日本財団 図書館




 海難審判庁裁決録 >  2003年度(平成15年) > 機関損傷事件一覧 >  事件





平成14年仙審第57号
件名

漁業取締船しんゆう機関損傷事件

事件区分
機関損傷事件
言渡年月日
平成15年3月13日

審判庁区分
仙台地方海難審判庁(大山繁樹、亀井龍雄、上中拓治)

理事官
岸 良彬

指定海難関係人
Sマリンディーゼル株式会社 業種名:機関製造業

損害
2番及び5番シリンダのピストンスカートピンボス部に亀裂

原因
主機ピストン油穴面取り部の仕上げ精度の点検指示不十分

主文

 本件機関損傷は、機関製造業者が機関整備業者に対して、主機ピストンピン油穴面取り部の仕上げ精度の点検指示を十分に行わなかったことによって発生したものである。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成13年9月2日15時50分
 岩手県久慈港北東方沖合

2 船舶の要目
船種船名 漁業取締船しんゆう
総トン数 471トン
全長 57.53メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 1,471キロワット
回転数 毎分330

3 事実の経過
 しんゆうは、平成5年1月に進水した鋼製漁業取締船で、主機として、指定海難関係人Sマリンディーゼル株式会社(以下「Sマリンディーゼル」という。)が平成4年12月に製造したS32RD型と呼称するディーゼル機関を装備し、各シリンダには船首側を1番とする順番号が付されていた。
 Sマリンディーゼルは、昭和52年12月Sディーゼル株式会社の業務を引き継いで発足した、従業員18人の機関製造会社で、機関の組立販売を主業務とし、役員5名中、代表取締役社長Dを含めて4名は、静岡県焼津市所在の空気圧縮機、機関部品等の製造を主業務とする株式会社H鉄工所(以下「H鉄工所」という。)の役員が兼務し、営業部長がSディーゼル株式会社生え抜きの役員で、Sマリンディーゼルの販売及び技術部門を担当していた。
 しんゆう搭載の主機は、Sマリンディーゼルが組立販売したS32RD型ディーゼル機関の第1号機で、Sマリンディーゼルは、同機を組立販売するに当たって、H鉄工所が製造したピストン、クランク軸等の主要部品を使用していたが、それらの部品には、同鉄工所が製造後検査したことを示す証書が添付されていた。
 主機のピストンは、組立式ピストンで、ピストンスカートにはH鉄工所が製造した浮動式ピストンピンが組み込まれ、同ピン両端のピンボス部には、ピンの抜けだしを防ぐための止め輪が装着されていた。
 また、ピストンピンは、外径130ミリメートル(以下「ミリ」という。)内径30ミリ長さ275ミリのニッケルクロム鋼(材料記号SNC415)製中空ピンで、中央のほか両端から29.5ミリの各位置に径10ミリの油穴が半径方向に90度間隔で貫通して設けられ、これらの油穴と中空部とが油路となっていた。そして、連接棒小端部から供給された潤滑油は、ピストンピン表面の潤滑を行うほか、同小端部先端のノズルからピストンクラウン内面に噴出してピストンを冷却するようになっていた。
 ところで、H鉄工所は、ピストンピンを製造する際、中空部内面の各油穴の面取り加工を、同ピン表面の油穴からホーニング治具を挿入して行っていたが、滑らかで精度の高い研削ができないことがあり、平成5年12月、S32RD型ディーゼル機関と同一のピストンピンを購入したプラント建設会社から、同ピン中空部内面の中央油穴面取り部が、製作図面で指定された半径3ミリの滑らかな円弧状仕上げになっておらず、段付きを生じていて、これらの箇所に応力集中を招くおそれがある旨を指摘された。
 そこで、H鉄工所は、これまでのホーニング治具に変えて、新しい面取り治具で指摘されたピストンピンの面取り部を研削し直すとともに、Sマリンディーゼルに対して、プラント建設会社から指摘された内容のこと、しんゆうのピストンピンも油穴の面取り部の点検が必要であることなどを連絡した。
