(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成13年12月12日20時55分
青森県津軽半島北東方沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
漁業試験兼調査船青鵬丸 |
総トン数 |
65トン |
全長 |
30.80メートル |
機関の種類 |
過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関 |
出力 |
735キロワット |
回転数 |
毎分1,000 |
3 事実の経過
青鵬丸は、平成11年2月に進水した鋼製の漁業試験兼調査船で、主機として、株式会社新潟鐵工所が製造した6MG19HXと称する清水冷却方式のディーゼル機関を備え、各シリンダには船尾側を1番とする順番号を付し、シリンダヘッドに吸排気弁各2弁をそれぞれ配置しており、推進器として可変ピッチプロペラを装備していた。
主機の空気冷却器は、冷却海水の通る熱交換器と、冷却清水出口集合管から導かれた冷却清水の通る熱交換器とで構成されており、給気温度は、冷却海水入口の手動三方弁を操作して調整するようになっていたが、低負荷時には給気の過冷却を防止するため、ガバナの負荷量を検出して冷却清水入口の自動三方弁により自動的に通水する仕組みになっていた。
また、空気冷却器の給気出口管には温度計が装着されており、同冷却器の表面に、給気温度を40度(摂氏、以下同じ。)ないし60度の適正値に保つよう明示した注意銘板が貼り付けられていた。
A受審人は、平成12年4月一等機関士として青鵬丸に乗り組み、翌13年4月機関長に昇職して機関の運転管理に当たり、青森県鰺ヶ沢港を基地として、漁業資源調査などの目的で日中のみ運航を続けていたところ、主機が低負荷で運転されることが多く、給気温度が25度付近まで低下することがあるのを認めていたが、給気温度が低くても大事に至ることはあるまいと思い、空気冷却器の冷却海水の流量を調整するなどして、給気温度の管理を十分に行わず、手動三方弁を全開としていた。
そこで、過給機により圧縮・高温化された給気は、空気冷却器で過冷却状態となって多量のドレンが発生し、給気とともにシリンダ内に送り込まれることとなり、そのため吸気弁は、燃焼ガスと給気とに交互に曝される(さらされる)ところへ、更にドレンの付着により表面温度が低下することから大きな熱応力を繰り返し受けるとともに、未燃焼ガス中の硫黄成分がドレンの介在で硫酸化して腐食が進行し、6番シリンダ給気入口側の右舷側吸気弁の弁傘部に亀裂を生じ始めた。
青鵬丸は、同13年11月20日から青森港に所在する造船所において新造後初めての中間検査工事が行われたが、主機の運転時間が就航以来2,200時間と少なかったことから主機を開放せずに同工事を終え、基地への回航目的で、A受審人ほか9人が乗り組み、船首2.5メートル船尾3.5メートルの喫水をもって、翌12月12日19時00分青森港を発し、鰺ヶ沢港に向かった。
青鵬丸は、主機を回転数毎分900にかけ、翼角を17度の全速力前進として航行中、6番シリンダ右舷側吸気弁の弁傘部の亀裂が進展して欠損し始め、圧縮空気圧力低下のため燃焼不良となって排気温度が上昇し、20時30分これに気付いた当直中のA受審人が、同シリンダの燃料噴射ポンプのラック調整を行って続航中、過給機へ欠損片が進入してタービンブレードが損傷し、ロータ軸が振れ回って、20時55分平舘灯台から真方位035度1.9海里の地点において、異音を発した。
当時、天候は曇で風力2の西北西風が吹き、海上は小波だっていた。
A受審人は、主機を停止したのちシリンダヘッドカバーを開放して点検したところ、6番シリンダ右舷側排気弁の固着を発見し、また、過給機の損傷も予想されたことから、船内での修理は不能と判断して救助を求め、青鵬丸は、来援した僚船に引かれて青森港沖に漂泊したのち、引船によって同港に引き付けられた。
主機は、修理業者が開放精査したところ、前示損傷のほか6番シリンダのピストン頂部及びシリンダヘッド触火面に打痕、全シリンダの吸排気弁に腐食がそれぞれ認められ、のち6番シリンダのピストン及びシリンダヘッド、吸排気弁全数、過給機ロータ軸等が新替えされた。
(原因)
本件機関損傷は、主機給気の温度管理が不十分で、給気が過冷却となって、ドレンが多量にシリンダ内に送り込まれ、吸気弁の熱疲労と腐食が進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、主機給気の温度低下を認めた場合、ドレンの発生を抑止するよう、空気冷却器の冷却海水の流量を調整するなどして、給気の温度管理を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、給気温度が低くても大事に至ることはあるまいと思い、給気の温度管理を十分に行わなかった職務上の過失により、給気が過冷却となって、多量に発生したドレンがシリンダ内に送り込まれ、吸気弁の熱疲労と腐食が進行して同弁の欠損を招き、ピストン、シリンダヘッド、過給機ロータ軸等を損傷させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して、同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。