(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成14年3月6日10時03分
大分県津久見港
2 船舶の要目
船種船名 |
貨物船神竜丸 |
総トン数 |
699トン |
登録長 |
68.98メートル |
機関の種類 |
過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関 |
出力 |
1,176キロワット |
回転数 |
毎分380 |
3 事実の経過
神竜丸は、平成4年6月に進水した、石炭灰及び炭酸カルシウムの輸送に従事する鋼製貨物船で、主機としてヤンマーディーゼル株式会社が製造したMF29-ST型機関を、推進器として可変ピッチプロペラを装備し、船橋に主機及びプロペラピッチの遠隔操縦装置を備えており、貨物は主機で駆動される荷役用空気圧縮機で揚げ荷するように計画されていた。
主機は、前部で増速機を介して動力を取り出し、定格出力280キロワットの発電機(以下「軸発電機」という。)及び定格所要動力580キロワットの荷役用空気圧縮機を駆動できるようになっていて、揚げ荷を伴わない停泊中は停止されるが、それ以外は常時回転数毎分360の一定回転数で運転されており、燃料としてスタンバイ中はA重油が、航海中及び揚げ荷中はC重油が使用され、年間の運転時間は約4,600時間であった。
主機の過給機は、石川島播磨重工業株式会社製のVTR201-2型で、ロータ軸がブロワ側及びタービン側各軸受箱内で玉軸受により支持され、玉軸受は各軸受箱内に張り込まれたそれぞれ約0.8リットルの潤滑油で潤滑されるようになっていた。
ところで、過給機は、サージングが繰り返されると、玉軸受が過大な負荷を受けて早期に異常摩耗するので、過給機にサージングが発生するような主機の負荷状態となったときにはプロペラピッチを下げて主機の出力を下げるなり、ブロワ吐出空気の一部を逃がすなりのサージング防止措置を十分にとらないと、玉軸受が定期交換時期前に損壊したり、回転部分とケーシングとが接触したりして損傷するおそれがあった。
A受審人は、神竜丸就航時から機関長として乗り組んで機関の管理にあたり、過給機の開放整備を毎年実施して2年ごとに玉軸受を取り替え、軸受潤滑油は6箇月ごとに取り替えていた。
過給機は、平成9年5月完備品での取替えを要する損傷が生じた際、長期間の運航休止ができなかったので、船主及び過給機メーカーが協議して即納できる、同一形式であるがノズルリング及び出口導翼の仕様が異なる過給機の取付けを検討し、風量が増加するものの排気温度の低下が見込まれることから、同過給機が取り付けられた結果、ブロワ吐出風量が約20パーセント増加するようになり、その後航海中においても荷揚げ中においても主機の少しの負荷変動で瞬間的なサージングが頻発するようになった。
主機メーカーは、A受審人から過給機のサージングの報告を受けて対策を検討し、平成10年6月過給機ブロワ出口管に直径約32ミリメートルの空気逃がし穴を加工して常時空気を逃がすようにしたが、サージングの状況は変わらず、同12年6月風量を下げる目的で当初仕様の出口導翼に取り替えた。その後荷揚げ中においてはサージングが発生しないようになったものの、航海中においては依然主機の負荷変動でサージングが発生する状況であったが、船主及び主機メーカー代理店との連絡の齟齬により、主機メーカーはサージングが解消したものと理解してその後追跡調査は行っていなかった。
過給機は、平成13年6月開放整備され、玉軸受が取り替えられたが、ノズルリングの仕様変更などのサージング防止措置はとられなかった。
A受審人は、航海中過給機に依然としてサージングが発生することを船主や主機メーカー代理店に報告し、サージングが頻発するときは通常全速力前進時15ないし16度としているプロペラピッチを2ないし3度、ときにはさらに下げることがあったが、サージングが発生する海象となった際、サージングが瞬間的なものであり、それまで定期整備までに玉軸受が損壊したこともなかったことから大丈夫と思い、サージングが発生しない程度までプロペラピッチを十分に下げるなり、ブロワ吐出空気を現状以上逃がすなりのサージング防止措置を十分にとることなく、主機の運転を続けた。
A受審人は、平成14年1月過給機にサージングが発生した際、タービン側軸受箱内に排気が侵入して潤滑油が黒く変色し、玉軸受の摩耗進行によるロータ軸の下降が推測される状況となったものの、6月に過給機を定期整備する予定であることから、潤滑油を新替えしただけで、依然、サージング防止措置を十分にとらずに主機の運転を続けた。
こうして神竜丸は、A受審人ほか6人が乗り組み、石炭灰756トンを積載し、船首4.0メートル船尾4.8メートルの喫水で、平成14年3月6日06時45分大分県津久見港の太平洋セメント株式会社津久見工場の岸壁に着岸し、主機を回転数毎分360として軸発電機及び荷役用空気圧縮機を駆動して揚げ荷中、過給機タービン側玉軸受が損壊して回転部分とケーシングとが接触し、同日10時03分津久見港西防波堤西灯台から真方位315度1,230メートルの前示着岸地点において、過給機が異音を発した。
当時、天候は晴で風はなく、海上は穏やかであった。
過給機損傷の結果、主機が運転不能となって荷役が中断され、同港にて損傷した玉軸受、ケーシング、曲損したロータ軸などが新替えされ、また、ノズルリングが当初仕様のものに取り替えられたことにより、過給機のサージングは解消された。
(原因)
本件機関損傷は、過給機の緊急交換によって、全速力前進時の通常のプロペラピッチでは主機の負荷が変動したとき過給機にサージングが発生することが避けられない状況となった後、過給機にサージングが発生する海象となった際、サージングが発生しない程度までプロペラピッチを十分に下げるなり、ブロワ吐出空気を十分に逃がすなりのサージング防止措置が不十分で、サージングの繰り返しで玉軸受の摩耗が進行するまま主機の運転が続けられたことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、過給機の緊急交換によって、全速力前進時の通常のプロペラピッチでは主機の負荷が変動したとき過給機にサージングが発生することが避けられない状況となった後、過給機にサージングが発生する海象となった場合、サージングが繰り返されると、玉軸受が過大な負荷を受けて早期に異常摩耗して過給機の損傷に直結するから、サージングが発生しない程度までプロペラピッチを十分に下げるなり、ブロワ吐出空気を十分に逃がすなりなどのサージング防止措置を十分にとるべき注意義務があった。しかしながら、同人は、定期整備までに玉軸受が損壊したこともなく、サージングが瞬間的なものであったことから大丈夫と思い、サージング防止措置を十分にとらなかった職務上の過失により、サージングの繰り返しで玉軸受の摩耗が進行するまま主機の運転を続けて過給機を損傷させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して、同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。