(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成13年9月12日22時50分
北海道釧路港南方沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船第三大徳丸 |
総トン数 |
39トン |
全長 |
26.16メートル |
機関の種類 |
過給機付4サイクル12シリンダ・V型ディーゼル機関 |
出力 |
956キロワット |
回転数 |
毎分1,600 |
3 事実の経過
第三大徳丸(以下「大徳丸」という。)は、昭和53年5月に進水した、さんま棒受網漁業及び延縄(かにかご)漁業に従事する鋼製漁船で、主機として三菱重工業株式会社が製造したS12R-MTK型と呼称するディーゼル機関を備え、主機の遠隔操縦装置を操舵室に装備し、各シリンダには、船首方から右舷側に1番ないし6番、左舷側に7番ないし12番までの順番号が付されていた。
主機の潤滑油系統は、クランク室底部の標準油量150リットルの油受から直結の潤滑油ポンプに吸引された油が、潤滑油冷却器、潤滑油こし器を通過して5.0ないし6.5キログラム毎平方センチメートルの圧力で潤滑油主管に入り、主軸受を経てクランクピン軸受やピストンピン、ピストン冷却油、カム軸、調時歯車装置、動弁注油装置、燃料噴射ポンプ及び過給機等に至る各系統に分流し、各部を潤滑あるいは冷却したのち油受に戻って循環しており、潤滑油主管の油圧が4キログラム毎平方センチメートル以下に低下すると潤滑油圧力低下警報装置が作動するようになっていた。潤滑油こし器は、円筒状ケーシングにペーパーエレメントを内蔵し、クランク室左舷側の潤滑油こし器取付台の下面に取り付けられ、船首側の1個がバイパスオイルフィルタ、その船尾側の4個がオイルフィルタと呼称されていた。また、潤滑油こし器取付台は、内部に油路が設けられた長さ810ミリメートル(以下「ミリ」という。)幅140ミリ高さ197ミリのアルミニウム合金製の鋳物で、バイパスオイルフィルタ及びオイルフィルタ付近にそれぞれ鋳込み孔が開けられ、同孔には、ねじの呼び36ミリはめあい長さ5.5ミリ、ピッチ1.5の六角穴付きボルトの鋳込み孔プラグが合成ゴム製Oリングにより油密のうえ装着されていた。
ところで、鋳込み孔プラグは、亜鉛合金ダイカスト材で製作され、呼び12ミリの六角棒レンチを用いて締め付けるようになっていた。
大徳丸は、毎年8月中旬から11月下旬にかけて北海道釧路港沖合及び三陸沖合の漁場でさんま棒受網漁を続けた後、福島県四倉漁港を基地とし、12月上旬から翌年4月末まで同県相馬港沖合を漁場とするかにかご漁を行い、5月以降の休漁期に船体や機関等が整備されていた。
A受審人は、平成8年12月大徳丸の機関長として乗り組み、主機の運転及び保守にあたっており、同13年7月20日潤滑油、潤滑油こし器のペーパーエレメントを交換し、8月15日さんま棒受網漁の操業が開始された後、1週間を経過するごとに20リットルの同油を補給しながら運転を続けているうち、潤滑油こし器取付台の船首側の鋳込み孔プラグが振動の影響を受けて緩み始め、9月10日02時00分機関室の見回りの際、同プラグ装着部から少しずつ漏油している状況を認めた。
そこで、A受審人は、潤滑油の漏洩を止める際、手持ちの六角棒レンチに呼び12ミリのものが見当たらないまま、これを入手して用いるなど、緩んでいる鋳込み孔プラグの増締めを適切に行うことなく、たがね、ドライバ及びハンマ等で代用して同プラグを締め付けたところ、漏油が止まったことから、締め過ぎでねじ山端部の欠損により締付け不足となっていることに気付かなかった。
大徳丸は、A受審人ほか9人が乗り組み、操業の目的で、船首1.9メートル船尾3.2メートルの喫水をもって、9月12日21時50分釧路港を発し、同港南方沖合の漁場に向けて航行し、主機を全速力前進の回転数毎分1,550で運転中、前示鋳込み孔プラグが再び緩み始め、潤滑油が滴下して漏洩するようになった。
しかし、A受審人は、出港後の甲板作業を終えて単独で機関室当直に入直し、22時10分潤滑油の漏洩を認めた際、漏油が次第に増加していたが、この程度であれば漁場に到着するまで運転を続けられるものと思い、船長に強く要請のうえ主機を停止して漏油を止める応急措置を適切にとらず、同時45分漏油の増加を見てその要請に操舵室に赴いた。
こうして、大徳丸は、主機を全速力前進の回転数にかけたまま航行中、緩みの進んだ鋳込み孔プラグが脱落し、油受の潤滑油量が著しく不足して潤滑油ポンプが空気を吸い込み、潤滑油圧力低下警報装置が作動し、各部の潤滑が阻害され、22時50分北緯42度48分東経144度23分の地点において、3番シリンダのピストンとシリンダライナが焼き付き、主機が異音を発して自停した。
当時、天候は曇で風力3の西風が吹き、海上は穏やかであった。
A受審人は、操舵室からの帰途、主機の自停に気付いて機関室に急行し、潤滑油圧力低下警報灯の点灯及び鋳込み孔プラグの脱落箇所から飛散した漏油を見て油受に潤滑油を補給した後、ターニングを試みたものの果たせず、3番シリンダのロッカーアームやプッシュロッドの損傷を認め、運転不能と判断してその旨を船長に報告した。
大徳丸は、付近の僚船に救助を求めて釧路港に曳航された後、主機が精査された結果、前示損傷のほか、全シリンダのシリンダライナ、主軸受、クランクピン軸受、クランクピン、5番及び7番シリンダのピストン、1番、3番、7番、8番及び12番シリンダの連接棒並びに過給機ロータ軸等の損傷が判明し、各損傷部品が取り替えられた。
(原因)
本件機関損傷は、潤滑油こし器取付台の鋳込み孔プラグの増締めが不適切で、ねじ山端部の欠損により締付け不足となったこと及び航行中に同プラグ装着部から潤滑油が漏洩した際、主機を停止して漏油を止める応急措置が不適切で、油受の潤滑油量が著しく不足し、潤滑が阻害されたことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、主機の運転及び保守にあたり、漁場に向けて航行中、潤滑油こし器取付台の鋳込み孔プラグ装着部から潤滑油の漏洩を認めた場合、漏油が次第に増加していたから、油受の潤滑油量が不足しないよう、船長に強く要請のうえ主機を停止して漏油を止める応急措置を適切にとるべき注意義務があった。しかし、A受審人は、この程度であれば漁場に到着するまで運転を続けられるものと思い、船長に強く要請のうえ主機を停止して漏油を止める応急措置を適切にとらなかった職務上の過失により、鋳込み孔プラグが脱落して油受の潤滑油量が著しく不足し、各部の潤滑が阻害される事態を招き、ピストン、シリンダライナ、主軸受、クランクピン軸受、クランクピン、連接棒、ロッカーアーム、プッシュロッド及び過給機ロータ軸等を損傷させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。