 ところが、Sマリンディーゼルは、面取りの重要性を十分に認識していなかったので、しんゆうの船主から主機整備などの依頼を受けていた宮城県気仙沼市所在の機関整備業者に対し、具体的にピストンピン中空部内面の油穴面取り部の仕上げが粗く、段付きを生じていることがある旨の情報を流すなどして、面取り部の仕上げ精度の点検指示を十分に行わず、ピストンピンを点検するとき注意するようにと電話を入れただけだった。
 このため機関整備業者は、主機を開放整備したとき、ピストンピン表面をカラーチェックしたのみであったので、2番及び5番シリンダのピストンピン中空部内面の中央油穴面取り部に、段付きが存在していることに気付かなかった。
 このような状況の下で、しんゆうは、気仙沼港を基地として、三陸沖合200海里以内の漁業取締の航海に年間約2,000時間従事していたところ、主機ピストンピンがシリンダ内の爆発力を繰り返し受けて、前示の各ピストンピン中央油穴の面取り部に存在していた段付き箇所に曲げ応力が集中し、いつしか同箇所を起点としてピン長さ方向に対して直角に亀裂(きれつ)が生じ、進展し始めた。
 こうして、しんゆうは、機関長Cほか11人が乗り組み、水産庁の漁業監督官1人を乗せ、漁業取締業務に従事する目的で、船首2.80メートル船尾5.00メートルの喫水をもって、平成13年8月31日15時00分気仙沼港を発して三陸海域に向い、15時35分宮城県唐桑埼沖合に至って巡視を開始した。C機関長は、1箇月前から本船に乗り組み、航海中、一等機関士、操機長等とともに4時間当直制をとって機関の運転管理に従事していた。
 越えて9月2日しんゆうは、主機を回転数毎分315にかけ、全速力前進で巡視しながら北上中、主機2番及び5番シリンダの各ピストンピンが、いずれも中央油穴沿いに折れ、止め輪が外れてピストンピンが抜けだし、同ピン端面とシリンダライナとが接触して金属粉が発生し始め、潤滑油こし器が目詰まりを起こして、同日15時50分久慈牛島灯台から真方位038度11海里の地点において、機関室当直中の操機長が、主機潤滑油圧力の低下を認めた。
 当時、天候は曇で風力2の南風が吹き、海上は穏やかであった。
 C機関長は、自室で休息中、操機長から主機潤滑油圧力低下の報告を受け、潤滑油こし器の開放掃除を行ったところ、エレメントに金属粉の付着を認め、その発生箇所の調査に努めたが判明せず、監視を強化しながら運航を続けたが、そのうち同こし器の目詰まりの周期が短くなってきたので、船長、Sマリンディーゼル等と協議し、9月5日夕刻気仙沼港に入港した。
 主機は、待機中の機関整備業者によって直ちに開放調査が行われ、その結果、前示損傷のほか2番及び5番シリンダのピストンスカートピンボス部に亀裂が認められ、ピストンスカート及びシリンダライナ各2個並びに全数のピストンピンが新替えされた。
 Sマリンディーゼルは、本件後、面取りの重要性を認識するとともに、機関整備業者に対して情報を的確に流すように努め、かつ、組立前の部品に対しては一部検査を実施するようにした。

(原因)
 本件機関損傷は、機関製造業者が、ピストンピンの製造業者から同ピンの油穴面取り部の仕上げに難点があり、点検する必要がある旨の連絡を受けた際、機関整備業者に対して、同油穴面取り部の仕上げ精度の点検指示が不十分で、主機運転中、同油穴面取り部に存在していた段付き箇所に繰り返し曲げ応力が集中し、材料が疲労したことによって発生したものである。

(指定海難関係人の所為)
 Sマリンディーゼルが、ピストンピンの製造業者から同ピン油穴の面取り部の仕上げに難点があり、点検する必要がある旨の連絡を受けた際、機関整備業者に対して、具体的にピストンピン中空部内面の油穴面取り部の仕上げが粗く、段付きを生じていることがある旨の情報を流すなどして、面取り部の仕上げ精度の点検指示を十分に行わなかったことは、本件発生の原因となる。
 Sマリンディーゼルに対しては、本件後、面取りの重要性を認識するとともに、機関修理業者に対して情報を的確に流すように努め、かつ、組立前の部品に対しては一部検査を実施している点に徴し、勧告しない。

 よって主文のとおり裁決する。





日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION