除かれないまま主機の運転が続けられ、ピストンの冷却が阻害されたことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、ピストンを分解整備する場合、ピストン冷却室を点検すべき注意義務があった。ところが、同受審人は、ピストン冷却室を点検しなかった職務上の過失により、ピストン冷却室に潤滑油の炭化物が堆積していることに気付かないまま主機の運転を続けてピストンの冷却不足を招き、ピストン、シリンダライナ、クランク軸、シリンダヘッド、連接棒、過給機ロータ軸などを損傷させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。