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平成14年横審第59号
件名

漁船第三十五石田丸火災事件

事件区分
火災事件
言渡年月日
平成15年2月18日

審判庁区分
横浜地方海難審判庁(花原敏朗、黒岩 貢、甲斐賢一郎)

理事官
井上 卓

受審人
A 職名:第三十五石田丸機関長 海技免状:五級海技士(機関)(機関限定)

損害
主機、過給機、発電機及び電路などが焼損、航行不能

原因
燃料油管接続金物取付けボルトの締付け状態の点検不十分

主文

 本件火災は、主機燃料噴射ポンプの燃料油管接続金物取付ボルトの締付け状態の点検が不十分で、同ボルトが緩んだまま主機の運転が続けられたことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成13年3月30日23時40分
 茨城県鹿島港東北東方沖合

2 船舶の要目
船種船名 漁船第三十五石田丸
総トン数 129トン
全長 42.71メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 713キロワット
回転数 毎分810

3 事実の経過
 第三十五石田丸(以下「石田丸」という。)は、平成8年7月に進水した、専ら探索船としてまき網漁業に従事する、船首楼付一層甲板型鋼製漁船で、機関室が船体中央部からやや後方に配置され、可変ピッチプロペラを装備していた。
 機関室は、上下2段に分かれ、下段には、中央部に主機が、主機を挟んで両舷側に発電機が、左舷側船尾方に主配電盤などが、また、上段には、中央部に主機消音器が、右舷側壁に沿って燃料油重力タンク及び清水膨張タンクなどがそれぞれ据え付けられていた。
 主機は、株式会社新潟鉄工所製造の6PA5L型と称するディーゼル機関で、操舵室から非常停止を含む遠隔操縦ができるようになっていて、燃料油としてA重油が使用され、全速力前進時の毎分回転数の上限を810として運転されていた。また、各シリンダに船尾側を1番として6番までの順番号が付され、1番シリンダ船尾側の架構上に株式会社新潟鉄工所製造のNR20/R型と称する排気ガスタービン過給機(以下「過給機」という。)が設置されていた。
 主機燃料油系統は、燃料油重力タンク中のA重油が燃料油沈殿槽及び燃料油こし器を経て主機直結燃料油供給ポンプによって吸引加圧されて燃料油入口主管に入り、同管から主管ブロックと称する燃料油管接続金物(以下「接続金物」という。)を経て燃料噴射ポンプに供給され、高圧管から燃料噴射弁に至り、シリンダ内に噴射されるようになっていた。また、燃料噴射ポンプからの戻り油が接続金物を経て燃料油出口主管から燃料油重力タンクに戻るようになっていた。
 ところで、接続金物は、鋼製で、ねじの呼びM12全長55ミリメートル(以下「ミリ」という。)の鋼製ボルト2本により、燃料噴射ポンプ本体の左舷側に取り付けられ、両者の間には、長径36ミリ短径20ミリ厚さ2ミリの楕円形に成型加工されたゴム入り石綿製のガスケットが挿入されていた。また、ガスケットは、内径10ミリの通油穴が2個あけられ、同穴の内側が燃料油によって浸食などされないよう、冷間圧延鋼板製の内輪がそれぞれ取り付けられて補強されていた。
 石田丸は、専ら千葉県犬吠埼から茨城県鹿島港にかけての鹿島灘沖合を漁場とし、夜間に出航して翌日の午前中に帰航する航海を周年繰り返し、毎年1回上架して船体及び機関の整備を実施していた。
 A受審人は、平成9年秋ごろから機関長として乗り組み、機関の運転及び保守管理に携わり、航海中、自らが3時間ごとに機関室を巡視するときを除き、機関室を無人としていた。また、同人は、出航時、出航予定時刻の約20分前に機関室で主機を始動し、主機回転数を毎分530の停止回転数に設定したところで操縦位置を操舵室に切り替え、機関室内を点検して異状のないことを確認したのち、出港準備作業における船尾配置に就き、離岸後、再度機関室に戻って各部を点検し、その後の作業などに当たるようにしていた。そして、日頃から機関室の巡視を行うに当たり、各配管系統の継手などからの漏洩(ろうえい)の有無に注意をしていたものの、ボルト類のねじ部の締付け状況について、緩みの有無を確認することまでは行っていなかった。
 石田丸は、平成12年7月に定期検査を受検し、主機全シリンダの燃料噴射ポンプの整備を整備業者に依頼して行い、同ポンプ本体を陸揚げして復旧するときに、燃料噴射ポンプと接続金物との間に挿入されるガスケットが新替えされた。
 石田丸は、その後、主機の運転を繰り返すうち、機関振動の影響を受けるなどして、主機1番シリンダの接続金物取付ボルトに緩みが生じ始めたものの、ガスケットの挿入部から燃料油が漏洩するまでには至らなかった。
 A受審人は、航海中、機関室の巡視を行っていたが、主機燃料油系統に漏洩を認めていなかったことから、接続金物取付ボルトが緩んでいないものと思い、定期的に同ボルトを増締めして緩みがないことを確認するなど、同ボルトの締付け状態の点検を十分に行うことなく、主機1番シリンダの同ボルトが緩んでいたことに気付かず、主機の運転を繰り返していた。
 こうして、石田丸は、A受審人ほか4人が乗り組み、船首2.20メートル船尾3.20メートルの喫水をもって、操業の目的で、平成13年3月30日22時20分茨城県波崎漁港を発し、23時30分ごろ漁場に至り、魚群探索中、主機1番シリンダにおいて、接続金物取付ボルトの船尾側の1本が著しく緩み、燃料噴射ポンプと接続金物との間に挿入されていたガスケットが脱落して燃料油が多量に飛散するとともに、一部が過給機の高温部に降りかかって発火し、23時40分鹿島港南防波堤灯台から真方位078度5.7海里の地点において、機関室が火災となり、主機の遠隔操縦系統の電路が焼損して主機の遠隔操縦が不能となり、主機回転数が低下した。
 当時、天候は曇で風力1の西風が吹き、海上は穏やかであった。
 A受審人は、自室で休息中に船長から主機回転数の制御ができない旨の連絡を受けて機関室に赴いたところ、同室内に黒煙が充満していたことから機関室火災を認めたものの、同室内に立ち入ることができず、一旦操舵室に行って主機を非常停止した。そして、火勢がやや衰えたところで、機関室内に入り、主機フライホイール下方に火炎が残っていたので消火器による消火作業を試みたものの、気が動転していて同器を十分に取り扱うことができず、同器による消火を止め、雑用水ポンプを上甲板上から遠隔始動し、放水による同作業を行って鎮火させた。
 火災の結果、石田丸は、自力航行が不能となり、僚船によって波崎漁港に引き付けられ、機関室を精査したところ、主機、過給機、発電機、主配電盤、照明器具及び電路などが焼損し、のち、いずれも修理された。

(原因)
 本件火災は、主機の運転管理に当たる際、主機燃料噴射ポンプの接続金物取付ボルトの締付け状態の点検が不十分で、同ボルトが緩んだまま主機の運転が続けられ、同ポンプと同金物との間から飛散した燃料油が過給機の高温部に降りかかって発火したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、主機の運転管理に当たる場合、主機燃料噴射ポンプの接続金物取付ボルトが運転中に振動などで緩むことがあるから、定期的に同ボルトを増締めして緩みがないことを確認するなど、同ボルトの締付け状態の点検を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、主機燃料油系統に漏洩を認めていなかったことから、接続金物取付ボルトが緩んでいないものと思い、同ボルトの締付け状態の点検を十分に行わなかった職務上の過失により、主機1番シリンダの同ボルトが緩んでいたことに気付かず、主機の運転を繰り返すうち、燃料噴射ポンプと接続金物との間に挿入されていたガスケットが脱落して燃料油が多量に飛散するとともに、一部が過給機の高温部に降りかかって発火し、機関室火災を生じさせる事態を招き、同室内の機器及び電路を焼損させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。





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