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平成14年横審第60号
件名

漁船第三十五白鳳丸機関損傷事件

事件区分
機関損傷事件
言渡年月日
平成15年3月25日

審判庁区分
横浜地方海難審判庁(花原敏朗、森田秀彦、黒岩 貢)

理事官
相田尚武

受審人
A 職名:第三十五白鳳丸機関長 海技免状:五級海技士(機関)(機関限定)

損害
電気回路の絶縁が著しく低下主配電盤新替

原因
海水管系統の点検不十分

主文

 本件機関損傷は、海水管系統の点検が不十分で、主機空気冷却器冷却海水入口管に取り付けられていた防食亜鉛取付プラグが主機運転中に脱落し、飛散した海水が主配電盤に降りかかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成13年6月27日04時30分
 三重県神前湾

2 船舶の要目
船種船名 漁船第三十五白鳳丸
総トン数 64トン
登録長 24.00メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 345キロワット
回転数 毎分850

3 事実の経過
 第三十五白鳳丸(以下「白鳳丸」という。)は、昭和57年11月に進水し、まき網漁業に運搬船として従事するFRP製漁船で、機関室が船体中央部からやや後方の上甲板下に配置されていた。
 機関室は、上下2段に分かれ、下段には、中央部に主機が、主機を挟んで右舷側に補機駆動発電機が、左舷側に主配電盤などが、上段には、蓄電池、主機警報盤、燃料油サービスタンク、潤滑油タンク及び冷却清水膨張タンクなどがそれぞれ据え付けられていた。また、下段には、しま鋼板の敷板が敷設され、同板には、その下方にある弁類の操作に便利なように、弁類の直上にハンドホールが開けられていて、同ホールには同じしま鋼板で作られた、手で容易に持ち上げて取り外すことができる蓋(ふた)が嵌め込まれて(はめこまれて)いた。
 主機は、株式会社新潟鉄工所製造の6MG18CX型と呼称するディーゼル機関で、各シリンダに船首側を1番として6番までの順番号が付され、6番シリンダ船尾側架構上には、右舷側に過給機を、左舷側に空気冷却器をそれぞれ装備し、燃料油としてA重油が使用され、操舵室から遠隔操作ができるようになっていた。また、船首側にある動力取出軸及び増速機を介し、電圧225ボルト容量50キロボルトアンペアの三相交流発電機を駆動するようになっていた。
 補機駆動発電機は、電圧225ボルト容量60キロボルトアンペアの三相交流発電機で、操業中の船内電源として、専ら同機が使用されていた。
 主配電盤は、垂直自立型で、発電機盤及び集合始動器盤が組み込まれた給電盤並びに蓄電池用充放電盤などが組み込まれた給電盤から構成され、発電機盤には、気中遮断器及び電圧計などが、給電盤には、ノーヒューズブレーカー、押ボタンスイッチ、表示灯及び電流計などがそれぞれ組み込まれていた。
 主機冷却海水系統は、海水吸入弁からこし器を経て主機直結冷却海水ポンプで吸引加圧した海水が、空気冷却器、潤滑油冷却器及び清水冷却器を順次冷却して船外に排出されるほか、一部が分岐して逆転減速機用及び増速機用各潤滑油冷却器並びに船尾管などへも供給されていた。また、同ポンプ出口には、雑用水ポンプから海水を供給することができるような応急配管が接続されていた。
 ところで、白鳳丸では、腐食で破孔が生じた海水管を修理するとき、以後の腐食防止対策として防食亜鉛取付座を新設し、3箇月ないし4箇月ごとに同亜鉛を取り替えるようにしていた。そして、主配電盤前の敷板の下方には、船首方から船尾方に向かって配管用炭素鋼鋼管製の呼び径50Aの主機空気冷却器用冷却海水入口管が敷設されていたが、主配電盤と約130センチメートル隔てた空気冷却器との間の敷板の下方に、ねじの呼びが4分の3の管用(くだよう)テーパねじが切られた防食亜鉛取付座が設けられており、同亜鉛が装着された黄銅製の防食亜鉛取付プラグがねじ込まれていた。
 白鳳丸は、三重県奈屋浦(なやうら)漁港を基地に、同県神前湾(かみざきわん)沖合を漁場とし、19時ごろに出航して翌朝6時ごろに帰航する航海で周年操業しており、2年ごとに入渠して船体及び機関の整備を行っていた。
