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 海難審判庁裁決録 >  2003年度(平成15年) > 機関損傷事件一覧 >  事件





平成14年仙審第45号
件名

漁船大和丸機関損傷事件(簡易)

事件区分
機関損傷事件
言渡年月日
平成15年1月22日

審判庁区分
仙台地方海難審判庁(大山繁樹)

理事官
岸 良彬

受審人
A 職名:大和丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士

損害
主機2番ないし5番のピストンと3番、5番のシリンダライナ焼損

原因
主機冷却水の温度監視及び温度上昇警報装置の作動点検不十分

裁決主文

 本件機関損傷は、主機冷却水の温度監視が十分でなかったことと、主機冷却水温度上昇警報装置の作動点検が十分でなかったこととによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
適条

 海難審判法第4条第2項、同法第5条第1項第3号
 
裁決理由の要旨

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成13年8月24日14時00分
 秋田県平沢漁港西方沖合

2 船舶の要目
船種船名 漁船大和丸
総トン数 14トン
登録長 15.78メートル
機関の種類 4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 264キロワット
回転数 毎分1,300

3 事実の経過
 大和丸は、昭和51年9月に進水したかご延縄漁などに従事するFRP製漁船で、主機として、ヤンマーディーゼル株式会社が製造した6BN-DT型と呼称するディーゼル機関を装備し、主機の各シリンダには船首側を1番として6番までの順番号が付されていた。
 主機の冷却水系統は、直結の冷却水ポンプによってこし網及び海水吸入コックから吸引された海水が、潤滑油冷却器及び空気冷却器を経て冷却水主管に送られ、シリンダ、シリンダヘッド及び排気マニホルドを順に冷却したのち、船外へ排出されるようになっており、冷却水温度計が排気マニホルドの出口に取り付けられていた。
 主機の冷却水温度上昇警報装置は、操舵室と機関室に設けられ、排気マニホルド出口の冷却水温度が摂氏60度に上昇すると、操舵室側では赤色の表示灯が点灯して警報ブザーが鳴り、機関室側では赤色の表示灯が点灯するようになっていたが、警報ブザーは取り付けられていなかった。
 ところで、秋田県平沢漁港は、海底に地元でびちと呼んでいる海草の腐廃物が堆積し、出入港時にはびちが舞い上がって主機の冷却水系統に吸い込むことがあり、このため大和丸では、海水吸入コックを2個設け、港内ではこし網の閉塞に備えて1個のみ使用し、港外に出てから2個使用していた。
 A受審人は、大和丸の就航以来同船に船長として乗り組み、操業の傍ら機関の運転保守に従事し、主機冷却水系統の冷却器については、2、3年ごとに開放掃除し、平成11年6月に潤滑油冷却器、同年10月に空気冷却器をそれぞれ開放掃除して、その後の運転に従事していたところ、各冷却器の冷却水側がびちなどで目詰まりして次第に冷却水の通水量が減少するようになり、やがて冷却水温度が常用時の摂氏40度より上昇するようになったが、故障後不装着のままとなっていた冷却水温度計を装着するなどして、冷却水の温度監視を十分に行っていなかったので、同温度の上昇に気付かなかった。
 また、A受審人は、操舵室の主機冷却水温度上昇警報装置の作動点検を長期間行っていなかったので、同装置の電路が断線し、警報が作動しない状態となっていることに気付かなかった。
 こうして、大和丸は、A受審人ほか4人が乗り組み、かご延縄漁の目的で、船首0.8メートル船尾2.1メートルの喫水をもって、平成13年8月24日00時30分平沢漁港を発し、02時15分同漁港北西約14海里沖合の漁場に至り、甘えび等約200キログラムを漁獲し、12時15分同人が単独で操舵室当直に就き、帰途についた。
 大和丸は、主機を回転数毎分1,240の全速力前進にかけ、9.0ノットの対地速力で航行中、主機冷却水の通水量の減少が進んで冷却水温度が警報設定温度以上に上昇したものの、操舵室の冷却水温度上昇警報装置が作動しなかったので、このことが感知されないまま主機の運転が続けられ、やがてピストンが過熱膨張し始めた。
 14時00分A受審人は、平沢港東防波堤灯台から真方位312度1,000メートルの地点において、入港に備えて海水吸入コック1個を閉弁するため機関室に入ったところ、同室の冷却水温度上昇警報装置の表示灯が点灯し、主機が過熱しているのを認めた。
 当時、天候は晴で風力2の南東風が吹き、海上は穏やかであった。
 A受審人は、主機を微速力運転として14時20分平沢漁港に入港したが、主機の過熱状況から、整備業者に開放点検を依頼したところ、2番ないし5番のピストンと3番、5番のシリンダライナに過熱膨張による焼損が認められ、のち焼損したピストン及びシリンダライナを新替えした。

(原因)
 本件機関損傷は、海水冷却式主機の運転保守にあたり、冷却水の温度監視が不十分であったことと、冷却水温度上昇警報装置の作動点検が不十分であったこととにより、冷却水系統の目詰まりによる冷却水温度の著しい上昇が感知されないまま運転が続けられ、ピストン及びシリンンダライナが過熱膨張したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、海水冷却式主機の運転保守にあたる場合、冷却水温度の異常を見逃すことのないよう、故障後不装着状態となっていた冷却水温度計を装着するなどして、冷却水の温度監視を十分に行うべき注意義務があった。しかしながら、同人は、冷却水の温度監視を十分に行わなかった職務上の過失により、冷却水系統の目詰まりによる冷却水温度の著しい上昇に気付かないまま運転を続けて主機の過熱を招き、ピストン及びシリンダライナを焼損させるに至った。





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