 白鳳丸は、平成13年5月初旬に主機空気冷却器用冷却海水入口管の防食亜鉛を船内作業で新替えしたものの、防食亜鉛取付プラグの締付けが甘かったかして、その後主機運転中の振動などで同プラグが緩み始め、防食亜鉛取付座から海水がわずかに滲み出す(にじみだす)状況になっていた。
 A受審人は、同年6月5日に機関長として乗り組み、機関の運転及び保守管理に当たり、航海中機関室を無人としていたことから、適宜機関室の巡視を行い、各機器の状況把握に努めた。
 白鳳丸は、その後漁獲量が芳しくなく、同月14日から20日にかけての間、休漁することとし、その間に補機の更新工事などが施工された。
 A受審人は、操業が再開され、再び機関室の巡視を行うようになったが、各機器の運転に支障がなかったことから、同室の状態が良好に維持されており、腐食破孔による海水管からの漏水などはすぐには生じないものと思い、乗船後、早期に同室敷板を外し、その下方に敷設された海水管からの漏水の有無を目視点検するなど、海水管系統を十分に点検することなく、防食亜鉛取付プラグが緩み、防食亜鉛取付座から海水が漏洩(ろうえい)する状況となっていたことに気付かず、操業を続けていた。
 こうして、白鳳丸は、A受審人ほか2人が乗り組み、操業の目的で、同月26日19時00分奈屋浦漁港を発し、同漁港沖合の漁場にて操業したのち、翌朝僚船とともに帰途につき、主機を微速力前進にかけて航行中、防食亜鉛取付プラグの緩みが進行して脱落し、防食亜鉛取付座から海水が噴出するとともに、同取付座から約40センチメートル左舷側に寄った位置で、直径約20センチメートルのハンドホールの蓋が水圧によってわずかに押し上げられ、そのすきまから海水が飛散して主配電盤のノーヒューズブレーカーなどに降りかかり、同盤の内部に浸入して電路が短絡し、同月27日04時30分奈屋浦中ノ島灯台から真方位188度1.3海里の地点において、主配電盤が焼損し、船内電源が喪失した。
 当時、天候は晴で風はほとんどなく、海上は穏やかであった。
 A受審人は、操舵室で仮眠中、同室で当直中の甲板員から異常を知らされて機関室に赴いたものの、白煙と異臭に包まれて中に入ることができず、船長が主機を操舵室で非常停止していたので、機関室入口近くにあった補機用燃料油入口弁を閉鎖して補機停止の措置をとった。
 白鳳丸は、船内電源が喪失したまま復旧できず、主機及び補機の運転が再開できないことから、自力航行を断念し、来援した僚船により奈屋浦漁港に引き付けられ、のち主配電盤などを精査したところ、同盤内部の電気回路の絶縁が著しく低下して修理が困難であることが判明し、同盤が新替えされた。

(原因)
 本件機関損傷は、機関の運転管理に当たる際、海水管系統の点検が不十分で、機関室敷板下方に敷設された主機空気冷却器冷却海水入口管に取り付けられていた防食亜鉛取付プラグが主機運転中に脱落し、飛散した海水が主配電盤に降りかかり、同盤内で電路が短絡したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、機関の運転管理に当たる場合、機関室内の海水管系統からの漏水の有無が把握できるよう、乗船後、早期に機関室敷板を外し、その下方に敷設された海水管からの漏水の有無を目視点検するなど、海水管系統を十分に点検すべき注意義務があった。しかるに、同人は、機関室の巡視を行い、各機器の運転に支障がなかったことから、同室の状態が良好に維持されており、腐食破孔による海水管からの漏水などはすぐには生じないものと思い、海水管系統を十分に点検しなかった職務上の過失により、機関室敷板下方に敷設された主機空気冷却器冷却海水入口管に取り付けられていた防食亜鉛取付プラグが緩み、海水が漏洩していたことに気付かず、主機の運転を続けるうちに同プラグが脱落し、飛散した海水が主配電盤に降りかかる事態を招き、同盤内で電路が短絡して同盤を焼損させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。





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